期待を背負いすぎた神

その神の名を【稲杜】さんという。

どんな神様なのかと問われると、はっきりした印象はまだ、掴めていない。

謎の多い存在である。


その【稲杜】さんに繋がる話を、したいと思う。


あれは何年前になるんだろうか…10年ほど前の出来事であり、ある意味ニュースにもならなかった出来事。

時効として書いても良いだろうか…。


私はとある温泉付きの施設にいた。

入ったばかりの時、嫌な空気を感じる程度しか霊感というものを意識していなかった時期の話である。


蒼い龍殿が、温泉好きということもあり一緒に出社すると、いつも温泉を自分の居場所としていた。


そこには職員が入らないトイレというものが存在していた。

しかも、更衣室の前にである。

何も知らない私は、そのトイレを使った。



そして後から知った。

入ってはいけないトイレだったということ。

教会の女の子の意識を満たすために、身につけていたラピスラズリのロザリオが引きちぎられていた。


おそらく霊障が、物質にまで影響すると知った、初めての出来事かもしれない。


その職場は強い上司のもと、理不尽な出来事が頻発していた。

もちろん、職員同士も荒む現状があった。

しかし、おそらく守られていた方だったのかもしれない。

何故なら蒼い龍殿が、いつも一緒だったから。


ある時、日曜日の休日。

普段入浴介助もしていた、浴室の天井が全て落ちた。

しかも、女性がひとり入浴中で、浴室から出た途端崩れたそうだ。


翌日職場で見た光景は、コンクリートの瓦礫の山。

何をどうすれば、ここまでの惨劇になるの?


明らかに神の力が加わり、大惨事にならずに済んだ事。

そしてもしかすると、巻き込まれていた可能性を考え、ゾッとした。


それはあまりにも衝撃的だった。


しかし、当時事故に遭った人もいない。施設はリニューアル改装のため、休館となった。


天井が落ちた事は、ニュースにもならなかったのである。


私はその後、間も無くその職場を辞めた。



その職場に向かう途中の荒れ果てた場所にある祠が、とっても気になっていた。


何故気になるのか…その当時はわからなかった。

今ならなんらかの形で、【稲杜】さんの力が利用されていたようにすら、感じるが真実はわからない。




それから10年ほど過ぎた。

いつのまにか改修され、整えられ整備された異質な空間ができていた。


整備されて、祀られていることに対してあー、よかったなぁと考えていた。

しかし、近寄りたいとは、思わなかった。


それでも縁があるからこそ巡るご縁があって…。


しかし、いざ行ってみると来る者を、拒むかのような入り口。

世の中不思議なものである。



地元の82歳の男性が若かった頃、そこにあった神社を参拝し時々、供物をあげていたそうだ。

しかし、いつしか新しい道路ができて神社が無くなったそうで…。


仕事の合間での参拝だったこともあり、気にかけてはいても、そのままであった事を、偶然話してくれた。

その後小さな祠として傍に、建て替えられたことを知ったそうだ。



まさにその小さな祠こそ、私が気になっていた場所だった。



人間の都合で、神社を小さな祠とされ、荒れ果て人の都合で祀ったり、移動されたり…した神様。



2021年12月その地の浄化に訪れた。



いや、正しくは次女が電波を受信したのだ。


面白い呪詛にかけられた娘がいると聞いてな。

我、その呪詛といてやる。

我、元々人が好きだったんよ。

でも、誰も来んかったんよ。

そして来てくれた人間が、喜ぶことをしたんよ。

嵐にしたり、水害を起こしたり。

どうも我、利用されたみたいだったんよ。

そしていつの間にか、祟り神になってしまったんよ。


背景的には呪詛をかけ続けた【稲杜】さんが、それは間違っていることだと【黒耀】さんに昔、諭され改心し、呪詛の手先になることを辞めた。

呪詛を願った者が死に絶え、そして力を持った【遠舞】によって封印されたのが【稲杜】さんだったらしい。呪詛についてよく知っている存在であり、仲間の弔いの意があったのかもしれない。


【黒耀】さんと【遠舞】は兄弟である。とある神社から修行をつけてやれと派遣されたのが【黒耀】さんである。そして【遠舞】こそ、弟の才能に嫉妬し闇の力までも、利用しようとし長年にわたり因縁が付きまとっていた。




【黒耀】さんは、【要子】の教育係的に関わってくれていた。

ある時期、呪詛により【要子】が白米を食べれなくなる状況となり、私たちは困っていた。


【黒耀】さんは呪詛に対抗するために【稲杜】さんを連れてきてくれた。


そして【稲杜】さんは、いとも簡単にその呪詛を解いてくれた。


そして言ったのである。

我、行くところないんよ。

祟り神にされたから。


消えかけ、この世に留まれなくなりそうな【稲杜】さんの状況を知り、2021.12月その地にお神酒と塩を持参して参拝。

浄化した。


しかし、すんなり辿り着けたわけではなく、その前段階で【是宮】が浄化に訪れていた。

背筋がザワザワする状況。

参拝すると何故か、雨が降る。

それが日常のようになっていた。


我が家はいろんな事情で、居場所を求めて来る方や、目に見えない家族がたくさんいる。


その中の1人【稲杜】さんが、家族となった瞬間であった。

【稲杜】さんの大好きな食べ物。

それは黒糖饅頭。

そんな形で、その方が好きな食べ物を聞いてなるべくお供えするようにしている。


周りの期待に応えるために、必死になってはいないだろうか?

それは本当に【正義】だろうか?


そんなことまでも、考えさせられた【稲杜】さんの存在。

人も同様、純真で産まれ境遇。取り巻く環境で闇に落ちることもある。

前世のカルマとして、背負って産まれてくるものもあるのかもしれない。


それでもなお、心から変われば光になれる。

そんな光になるきっかけを、灯し続けたい。

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