第10話

scene10 お茶漬けと依代


翌朝。

今日の朝ごはんは神楽坂では珍しいお茶漬けです。


鮭茶漬け、白菜麹漬け、お番茶


シンプルにお茶漬けのみの朝ごはん。

焼いた塩鮭、あられ、三つ葉。


ぽてっとした厚手の器に盛り付けられています。

ふっくらと焼いた身のみの塩鮭。皮のみを身から分けたもの。

鮭皮はパリッと焦げめが付くくらいに焼いたもの。

焼鮭は身と皮で焼き加減を変えてあります。

そこにピンクや赤、緑と細かなあられがふりかかって見た目にも華やか。

シンプルなんだけど美味しそう。

三つ葉が全体に爽やかさを加味。

刻み海苔が別添え。


シャキシャキ。

箸休めに。

ナナさんお手製の白菜麹漬けもいい塩梅。


さらさらといただく鮭茶漬けです。

魚や鳥の皮って正直苦手だったんですが、パリッとしてこれはおいしい!


今日もまた、、、


「ナナさん、今日の朝ごはんも美味しいです!皮って苦手だったんですが、とってもおいしいんですねー!」


「そうでしょ。バリバリにしたら、おいしいでしょ。女子の苦手な鳥の皮でもよく焼いたら美味しいんだから」


「はい!今日も朝から最高です!」


食後。

玉ちゃんと帰った昨日のことを、2人にに話しました。


「ほぉ。桜の精ですか。あの神社で。珍しいですね」


「おじいさんなのね」


「はい、おじいさんでした」


「桜の精は、桜の古木に憑く精霊の一種なんですよ。

梅や桜は昔から日本人に愛された花木ですからね。

自然、人の思いも深くなりますからね。

美しく咲いた花やその散り際を愛でる人の強い感情が生んだものとも言われますね」


「へぇー。そうなんですね」


「歩いてこそ得られる知識、これぞフィールドワークですな」


「はい。勉強になります!」


「瑠璃ちゃん、任しとき!」


なぜか玉ちゃんが得意げです。

柔かな笑顔で八雲先生が言われました。


「玉ちゃんと2人で作った桜の精とのご縁ですね」


「はい」


「じゃあ、週末は桜もちを作って送ろうか」


ナナさんが言います。


「えっ?送る?」


「そう、桜の精を送ったげるのよ」


「どこからですか?」


「もちろん」


ナナさんが神棚に視線を向けます。


「えっ?この神棚ですか?」


「そうよ」


「で、そのときにお供えするのが、桜もち。送る神さまや精霊などに由縁のあるもので送るの。桜の精だから、さくら餅。

で、私たちが、そのお下がりをあとでいただくってわけ」


「瑠璃子くん、もう一度桜の精に会いに行っておいで。

そのときに依代に憑ってきてもらってね」


「依代?」


「漢字で書くと、依代や憑代だね」


先生が、万年筆を取り出して漢字を書いてくれます。


「依り憑く対象ってことだね。

ご実家の神社もある意味では依代。神さまが降りてくるところだ」


「へぇーそうなんですね。私、実家のこと、何も知らなくて」


「まぁ、今はそうしたことを知らない人のほうが多いからね」


「でも先生、さくらの精のおじいさんに憑ってもらう依代って、どうしたらいいんですか?」


「ああ、それは心配しなくていいよ。今のこの話を桜の精に話せば、教えてくれるよ」


「はい、、、なんかよくわからないけど、、、。おじいさんに話をしてみます」


「大丈夫。玉ちゃんもついてるから、なんの心配もいらないよ」


ナナさんも言います。


「じゃあ玉ちゃんにご褒美をあげよう!」


「ナナはん、おおきに!」


うれしそうにチーズにかぶりつく玉ちゃんです。

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