僕を救った定食屋

海羽柚花

第1章 生卵

ピピピピッピピピピッ……カチッ

「はぁ…もう4時半か…」

終電で帰ってきて始発で出勤…こんな生活いつまで続ければいいんだろう…

簡単な身支度を済ませ家を出る

「今日は何時に帰ってこられるかな…」

あぁこんなはずじゃなかったのにな…

理想の社会人はもっと…

余裕があって、上司に良くされて、成績出して…

こんな俺みたいに寝る暇もなく働いて、休日返上、恋人もいなくて、実家にも帰れてない、生活の余裕なんて全くない

こんな人生じゃない絶対に…

「はぁ幸せって何だっけ?…」


もう秋か…太陽登ってくるのだんだん遅くなってきたな…この前までこの時間結構明るかったんだけどなー

早足で駅へと向かいながら1人でぶつぶつ呟いてみたりする

もちろん思うように足が動いてくれるはずもなく周りから見たら危ない人だと思われていたかもしれない まぁ周りに人なんていないんだが……

まぁこんな朝…というかまだ夜なんじゃないかってぐらい早くからスーツで歩いてるやつなんて俺以外居ないし、そもそも人がいない

というか朝5時前に人がいるのもおかしいのだが…


「あれ?地震?なんか…地面が…ゆれて…」

急に足に力が入らなくなって目の前に地面が近づいて…

バタッ…………


「お兄さん!お兄さん!大丈夫ですか!?大丈夫ですか!?どうしよう…」




(ここは多分夢だ…俺こんな家住んでないし…見たこともない…こんなふわふわするような)


「………ん…?明るい……?」


「あ!お父さん!起きたよ!お兄さんおきた!」

「え?ここどこ?」

「良かった!お兄さん!うちの店の前で倒れてたんですよ!びっくりしました」

「え?ほんと…に?」

「はい!ここ5時開店なんですけど、その時には倒れてました。運ぶの大変だったんですから」

彼女は頬を大きく膨らませながらそういった

「ありが…とう」

「いえいえ!」

…ん?なにか忘れてる気が……あ!?

「会社!今何時ですか?」

「え? まだ6時ですけど…行く気ですか!?」

「あぁ、始業までに片付けたい仕事があるからね」

俺は支度してこの場から立ち去ろうとした

「だめです!休んでください!倒れたんですよ!疲れてる証拠です!もっと身体をいたわらないと!死にますよ!」

「そんなこと言われたって!俺だって生活かかってるんだ…休んで…生活できなくなったら…」

そう店を出ようとしたが上手く力が入らない

「ほら足ふらついてるじゃないですか…」

確かに足元はふらつくがそんな事言ってられないし…そうだよ…そうだ…俺は…俺のせいで迷惑がかかるのは…

「君には分からないよ…そう…俺が休んで会社に迷惑がかかることだけは避けないと…」

「とりあえず君じゃなくて愛璃沙です!本条愛璃沙!名前で呼んで!とにかく!今日は休んだ方がいいです!仕事中に倒れられる方が迷惑だと思います!」

「いやでも…」

「でもじゃないです!」

「…………」

「死にたいんですか?」

「本条さん……」

「なんですか?えーと…名前…」

「志季柊磨ね」

「志季さん!柊磨さんの方がいいですか?」

「どっちでもいいよ。助けてくれてありがとうね。とりあえず会社に連絡入れて病院行ってくるよ」

まだ始業までは少し時間がある早くこの店を出よう どうせバレないし……

「はい!朝ごはん食べてないんですよね!」

「うん……まだだね」

これは食べるしかないか…

「じゃあうちで食べて言ってください!メニューをどうぞ!」

「ありがとう」

そういや定食屋なのかな…それにしても卵料理ばっかりだな…

「本条さん」

「愛璃沙って呼んでください」

「はい…愛璃沙さん」

「なんですか?」

「ここのお店卵料理多いね」

「当たり前です!ここは卵料理店 とりっこ ですから!」

なるほど…鳥の子を文字ってとりっこか…いいのか?それは……それにしても何を食べたら早く行けるだろうか……

「朝ごはんですし卵かけご飯の定食なんてどうですか?お米は新潟県産、知る人ぞ知るブランドのもの!卵はその新潟米に合わせた最高級のもの!醤油はうち限定の秘伝のものなんですよ!あと定食なんで味噌汁とだし巻きがついてきます!!」

「なるほどね。じゃあそれを貰おうかな」

とりあえず早く食べないと…

「はい!お父さん卵かけご飯定食1つ!」

「はいよ 愛璃沙とりあえずお冷お出しして」

「らじゃ!」








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