「今宵50年、母と旅をして」

有野利風

第1話【Remorse and determination】

今回、半世紀を過ごして今宵五十余りの中年男、有野利風はこの度初めて母と二人、温泉旅館へ旅することになった。


今まだであれば、バリ島へ向かうこところだが、このコロナ禍の中、日本国外へ出かけることは、なかなか難しい状態となったからだ。


これも何かのきっかけと思い、早速、温泉旅館へ予約を入れた。というのも今までは誕生日には必ず、どちらかへ出かけていたからだ。


今回は母を誘って出かけてみよう、そんな想いがふと頭をよぎった。


一昨年、父が他界し、一周忌法要も終わり、ひと段落着いたというところもあったからだ。父が亡くなったときに悔やんだことがある。


それは、父と母と三人で温泉へでもゆっくりと連れて行っておけば、よかったということだ。仕事にかまけてそういったことはしていなかったのが、非常に悔やまれる。季節ごとにはフルーツや蟹などは、お中元・お歳暮の時期には送っていたが、やはり旅行へ一緒に行けなかったことは、心残りであった。


後悔先に立たずとはまさにこのことなんだと実感した。


ということで、母だけでもゆっくりと親孝行というねぎらいの意味も兼ねて温泉旅行へ誘おう思った。


スケジュールを決めたなら、早速、旅館へ予約を入れる。それと同時に関東在住の僕自身は実家である山口県まで帰省するフライトの予約も入れた。この時点で半年前のことであった。

順調にフライトの予約も温泉旅館の予約もスムーズに取れた。予定がスムーズに進んでいることは、亡き父が導いてくれているような気がした。母へ親孝行をしてきなさいと。

僕は、母へ早速誘いの連絡を入れた。


母の反応はというと、心底喜んでいる様子が電話越しにひしひしと感じ取れた。


というのも父が他界するまで、約十年近く母は父の傍で父の介助をしていた。父が亡くなる最後半年前には入退院を繰り返し、毎日のように母はバスに乗り、父の入院している病院へと付き添いのため通っていた。


そんな状況の中、僕は、都内で仕事をし続け、仕事も兼ねての海外へ行っていた。もっともっと父へも手を差し伸べ、母の助けになれたのではないかと今になって思う次第だ。これがまさに「後悔」というものだろう。


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