吸血鬼と狼男のハーフが最強

鏡銀鉢

第1話 ウェアウルフボーイ・ミーツ・ヴァンパイアガール

 二〇三五年、夏、小学校の授業が終わり、少女は帰路につく、その途中、彼女はふらつく頭を片手で支えながら溢れ出す衝動を押さえようと必死に耐える。


 どうしようもない感情、押さえ切れない思い、生物、少なくとも哺乳類の三大欲求と言われる食欲、睡眠欲、性欲などとは比べ物にならない、吸血鬼(ヴァンパイア)特有の吸血衝動、自分はなんて馬鹿なんだろうと彼女は悔やむ、いつもは学校に血液の入ったパックを持っていき、昼休みになると隠れて血を飲んでいたのに肝心の血液パックを忘れてくるなんて、今までこんなことはなかった。


 現代の吸血鬼(ヴァンパイア)は普段は保存用の血液を飲み、緊急時にのみ人から直接吸血する、だが幼い彼女にそれをするだけの技術は無い、人間達に吸血鬼とバレないように、そして魔道協会から抹殺処分が下らないようにうまく吸血できるのは大人の吸血鬼(ヴァンパイア)だけだ。


 しかし吸血衝動は収まらない、本人の意思に反して増大し続けるそれは誰でもいいから近くの人間を噛めと喚きたてる、いくらダメだと言い聞かせても言う事を聞かない体、そして彼女は目の前にいた帰宅途中の少年の背後に近づく。


「……もう……ダメ……」


 彼女が少年につかみかかろうとした瞬間。


「なんだお前?」


 少年は振り返ると鋭い眼光を少女に突き刺し腕をつかむ、少女は驚き動きが止まってしまう。


 おかしい、いくら冷静さを失っているとはいえ吸血鬼(ヴァンパイア)である自分が人間に気配を悟られるなどありえない。


 だが彼女の様子を見ると少年は気付いたように「んっ」と声をあげた。


「お前吸血鬼(ヴァンパイア)か?」


 少年は辺りをきょろきょろと見回す、しかし辺りに人間は一人もいない、吸血鬼(ヴァンパイア)に詳しいわけではないが口を空け、長い犬歯を剥き出しにしたまま顔を赤くし息を切らす彼女のようすから吸血衝動に駆られているのはわかったしそれがとても辛いのも知識として知っている。


 少年は舌打ちをすると「しょうがねえなあ」と言って彼女の頭をつかみ、彼女の顔を自分の首に押し当てる。


 ガブ


 彼女は迷わず噛み付き血を吸った。その瞬間、口いっぱいに広がる血の味、どんな飲み物とも違う不思議な味、だがおかしい、少年の血は今まで飲んだどの血よりも濃厚でおいしかった、彼女は血を吸うのを止められずそのまま少年を押し倒す。


 しばらくすると彼女は吸血に満足し口を離す。


「お、おいしーい……」


 少女の顔は少年の血の味に酔いしれ緩み、頭の中で何度もその味を思い返す。しかしその数秒後、彼女の頭にやっと少年のことが入ってくる。


 見ると彼はぴくりとも動かずただ一言「……吸い過ぎだ」と呟いた。


「え!? あっと、ごめんなさい、あんまりおいしい血だったからその……」


 少女は慌てふためき周りをキョロキョロと見回し、公園のベンチに気付くと血を抜かれすぎて動けないでいる少年をズルズルと引きずりそこまで運んだ。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ●【電撃文庫】から【僕らは英雄になれるのだろうか】本日発売です●

 電撃文庫公式twitterではマンガ版を読めます!


https://twitter.com/tatatabaty/status/1511888218102267905?cxt=HHwWgoCswd6Up_spAAAA

 主人公合格編


https://twitter.com/bunko_dengeki/status/1512023759531950089?cxt=HHwWkoDS7aTm5PspAAAA

 魔力出力測定編


英雄に憧れた全ての少年に贈る、師との絆が織り成す学園バトル!


人類を護る盾であり、特異な能力の使用を国家から許可されているシーカー。

その養成学校への入学を懸けて、草薙大和は幼なじみの天才少女、御雷蕾愛との入学試験決勝戦に臨んでいた。しかし結果は敗北。試験は不合格となってしまう。


そんな大和の前に、かつて大和の命を救ってくれたシーカーの息子、浮雲真白が現れる。傷心の大和に、大事なのは才能でも努力でもなく、熱意と環境であり、やる気だけ持って学園に来ないかと誘ってくれたのだった。念願叶って入学を果たした大和だが、真白のクラスは変人ばかり集められ、大和を入学させたのにも、何か目的があるのではと疑われ──。


ニワトリが飛べないのは才能でも努力でもなく環境のせいだ! 無能な少年と師匠の出会いが、一人の英雄を誕生させる──。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る