第19話

2人でご飯を食べて、学校へ行く準備を整えたとき、昨日からスマホの電源を切っていたことを思い出した。



両親から連絡があるかもしれないから、念のために確認しておこう。



「え?」



電源を入れた瞬間インツタからの通知が十数件入ってきてあたしは目を見開いた。



「どうした?」



裕也が横から画面を覗き込んでくる。



あたしは嫌な予感を抱えながら、インツタを表示させた。



すると、そこには……。



《どうして玄関を開けてくれないんだ》



《カレー、俺と一緒に食べるんだろ?》



《一緒にいる男は誰だ!?》



ジュンからのそんなコメントが10件以上書き込まれているのだ。



あたしは短い悲鳴を上げてスマホを落としていた。



昨日玄関モニターに移った男の顔を思い出す。



あれがジュンだったんだ!



裕也がすぐに取り上げて、「こいつをブロックしろ」と、あたしに手渡してきた。



「う、うん」



あたしはうなづき、震える手でジュンをブロックする。



それでも落ち着くことはできなくて両手でスマホを握り締めた。



どうしよう。



どうしてこんなことになったんだろう。



考えてみても心当たりは全くなかった。



これから学校へ行くにしても、まだジュンがあたしを見張っている可能性がある。



安易に外を出歩くこともできなかった。



「落ち着いて、大丈夫だから」



裕也があたしをソファに座らせて言った。



「スマホを見せて。なにが原因でこんなことになったのか調べてみよう」



そう言われて、あたしは素直にスマホを渡した。



裕也はあたしのインツタをさかのぼって確認しているようだ。



「ジュンってやつの書き込みはここ最近になってからだな。それまではなかったのに、どうしてだろう」



そんなのあたしにもわからない。



インツタは不特定多数の人に見られるように設定しているから、偶然見つけたのかもしれない。



問題はそこじゃなかった。



どうしてあたしの家を特定することができたのかだ。



さすがのあたしでも、そこまで不用意な発言はしていないはずなのに……。



「まさか、これが原因で家を特定されたとか?」



裕也があたしの写真を遡って見ていたとき、あたしは自分の部屋で撮った写真に気がついた。



これには鏡が写っているのだ。



「嘘だろ……」



裕也も愕然としている。



写真を拡大してみると、鏡の中に窓の外の景色が写りこんでいることがわかった。



その電信柱には、住所を特定できる番号の記載もある。



それを見つけた瞬間、全身から力が抜けていくような感覚がした。



「なんとしてでも相手の居場所を特定したい相手は、こういうものも見落とさないんだ」



裕也はそう言って悔しそうに歯をかみ締めた。



さっきから背中に寒気を感じて震えはますます強くなっている。



こんな恐怖にさいなまれたこと、今まで一度もない。



ジュンという男はどうしてかあたしに執着して、家まで突き止めてしまった。



「今日は学校を休もう。俺も一緒にここにいるから、大丈夫だから」



裕也の言葉に、あたしは力なくうなづくばかりだった。

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