第2話

 私、マドラ・モースティンと妹のニルヴァはこの家の子ではありません。

 実の両親の弟夫婦が子供が無い、ということで昔から親身になって下さっていたのですが、今ではお世話になっております。

 ええ、実の両親の元からは離れております。

 私達は、この弟同様、実の両親の元を逃げ出したのです。

 実家のモースティン家…… ご存じでしょうか? 

 爵位はございませんが、その次くらいの地位は手に入れている、地方の名家です。

 それが近年の社会の変化で、都会へと住み着く様になったのが私の実家です。

 そして地方の出ですので、多少都会…… というか、中央とは、やや違う風習が残っております。

 モースティン家は、男が生まれないうちは、長女を跡取りとして、何よりも大切にする様に、という家訓がございます。

 そう、現在実家には、姉がおります。

 もういい加減婚期も遅れかかっている……

 弟とずいぶん歳が離れているとお思いでしょう?

 実際そうなのです。

 姉の後、やはり男子が欲しくて、私と妹の二人を母は出産しました。

 ですが、生まれたのは女子だけ。

 一番上以外の女子など何にもならん、とばかりに、私達は子供部屋を出る様になると、使用人部屋へと移されました。

 それからというもの、それまで傅いてきた使用人達が、急に態度を変えました。

 ええ、十歳にもならない頃から、使い走りや掃除や縫い物をさせられる様になりました。

 学校などもっての外、だったそうです。

 私と妹は使用人の屋根裏部屋で、一つのベッドで一緒に眠る日々でした。

 使用人の食卓をご存じでしょうか? 

 良いお家なら、昼などはびしっと揃って礼儀を教える意味できちんとしたものを――残りではあるにせよ、くださるそうですが、地方の豪族程度の家では、そんなことはありませんでした。

 厨房の使用人達は、私達を飢えさせはしませんでしたが、特別扱いもしませんでした。

 私達は、与えられた食事をかきこんで、すぐにまた仕事にかかります。

 そんな私達の目に飛び込んでくるのは、姉でした。

 長女の姉。

 きちんと家庭教師を付けられ、綺麗な服を着せられ、何かと遊びに連れ出してもらい、そして使用人をあごで使う。

 それが姉でした。

 私と二つ、妹と三つしか離れていないのに、していることは全く違います。

 私は姉が戻ってきた時にたまたま玄関の掃除をしていたならば、お帰りなさいませ、と言わなくてはなりませんでした。

 時には「声が小さい!」と馬用のムチで叩かれることもありました。

 そんなことが三年程続いたでしょうか。

 赴任先の海外から、叔父が戻ってきたのです。

 当初は床を這いつくばって掃除をしている私達を見て、浮浪児を雇い入れたのか、と思ったそうです。

 ところがそのことを自分の兄に尋ねた叔父は驚きました。

 次女三女なのだ、と平然として言う兄に憤慨しました。

 ですが、その時点で叔父はまだ未婚の青年。一人前とは見なされず、何ができるという訳でもありませんでした。

 それからすぐに、弟のジャイルズが生まれたのです。

 これが父の愛人とかならともかく、母からだったのです。

 もう相当な高齢出産で、産ませるべきも悩んだらしいのですが、それでももしや、という男子が欲しいという一縷の望みにかけたらしいのですね。

 そしてとうとう長男が生まれた訳です。

 すると、姉への扱いは基本的には変わらないにせよ、愛情は弟へと移ります。

 更にここで悪いことに、母が産後に身体を壊して、翌年には亡くなりました。

 一方で叔父は結婚し、小さくとも幸せな家庭を築き始めていました。

 そして二人して母の葬儀にやってきた時、喪服すら与えられない私達を見て、もう我慢できない、とばかりに引き取ってくれたのです。

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