第4話―奇妙な出逢い―

足を止めれば、追いつかれる。

とにかくここを、切り抜けることだけを考えろ!

とにかく走るんだ。

風に撫でながら橋梁きょうりょうの歩道の上ガムシャラ手を振るい猛然と疾走する。

それで追撃は緩めず黒鳥は翼を休まない。

この妄執的なのはなんなのか……。

怒らせたのは問おうと後ろ振り返る。

その子は転倒しないよう留意して前と下に変わりかわり見ていた。


「だいじょうかっ!?」


「は、はい。なんとか……」


走行は全速では走れない。もし配慮なく走れば共倒れだ。

スピード気をつけて逃げるしかなかった。

もし混み行った道路まで来られたらどうなる。入りくんだ走って隘路あいろに陥る……あのとがったくちばしにつつかれる。


「はぁ、はぁ……クソッ。そうなるか。

何だって追いかけてくるカラスは」


最悪なビジョンを振り払う。振り払ってやる。


「そろそろ追いつかれるね……ねぇ。どなたか知らない方、もうここまで結構だよ。

協力してくれて感謝している。ここからは私を置いて逃げたほうがいい」


諭すような優しい声。

肩越しから振り向くと、それは下手で無理した作り笑いして浮かべていた。勧めてくる……それは見知らぬ人に優しさ向けたのが見て取れる。

もう無理だから置いて一目散に逃げろ。そう気丈に振舞ってはいるが口元は微かに震えていて握る手からもそれが伝わってくる。


「いや、ダメだ。助けて今更やめたなんてダサいことするかよ。途中でやめれるか」


「……無理はよくないと思うなあ。

別に誰かが責めるわけじゃあないし、逃げてもいいんだよ」


「ウザたいッ!

でもその通りだよ。二足歩行の俺たちじゃあ、障害物のない移動する飛行。

天がひっくり返っても逃げきれない。

カラスの利点は宇宙を駆ける翼によるものだから。だから標的として捉えられるのはキツい。

もっと距離を開けるには選択肢が狭まる」


そもそも襲ってくることさえ事情は聞いていない。どうして追いかけてくるのか理不尽に対する不満あるものの見て見ぬふりは選択肢は無い。

きっと、俺はそういう性分!

行き詰まった状況を少しでもよくするなら。


「あちゃあー、これは追いつかれてケガするね。

どう?怖いでしょう貴方も。私を置いて行ったら」


――貴方も怖いか……怖いなら怖いと素直になればいいのに。前を向いて走らないといけず一瞬だけ振り向き、彼女の表情とカラスの距離感、確認して深呼吸をして乱れた息と思考を整える。


「置いていかない。

そんな怯えた顔をした奴を放っていくのは後々キライになる……自分を。

俺がカラスのおとりになる」


「お、おとりって危険だよ」


そんなの指摘されなくても危険なのは分かって言っているんだ。どうせこのままだと追いつかれて鋭いクチバシの餌食えじきに遭う。

どうせなら誰か一人が身代わりとなって片方が無事に逃げ切れるほうが賢い選択だ。


「だから行け。どうせ怪我するなら一人で十分。

そのまま振り返ずに良心の呵責なんて責めずに」


「無理なんだけど……そんなこと」


快く返事するとは返ってこなかった。

怪我を被ることよりも見知らぬ俺なんかを追い払おうなんかしているのだ。

言って聞かないなら状況を作り出すだけ。

俺は握っていた手首を前へと突き押す。そして手を離した。

これは転倒するのではと遅まきながらよぎったが、その焦りはならず。無事に転倒することなく蹈鞴たたらを踏むのだった。


「こう見えて俺は頑丈だから。

だから……走れぇぇ!」


「わ、分かった。それと」


「?」


「ありがとう」


感謝を告げると踵を返して走り出すのを確認する。ここから敵意をこちらに向けさせる。


「こわいなぁ。でも今の俺はカッコイイ!」


――そう誇りながらうそぶく。カラスの猛攻でケガをしてしまったが無事に逃げていたことに満足している。

そのあと数分から経ってから俺も逃げて橋から離脱する。どこか清々しい気持ちで歩いてあると。


「あっ!」


足元にある小石につまずく。

足がすくれたような錯覚が襲われて、転ぶまでの時間がとてもゆっくり感じた。


「痛てぇ」


あまり運動していなかったせいか。上手く受け身が取れずに盛大に転んでしまい怪我を負う。


「うわぁっ!?とんでもない転び方していたけど……ねぇ、大丈夫?」


ランニングウェアの少女が膝を地面について心配そうに声を掛けてきた。

こんな平らな場所でブザマに転ぶなんてホントーにダサいなぁ俺は……。

カラスに何故か襲われた子がここまで来るのを離れて見たのか駆けてきたようだ。


「ああ、これぐらい……いててぇ」


「もしかしてケガを……ううん怪我しているよね。うーん、じゃあウチで治療してあげるよ」


「ウチで、ちりょう?」


いきなりそんなことを提案か独白した。

俺はその言葉がなにかの聞き間違いではないかと 疑いながら鸚鵡返おうむがえしに声に発する。


「うん。このまま放置するのもナイでしょう。もしかして救急車を呼ばないといけないレベル?」


かすり傷だけで大したケガじゃない。


「そんなレベル……じゃないから」


「そうかな?なら一人で立ってるの。肩を貸すべきなのかな、こういう場合は。

あとあと私の家まで歩けそう」


「ああ一人で歩けるけど……というか家を行くと言ったのは本当に?冗談ならタチがわるいぞ」


「そこ疑ってもおかしいじゃん。ほら、行くよ」


いや、いったい何を考えているんだ!

とりあえず不用心だぞと眼前にいる女の子を叱責しようとしたが、あることを脳裏によぎって俺は言葉を喉に留めた。

いくらなんでも見知らぬ男をそのまま家に迎えるはずがない。からかっている。

どうも無警戒には見えないと思う。こんな誘いをするのは家族がいるからで変に意識を持つことなんてない。

それならと案内を受けても問題にはならない家庭と考えるべきだ。

そう、例えば治療所とかだ。正門は患者のために解放しており裏には自宅あたるところで繋がっている。そして住人などしか入らない勝手口から父親か母親が現れて診てもらうんだろう。

自宅と医院の併用へいようだと思いながら背について歩くと……二階建ての一軒家だった。


「どういう……ことだ?」


「んっ、見ての通り私の家だよ」


さも当たり前のように振り返ると穏やかな笑みを浮かべ、そんなことを言い出したのだ。

マジか!いくらなんでも同い年として思われる子が何の警戒をみせず連れてきた。


「い、いや流石さすがに事情があるはずだ。そうじゃなければ俺のような残念イケメン野郎に案内するはずがないはずだ。

それで……ご家族の人はいるのですしょうか?」


「ううん。夜遅くまで帰ってこないから家には誰もいないから緊張しなくていいよ」


しかし女の子はかぶりを振った。


「ノオオォォーーーッ!?ど、どういうことだ。どうして案内したんだ。俺のこと見目麗しく、かよわい女の子に見えるのか!」


あまりにも超展開に俺はついてこられずに頭を抱えながら絶叫する。

どういった思考しているんだ、意図が読めず勘考かんこうしても理解の外。

もはや常識的にそのまま解釈するとすれば、それはもう俺が男子とかではなく女子として同性のように見ているとしか推測しかない。


「ちょ、ちょっと落ち着いてよ。

なにを騒いでいるのか分からないけど別に刺客とか潜んでいるとかないから。

それに、その見た目で女の子なわけないじゃん。あっははは!」


「……はは、だな。普通に考えて、ご家族が帰宅するまで家の前で待ってばいいのか?」


「普通に考えて中に入って治療じゃない?」


その普通が通じるのは幼い時期までで成長したら同性ならそうするかもしれないが。

おそらく高校生と推定される女の子がするようなものじゃない。

せめて目で悟ってもらおうと冷ややかな目を向けようと試みる。成果は――


「ほら、痛いんでしょう。はやくしないと悪化するんだから」


まったくの警戒もなく手を引かれてカギを取り出して俺をそのまま家に上がらせるのだった。

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