第22話 ヒロイン奴隷落ちだよ

 目が覚めると、窓から光が入っていないから、夜中なのかと錯覚した。


「これ、何かしら」


 窓が家具やクマで隠れてしまっていた。

 もしかしてエレン除け?あの人、窓から入って来るのが普通だったから、アレクの指示でこうなったのかもしれない。

 私がそんな思案をしてると新しいメイドがやってきた。

 もしかすると、例の屋敷焼失事件で、あぶれたメイドを引き入れたのかも。

 そうだとしたら、この屋敷に来る前も苦労したのでしょう、優しく接してあげなきゃね。


「あなた、私と同じ色ですね綺麗だわ」

「あ、あはは、そうですね、お嬢様と御揃いで嬉しく思います」

「名前を聞いても良いかしら?」

「はい、私はミレイ(偽名)です」

「ミレイね、いい名前だわ、あれ?指輪してるのね、見せてくれる?」

「外せないんです……」

「大丈夫よ、手を出して」


 そっと指輪に魔力を流し込む。

 この手の物は多大な魔力を流し込めば破壊できると、先生が言っていた。

 そして思った通り、ピキッという音と共に指輪が外れる。


「これで、貴女は自由よ。ここでメイドを続けてもいいし……」

「お嬢様!ありがとうございます!」


 思っていたよりも、感情豊な人で驚いた。

 嬉しさのあまり抱き着いて来るなんて、まだ子どもだから仕方がないよね。

 (※メイドの方が年上です)


 大粒の涙を流して喜ぶ彼女をみてると、自分ももらい泣きしそうになる。

 なんだか、最近泣いたような気がするけど、全く記憶にないのよね。

 ルルゥと手を繋いでいたような気がするのだけど、もしかするとこの子だったのかな。


「もし、できたら窓から光を取り入れたいの、窓の前の物を退けて貰えないかしら?」

「はぁ、これ何の為に窓を塞いでいたのですか?」

「それがわからなくて、朝起きたらこうなってたの」

「わかりました、綺麗に並べておきますね」


 甲斐甲斐しく働く姿に感心していると、その姿に感心する。

 私やルルゥと歳も近いし、私の付き人になってくれたら嬉しいとまで考えていた。

 ミレイにも幸せになってほしい。


 ◇ ◇ ◇


(ヒロイン視点)


 隷属の指輪をこんなあっさり破壊するなんて、さすが誘拐のターゲットになるだけはあるわ。

 窓のバリケートもその誘拐を案じての防衛策だったのでしょう。

 これって、こちらの情報が漏れていたって事よね?

 それを本人が撤去を命じるってどういう事?


 あ…、つまり、そう、なの?

 もしかして、私が潜入したメイドというのもバレている?

 隷属の指輪を見て動じないのもそのせい??

 つまり、私の任務を知っていて、私の為に誘拐されて上げる、と言う事なの!?

 お嬢様、なんて、懐の深い……。

 誘拐されても自力脱出できるという事ね!


 分かりました。

 私はその任務を遂行させていただきます!


 夜になって私は作戦を実行に移した。

 夜回りは、メイドが当番制で行う事になっている。

 ただ、お嬢様の為に夜間の特定の時間には夜回りをしないというルールがあった。


 どういう事?

 まさか、これからの私の行動まで見透かしていて。

 この時間にどうぞ誘拐してください、って事?

 すごい、私の為にお嬢様は…。


 思わずホロリと涙がこぼれ落ちそうになるのを耐えた。

 そして、その時間に、こっそり屋敷を抜け出し、グリスに合図を送る。

 お嬢様の部屋を教えると、手下が器用に二階に登り、そして窓を開けて誘拐してきた。

 あまりにも簡単に。

 全く抵抗もせず。

 いま、目の前にいるお嬢様は、きっと狸寝入りしているのでしょう。

 すべては私の為に…。

 ※引き続き体調不良で本気で寝ています。


 お嬢様を連れて行った隠れ家は森の中だった。

 古い小屋だったけど、作りはしっかりしていたけど、これは簡単に逃げられないようにする為だった。


「おい、お前、指輪はどうした」

「え、壊れちゃいましたけど」

「そんな簡単な品物じゃないんだぞ……まさかお前、俺達を罠にかけたのか!?」

「そんな事無いです…」

「裏切ったらただじゃおかないからな」

「ひぃぃ」


 小屋の中でする事もないけど、私はお嬢様のお世話係となった。

 朝になって、お嬢様が目を覚ますと思いきや、高熱を出してる。

 とても苦しそうだった。

 そんな状況で、グリスが小屋に戻ってくる。

 とても苛立った感じがしたけど、その言葉には驚いた。


「その娘、公爵じゃなく侯爵の娘ではないか!」

「ええ、侯爵ですよね」

「ええい、ややこしい!最上位貴族の方の公爵だ!」

「はぁ、ですが、そのお方以外に、お嬢様と呼ばれるような方はいませんでしたよ?」

「なに……俺達の情報が間違えていたというのか」

「最初はルルゥルアの誘拐かと思ってたのですが、二転三転したのかと思って」

「おい、その役立たずを奴隷落ちさせろ」

「分かりやした」

「いやあああ、やめてえええええ、お嬢様あぁ、お嬢様ぁ!」


 お嬢様は反応しなかった。

 熱が出たのは予定外の事だったのかもしれない。

 本来であれば脱出できるのに、できないというのは歯痒いですよね。

 そう考えると、ついでに私も助けて、とは言えなくなりました。

 でも、奴隷は嫌ぁぁぁああああ。

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