大陸に
第24話 用意どん(雷名)
~語り手・雷鳴~
「航空機も六時間交代ですね」
「もうそのスケジュール、慣れちゃったなあ」
現在、アザは解放された俺の『治癒・痛覚鈍麻・五』で、なんとなくヒリヒリする状態が最初の六時間は維持されている。
残りの六時間は鈍痛に耐えて貰うが、前より相当マシなはず。
十二時間に一回、俺は『治癒・痛覚鈍麻・五』を皆にかけている。
被害状況は
フリウ:両肩からヘソ、背面まで。手首は無事。
雷鳴:右左腕肩まで。肩の後ろも。手首は無事。
ミシェル:右腕の肩までと左肩の肘まで。手首は無事。
ヴェル:両肩から左肩、肩と首。手首は無事。
血の麦は有限だけど、1日でこれなら一粒で済む、これは頼んだら姉ちゃんが補給をしてくれる可能性はあるのだが。
前とかける強度は変わらないが、『治癒』の術は解放されいるので、発揮される効能は随分違う。
俺たちは羽小江山近くの軍基地に帰還中だ。
今、思いついたんだけど―――。
「この慣れ親しんだ装甲兵員輸送車にも、もうちょい、改造を施してやろうと思う。勿論、羽小江山の軍基地についてだ。今度意見を聞かせてくれ」
今回の道行きは、急ぐことは無いんだ。そう『勘』も告げている。
だからフリウが情報を聞いたという、ユーザー(女性)も助け出してから行こうと思う。ついでに、その羽小江山のルート上にいる人達を、助けて回る。
何より心配だった、ラブホにかくまった障害者の娘さんとお母さん。
主にお母さん。たくましく生きててくれたんで、回収した。
後は「異空間病院」に行ってもらうだけだ。
あと、俺達は、美織ちゃんの遺体を燃やしに行った。
ずっと心に引っかかっていたのだ。多分ミシェルも。
酷い有様になってはいたが―――
『教え・血の魔術・呪いの業火』
綺麗な骨と灰にして、彼女の遺灰は海に撒いた。
実家とか知らないから。これで許してほしい―――。
もちろん、つつじちゃんも家に戻した。
学校に潜入して、生徒名簿を盗み出したのだ。
それには「虚言・潜み十」を使った。
だが、授業風景の様にゾンビが席についていて、教師もいたのには寒気がしたが。
つつじちゃんの両親はゾンビになって、仮初の生活をしていたので「浄化」した。
『教え・血の魔術・呪いの業火』で他の物を燃やすことなく、灰にしてあげたのだ。
全員の体を、家にあった布類で包んで、悪魔なりの死者への敬意―――敬礼―――をして、全部つつじちゃんの部屋に安置した。
羽小江山の「軍基地」に着いた。
滑走路の飛行機に皆で駆けよる。
これが、第二の移動手段になる、K-ca。愛称「ウィングブル」。
後尾の扉を開けると、大きな収納空間が現れた。
「装甲兵員輸送車」が乗るのも、何の問題もなさそうだ。
ここで、俺は全員に、問いかけた。
「この「装甲兵員輸送車」に名前を付けないか?」
改造されまくって、元の面影がないコイツに「名前をあげないか」と切り出した。随分馴染んだ代物だし。
全員が悩みだす。悩む程度に皆、こいつに愛着を持っているのだ。
制作者として純粋に嬉しい。
フリウが発言した。
「「ライノ(犀)」はどうですか?いつも頼もしいので」
「ああ、いいですね、いつもゾンビをかき分けて進んでますもんね」
いつもこいつのルーフの上から見下ろしているリリ姉が言う。
「製作者の名前にも似てるし、良いんじゃないかな」
この余計な一言はミシェルだ。
後の一人―――ヴェル―――も反対なし、だ。
「了解。こいつは今からライノだ!今から、俺は今から「ライノ」の改修にかかる事にする。皆は「ライノ」に乗せる物資と「ウィングブル」に乗せる物資を運んできてくれ。頼んだぞ」
「「「「了解」」」」
改造結果
バンパーを張り出した奴に変えた。
特に障害物をかき分けやすいように、先を尖らせた矢印の傘状に作り変えた。
勿論ゾンビの取りつき防止だ。
取りつこうとしてる間に、リリ姉が撃てるように。
勿論運転席から操作できるルーフ前面上にも、機関銃を取り付けた。
取りつこうとしてるゾンビの、丁度脳天に行く様に。
勿論上下左右のコントロールは効く。
間違っても、エンジンに当たらないような角度に取りつけた。
ちなみに、リリ姉のショットガンと、車に取りつけた機関銃でエンジンまで―――よく壊れなったな―――破損していたので、エンジンを乗せ換える。
そして、ボンネットに装甲を取り付けた。ターボチャージャーもつけよう。
リリ姉にはショットガン―――飛散するから―――ではなく、空気砲を使ってくれるよう頼もう。
あと、荷物置きと、人間のいる場所をはっきり分けた。
リリ姉が乗る所とは鉄柵を丈夫にした。
荷物置き場は鉄柵を新しく背が高く丈夫な奴に変えた。物を括り付け易いように。
あとは、塗装だ。真っ黒にしていたが、それでは戦場が都市の場合―――確実にそうなると『勘』が告げている―――夜しか役に立たない。
なら、いっそ目立つ改造しても良いだろう。
派手にアートを施そうか。ゾンビが寄って来なさように願掛けして。
俺は、塗装工場のエアブラシをすちゃっと手に取った。
背景は黒のままで書き始める。俺は、エアブラシアートを駆使した。
「犀―――ライノ」を立体的にこの「装甲兵員輸送車」の両面に描いた。短剣製の角もつけた。側面には赤で「rhino(ライノ)」と描いた。
ホイールまで灰色―――足のペイント―――にした。
皆は、「ウィングブル」と「ライノ」に置く物資を運び入れたようだった。
俺はマットレス。「ライノ」用のものを。
特別室の、特別柔らかい奴だ。
三枚重ねは―――普通は重ねなくても重い―――重かったので、思わず「剛力五」を使ってしまった。
後は、いいソファを設置して、万一の時は全員車内で寝れるように。
こういうのは、今は身体能力が常強化されてるヴェルに任せるといいんだけどな。
ソファももっといい奴にする。
お偉いさんのであっただろう部屋に行き、ソファを略奪してきたのだ。
車につける仕様ではないそれを、改造するのには手間がかかった。
だが、現在、上半身がアザで痛い俺達―――特にフリウ—――には必要な設備だ。
それと、なんであるのかよく分からないが、折りたたみ机を5つほど。人数分だ。
その他にも文具をかき集めてきた。これでPCが使いやすくなる。
他の皆はとりあえず「ウィングブル」に積み込むものを。
見に行くと、フリウはフラッシュバンを根こそぎ持ってきていた。
「役に立ちますからね。キングとの決戦でも役に立ってくれたので」
普通の手榴弾も根こそぎ持ってきていた。
「キング」との決戦で意外と役に立ってくれたので………と照れ笑いしていた。
確かに容赦なく使っていたな。
あと、キングとの戦いに備えて、迫撃砲を持ってきていた。
フリウ………これは戦争かい?………まあ戦争だな。
ヴェルは「ジャマハダル」を見つけて、持ってきたらしい。
どこにあったんだっけ?
姉ちゃん、これまで再現したのか。
「これから、巨大な脳を攻撃する機会があるなら、これは役に立つ」
「まあ、その通りなんだけどさ」
あと、今の拳銃に合う玉一式。全てリボルバーだ。
今のとは規格が違うから使ってない、でも弾が尽きて取り換えざるを得ない可能性を見据えて、威力のある拳銃と弾を全部持ってきたらしい。
適当に選んで、サブウェポンとして持ち歩くべきかもしれない。
それと個人個人ではすでに持っているが、「投擲用」と称してアーミーナイフを全部持ってきたらしい。それには手斧と、鉈も含まれていた。
かさばる、と言っていたが、ガイアでは運べるだけすごいよ。
「これも役に立つ、キングもこれでハリネズミにしてやれば良かった」
「ああ、だから予備の武器をたくさん………」
呆れた。
ミシェルは、戦用糧食を大量に持ってきていた。筋力が解放されただけはある。
ここの戦用糧食は、まずくもないけど、おいしくもないんだけどな。
でも腐らないし、これだけあれば一年は無くならないし。
まあ、いいや。
近くのスーパーから乾物と真空パックをの食べ物をを持ってきているし。
あと、ビールとかチューハイ、ワインを大量に。水と比べて腐らないからね
いや、マジで皆酔わないんだって!!全員成人だし!
「ウィングブル」には、冷凍庫も多数設置したので、冷凍食品も食べれる。
燃料が途切れない―――冷蔵庫が作動し続ける―――のは、良い事だ。
冷凍食品の確保は近くのスーパーから、リリ姉が山ほど買ってくれていた。
姉ちゃんは、取り合えず、と、お金も置いていってくれたのだ。
調理器具は、前から使ってる深型フライパンに、本格的な鍋を導入した。
「ちょっと、ゾンビがいましたが、聖印をかざすと溶けていったので」
ちょっとした兵器だね、うん。
俺に聖気は効かないけども。
「お料理する時換気が必要そうね」
「大丈夫じゃない?たまった時は、非常口から換気するといいよ。どうせ俺達、交代の時に使うだろうし」
朝になって塗装の乾いた「ライノ」を皆にお披露目する。
皆、目を丸くしていた。
「本当に
とはフリウの言だ。他の連中はそれに頷くばかり。
「出来るだけ
犀の絵が、左右のボディに書いてある。
そして紅色で、右に「Rhino」とペイントしてある。
運転席の絵は勿論頭だ。耳も付けた。短剣製の角のある「ライノ(犀)」
「さあ、ライノの後尾ににいつもの跳ね上げドアがあるから、中に入ってくれよ」
「ドア………これですか」
戸惑いながらも、中に入ってびっくりする。
なんせ、後尾ドアを開けたら、シャワーがついているのだ。
「水は使う機会が多かったからな。ドラム缶二つに水を満たして、作った「ウィングブル」の中では使えないけどね」
排水システムあるかどうか分からないけど、どっちかと言うとなさそうだから。
そしてソファは「ガイア」で求められる最上のものだ。
マットレスも、最上級のもの。
「VIP待遇ですね。同僚に怒られそうです」
「何言ってるんだよ、相手が汚い液を吹きかけてくるせいで、アザがあるんだから。フリウなんか一番酷いじゃん!ワガママ言っていいんだよ!」
「そうですか?じゃあここは、雷鳴君の好意に甘えましょう」
心地よさそうに、フリウはもふもふとソファの感触を味わっている。
それでいい。使う奴のいない家具ほど、哀しい存在はないのだから。
これ―――「ライノ」―――を今から「ウィングブル」に乗せる。
『ウィングブル』は易々と、「ライノ」を呑み込んだ。
これで、「ウィングブル」の中のものが、「ライノ」に移される。
余るものもあるけど、それはウィングブルに残す。
武装(ヴェルが集めてきたやつと、フリウの手榴弾)などは屋上に。
戦闘口糧はもちろん、フラッシュバン、グレネードランチャー。
その他の攻撃・支援物資も余すところなく移された。
だが、冷凍食品は、「ウィンドブル」の冷蔵庫群でないと持たない。
冷蔵庫はヴェルと俺で、二つずつ運んで来たのだ。
代金が結構必要だった。
空の旅は、比較的食糧事情が良さそうだ。
って普通のものが食えない俺が言っても仕方ないのだが。
遅い時間だったので、ここで解散し、皆は先にライノで休んだ。
さて、まず、行先。
これは俺とフリウで、意見が一致した。
今、俺たちは二人きりで―――他は「ライノ」の中で寝ている―――今後の予定を突き合わせている。
次は、アマリカのエメーラ州「タラバ」だ。
そこが一番下しやすい。と、『勘』と『第六感』が告げている。
燃料を心配しなければならない所だけど、姉ちゃんが無限燃料にしてくれた。
「どんな「駒」なのかは分かりませんが、向こうに着いたらドローンを手に入れたいですね。偵察してきてもらいたいです」
「向こうの軍基地にはたぶんあるだろう」
「それは俺も同感。向こうにも、こっちと似たようなHP作ったよ。結構抵抗してるみたいだね、「人民を守る会」とかいうとこと接触がとれた。こういう時、無制限に垂れ流されてるガイアの公共電波は便利だわ。電源はフリウが『超能力・エレクトロキネシス』で何とかしてくれるし」
「エレクトロキネシス」は、大技は苦手らしい分、微細なコントロールは可能だそうで、各機器の充電には役立っている。
ノートパソコンと、スマホ。後、車のバッテリーかな。
私はタブレットを見ながら言います。
「フォースパンチ基地はアマリカ合衆国テキサス州中部の町ラベーンに所在するアマリカ陸軍の基地。敷地は880平方キロメートルあり、5万人以上が勤務するアマリカ陸軍の基地としては最大の規模である」
「そりゃあ補給のためには、「浄化」が大変そうだ。根こそぎ無くなっててくれてたら、有難いけど。それだと後が怖いからなあ」
「ねぇ、雷鳴君。雷鳴と呼び捨てにしても構いませんか?」
「今まで聞かれなかったのが不思議なぐらいだよね。もちろんいいよ」
「良かった、最近では違和感を覚えていたのです。あと、聞いていいのか分かりませんが………ヴェルは「浄化」とは決して口にしませんが、貴方は「浄化」と言ってくれていますよね。何故ですか?」
「あ、そこ聞く?まあいいけど。こっちで住んでたマンションで部屋が近くで。すごい親切で可愛い女の子が居たんだ。伊織ちゃんっていう………ここに来るまでにも寄ったじゃん?火葬したいって言って寄ったとこ。彼女の浄化の時に、魂を解放してあげた時に、「ああ、これは浄化なんだなあ」って思ったから。いつからかは分からないけど、使うようになってたね「浄化」って」
「尊いその彼女に感謝を」
「しといてあげて。喜ぶよ」
「で、フォースパンチって、ウィングブルで着くまでどれ位?」
「ジェット機で十二時間になりますね」
「………この機体はこれはそれより遅いよね」
「大型ジェット機よりはだいぶ遅いでしょうし………二十五時間は見た方が」
ああ、そこからダレスまでは「ライノ」でまた十時間か………。
「暇だね。ノートパソコンとタブレットで、ひたすら情報を集めるしかないか」
「そうですね、でも、私達も少し寝た方がが良いです」
「そうだね、そろそろ夜明けだし………」
ああ、そういえば時計を確保していませんでしたね。
明日、出かける前に確保してこなければ。
俺達は、「ライノ」の中に引っ込んだのだった。
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