リハビリ④

「リョウジさん!リョウジさん、起きてください!」何が起きているのだろうか…。私の両肩を誰が強く握りしめてを激しく揺さぶっている…。若い女性の声だ…。うん?両肩?意識することもなく両目が開く!身体だ!身体がある!


「リョウジさん、ようやく起きられましたね。起きるのをずっと待ってたんですよ!」仰向けになった上半身をムクっと起き上げる。目の前にいるのは若い女性だ…。少し観察してみる…。少し小柄な女性だが非常にスタイルもよくモデルのような顔立ち。美人といえる部類だ。その容姿に妙にマッチしていない一昔風な事務員の制服姿…。彼女は一体、何者なんだろう…。そして、「リョウジさん」と私は呼ばれていた…。


「あの…すいません…。つかぬ事をお聞きしますが、私の名前は、リョウジなんですか?そして、あなたはどなたでしょうか?あと、ここはどこですか?」私は、とりあえず、目にいる名前も知らない事務員の制服を着た女性に質問することにする。


「あああ!すいません…。突然、名前を呼ばれても分からないですよね!転生したばかりなのに…。私ってウッカリしていました。私の名前は南山 八千代といいます。あなたの助手をするように創造神さまより御神命を承っているものです。そして、この場所は特別神務機関局…。略して『SGMA』です。あなたの今の名前は、阿武隈 遼司という名前で、この特別神務機関の局長ということになっています。」


「あ、あの…八千代さん?それとも…南山さんとお呼びした方が宜しいでしょうか?」


「私の呼び名はどう呼ばれても構いませんよ。ただ、そんな丁寧な言葉は私や創造神様、そして関係者以外の方には使わないでくださいね!一応、この世界では遼司さんはハードボイルドな局長という設定になっておりますので。フフフッ。」


妙に昔から聞きなれているような抑揚のある声だ。ハードボイルドという設定なのであれば、八千代と呼び捨てにすべきなのか…。兎に角、驚こうにも唖然とし過ぎて意味が分からない言葉ばかりが飛び交うばかりで、さっぱり分からない。とりあえず、1つ1つ、八千代さんに尋ねてみようと思う。


「八千代さん?」


「はい!何でしょう?」


「えええっと…。先程、言われた事も含めて、面倒でしょうが本当に何も分からないので色々とお尋ねしても良いですか?」


「勿論、遼司さんがお尋ねしたいことには、可能な限りはお答えしますよ。可能な限りというのは私にも色々と、創造神様より制限がありまして言えない事もございますので…。それはご了承ください。あと、遼司さんは今、転生したばかりですので、お疲れではないのですか?お茶とかお水とかお持ちしましょうか?」


八千代さんは私にそう尋ねた。そう言われてみると、私はこの阿武隈 遼司なる男性に転生したばかりだった。久方振りに感じる5体満足な感覚…。

飲み物…そう、私が現世の世を去るまで何かを口にするというのは、いつぶりなんだろう…。そういう感覚さえも覚えていない…。とりあえず、水を…コップ1杯の水を八千代さんに持ってきてもらうようにお願いすることにする…。


「では、水を飲みたいので、コップ1杯ほど水を持ってきてくれませんか?」


「分かりました。冷たい方が良いですか?それとも温かい方がよいですか?」八千代さんの声…。


「いえ、特に気にしていませんので、普通の水で大丈夫です。」


「それでしたら、ウォーターサーバーのお水で大丈夫ですね。」


八千代さんはそういうと、部屋の傍らにある不思議な流線形の機械の上に紙コップを置き、幾つか光るボタンの1つを押した。紙コップの中に静かに流れ落ちる水の音…。昔、良く妻が弁当作りができない日などに寄っていた一般食堂でみかけるような四角い形をしたものではなく、何だか未来的な機械だ。


「はい。遼司さん、お水です。」


「あ、ありがとうございます。」


八千代さんから水が入った紙コップを受け取る。紙コップの上に漂う小さな水面をみるのも、いつぶりだろうか…。口を開け思い切り飲み干してみる…。懐かしい感覚…。たった紙コップ1杯の水にも関わらず、何と身体全体に染み入るものなのか…。ちょっとした感動を覚えながら、私は一気に飲み干し空になった紙コップの丸い底をぼーっと見つめた。


「遼司さん、お水たりませんでしたか?」


八千代さんが私に尋ねる。


「いいえ、ありがとうございます。水どころか何かを口にしたのは、久方ぶりのものでして…。」


私がそう答えると八千代さんは一瞬、悲しそうな表情をしたように見えたが、直ぐに先程と同じような至って冷静な顔付きに戻った。


「それで、私にお尋ねしたいこととは?」


「八千代さんは私が異世界転生となるもので、この阿武隈さんですか?その人になって事は知っているんですね?」


「それは勿論、創造神様の御神命で遼司さんのサポート役を拝命されましたので!」


「私は、ショロトルさんですか…。あの黒い子犬の姿をした神様の事です。その方から異世界転生して正義の味方をするように言われたんですが…。そういう話もご存じですか?」


「知っているも何も、この特別神務機関局『SGMA』こそが、その正義の味方をする創造神直属の特別機関ですから…。」


「そ、そ、そうなんですか!では、特別神務機関局ということなので、八千代さん以外にもここに務める方はいらっしゃるんですか?」


「いますよ。でもこの建物自体にいるのは、ほぼ遼司さんと私だけです。NPCという方々の話は聞かれましたか?」


「は、はい!この世界にはプレイヤーと呼ばれる現世生きている方と、この世界の中でしか活動できないノンプレイヤーキャラクターと呼ばれる方がいると…。」


「結論ですけど、この世界にいる、ほぼ全てのNPCがあなたの部下という事になります。これでOKですか?因みに、何故、ほぼなのかは、元々はNPCだった存在がバグ…。つまり故障してですね。悪者になったりする場合もあるんです。そういうバグとよばれるNPCを処理するのも、正義の味方であるあなたの役割です。まだまだ、お聞きしたいことがありそうなご様子ですね。言葉だけでは分かりにくいと思いますので、スクリーンに投影して説明いたしましょう。少し、部屋を暗くしますが宜しいでしょうか?」


「えっ!は、はい。」


私がそう答えると、八千代さんはどこにいうでもなく、こう答えた。


「スクリーンを投影するので部屋を暗くして!」


その言葉と同時に一瞬で部屋が薄暗くなる。そして、天井から突如、飛び出す投影機…。その凄さに私はただ、口をあけたまま唖然とするだけだった…。



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