第24話

「お前、これっ……!」



「今の時代、証拠を残すくらい簡単だよ?」



もしものときのために、3人にやられたことのほとんどは録音してある。



でも、こんな風に役立つときがくるなんて思ってはいなかった。



「なにが目的だ」



男の額に汗が浮かんでいる。



緊張してゴクリと唾を飲み込む音も聞こえてきた。



俺を怖がっているのが見て取れて、笑いそうになってしまった。



「さっき言っただろ、酒を売ってくれ」



「そ、そんなことでいいのか?」



どうやら仲間には日ごろから酒を売っているようで、安堵した表情になった。



俺はピーチ味の酒を2本購入してコンビニを出たのだった。


☆☆☆


俺が酒を購入した目的は自分の気持ちを落ち着けるためだった。



普段毛嫌いしている父親がいつも飲んでいるものに頼るのは気が引けたけれど、最愛のなっちゃんのためなら酒だって飲むことができた。



酒の缶を片手に広場まで戻ってきても、まだ2人に動きはなかった。



でも、いつまでも家の中に閉じこもっているわけにはいかないはずだ。



こうして見張っていれば必ず家から出るときが来る。



その瞬間まで帰る気はなかった。



「夏美と裕也、いつからそんな関係になったんだろうね」



酒の缶を開けようとしたとき、そんな声が聞こえてきて俺は手を止めた。



見ると、なっちゃんの家へ向かって歩いている2人の女子生徒の姿があった。



なっちゃんがインツタで写真を上げていた、松木心と柳原彩に違いない。



背の低い心の方は買い物袋を持っていて、これからなっちゃんの家に向かうことがわかった。



俺は咄嗟に広間から飛び出して、2人の前に立ちはだかっていた。



この2人についていけばなっちゃんの家に入ることができる。



その気持ちが湧き上がってきて、後先考えていなかった。



突然出現した俺に驚き、足と止める2人。



彩の方はすぐに険しい表情になり、警戒しはじめる。


「や、やぁ、こんにちは」



俺はなれない笑顔を浮かべて挨拶をする。



初めて見る女の子を前にして『やぁ』なんて声をかけたことは一度もない。



たったそれだけの言葉が裏返り、妙なイントネーションになってしまった。



背中に汗が流れていく。



「あんた誰」



彩が心の前に出てハッキリとした口調で聞く。



身長は俺と同じくらいなのに、なぜか見下されているような感覚になった。



「お、俺は、なっちゃんの友達だよ」



「なっちゃん? って、夏美のこと?」



彩は怪訝そうな表情で首をかしげている。



「心、この人のこと見たことある?」



「ないよ」



ひそひそと会話を続けて俺のことを全く信用してくれていないことがわかった。



「俺も、お見舞いに来たんだけど、なっちゃんは今外出中みたいだ」



「それ、本当のこと?」



心も俺に疑いの目を向けている。



「本当だよ。そうだ、3人でなっちゃんの帰りをまとうよ」



「いいけど、それは?」



彩に指摘されて自分の持っている酒の缶に視線を落とした。



まずい。



こんなところで酒を飲もうとしていたことがバレたら、お見舞いが嘘だとバレてしまう。



俺は咄嗟に缶を背中に隠した。



「ジュースだよ。病気のときは、甘いものとかいいかなって思って」



「ふぅん?」



彩はまだ不振そうな表情をしているが、俺は背を向けて歩き出した。



どうにかこの2人を利用できないだろうか。



なっちゃんとあの男が出て来ざるを得なくなるような方法がないか……。

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