3.大覚寺

 翌朝、僕は瑠香と大覚寺に行った。大沢池の周りを二人で歩いた。僕たちは池に浮かぶ天神島を眺めながら立ち止まった。大沢池の水面みなもの透き通った青色の中に瑠香の美しい顔が浮かんで揺れていた。


 瑠香も僕と一緒に池の水面を見ていた。水面の中の瑠香が僕に言った。


 「こわいの」


 僕は驚いて瑠香の顔を見た。大沢池の水面に反射した光が、水の青色を瑠香の顔に映し出していた。


 「えっ、こわい? 昨日の念仏寺でもこわいって言ってたよね?」


 瑠香は少し恥ずかしそうに下から僕の顔を見上げた。


 「幸せだから・・」


 僕は瑠香に幸せと言ってもらえて、うれしかった。しかし、僕は何と答えていいか分からなかった。僕は黙っていた。


 少しして、瑠香がぽつりと言った。


 「人生ってね・・幸せと不幸せがちょうど半分半分になるように出来てると思うの。だから、不幸せな事が起こった後には必ずいいことが起こるの。その一方で、幸せなことがあったら必ず良くない事が起こるの・・・前もそうだった」


 瑠香は視線を僕の顔から大沢池の水面に戻した。大沢池の水面の透き通った青色の中に瑠香の白い顔が浮かんで揺れた。


 僕は黙って水面に揺れる瑠香の顔を見つめていた。その顔は・・とっても悲しそうで、僕は言葉を失ってしまった。


 しばらくして、水面の瑠香が口を開いた。


 「私ね・・いま、とっても幸せ。だから、こわいのよ。この幸せの後には不幸せがやってきて・・幸せを壊してしまうことが・・・」


 僕は思わず瑠香を抱きしめていた。


 「瑠香。僕は君を離さないよ。そしてね、幸せの後には不幸せじゃなくて・・もっと素晴らしい幸せが来るように努力するよ。だからね、もう怖がらないで・・」


 「ありがとう」


 瑠香の眼から大粒の涙がこぼれた。瑠香の涙に濡れた顔が僕に近づいた。


 大沢池の水面の透き通った青色の中で、僕は瑠香に口づけをした。


 


 

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