第28話 命がけの夫婦生活

 その夜、差江島結衣はベッドの上で寝転がりながら中学生の時に真二と一緒に撮った写真を眺め、真二に思いをはせていた。


 二口女全てがやっていることだが自分の正体を隠して真二に告白なんていいのだろうか、もし真二と結ばれても自分がモンスターであると知ったら真二はどんな反応をするだろうか、それを押さえられない気持ちとセットで悩み、そわそわと落ち着かない様子で「うぅ」とうなりながらごろんと転がるとベッドの上から落ちてドスンと音が下の階まで響く。


「あの子最近、落ち着き無いわねえ」


 下の階でコーヒーを飲んでいた結衣の両親のうち、母の由美(ゆみ)が天井を見ながら娘の行動を不思議がる。


 結衣の母は彼女よりも髪が長く、後ろ髪は膝の裏まで伸びている、そして肌が白く、一〇人いれば一〇人全員が認めるほど綺麗な人だが無論、結衣と同じ二口女だ。

それに対し和人の友人でもある夫の光一はにやりと笑い言う。


「ふっ……恋だな」

「恋?」


 疑問を投げかける妻に光一は高校生のときはかけていなかった眼鏡のレンズを光らせ眼鏡をくいっと上げる。


「そのとおり、そうかそうか、我が娘も色を知る年頃か……あいつのことだ、自分の正体がバレるのが恐いんだろ」

「……」


 光一の言葉に由美の表情が曇る。


「……そっか、あの子も……ねえコウちゃんやっぱり普通の人は人間じゃない奥さんなんて嫌かな?」

「由美?」


 下を向き、寂しげな表情で沈黙する妻の姿に光一は立ち上がると側に歩み寄り、彼女の美しい黒髪を撫でながら言う。


「言っておくけど、俺は後悔なんてしてないぞ、現に今だって美人の妻とかわいい娘に囲まれて幸せな生活を送っているし、人間じゃないからこそこうやっていつまでも若くて綺麗な妻と一緒にいられる」


 光一は和人や美月同様、亜人間(デミヒューマン)特有の老化の遅延のおかげで未だに二〇歳の肌の首にキスをすると続けて由美の髪にもキスをしながら彼女の胸元をなでる。


「ちょっ、やっ……」

「愛しているよ由美、特にこの長くて綺麗な髪は気に入っている、この気持ちは死んでも変わらない」


 そう言いながらなおも髪と胸をいじり続ける光一に由美は顔や首元どころか体全体がうっすらとピンク色に染まるほど赤面し涙目で叫ぶ。


「もう! コウちゃん!」

「いっ!?」


 由美と声と同時に彼女の髪が長く伸び光一の右足首に絡みつき、そのまま天井までつるし上げるてさらに残りの髪が光一の体に巻きつき締め上げ、髪の中からベキとかボキとかいう不吉な音が聞こえてくる。


「もう、コウちゃんたら、そういう恥ずかしいセリフは禁止っていつも言っているでしょ、それに私の髪は皮膚と同じで触覚があるんだから、あまりいじっちゃだめっていうのも知ってるでしょ……」

「ちょっ、由美さん、そろそろ離し……ぐぁっ!」


 ビキ ベキ グチャ


 鈍い音のあとに光一の体は開放されドスンという音を鳴らして床に叩きつけられる。

 由美は羞恥のあまり両手で顔を覆う。

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