第20話 小さなあそこのめぐり合わせ



 私は実家の自分の家に帰ってきていた。実家には今はお母さんしか住んでいない。


 お母さんは、お祖父様の一声で義父クズと離婚させられたから……。


 それもおたるんが、お祖父様に直訴してくれたから実現した事だった。


「杏子ちゃん?今日はおたる君の手術の日でしょ?行かなくていいの?」


「……お母さん」


「おたる君は今日、女の子になるのよ?止めなくていいの?」


「……だって、おたるんはゆきよんと……」


 ……信じていた。親友だと思っていたゆきよんに裏切られた。


 だから私は、その場から逃げてしまった。ゆきよんがあそこまでしているなんて思わなかった。自分には出来ない事をゆきよんはやって見せたのだ。


 おたるんの事を本当に思っているのは、ゆきよんの方ではないか?なんて考えてしまう。


「……杏子ちゃん?私はお母さん失格なの……」


「え?」


「あの人は結婚してからも、私の事を見てくれなかった。あの人の心には杏子ちゃんしかいなかったの。でも……それでも私は、あの人が好きだった。だから、杏子ちゃんに嫉妬したわ」


「お母さん?」


「ごめんなさい……あの人を杏子ちゃんに……けしかけたのも私なの……本当にごめんなさい。私本当に……とんでもないことをしてしまったわ……」


「え?」


 何を言っているの?お母さん?


「あなたに嫌われれば……あの人の心も、私を見てくれるって思ってたわ」


「うそ……」


「私は本当にバカだったわ……あの人の心は何も変わらなかった。挙句の果てに離婚させられて本当にバカだわ……」


 私には、信じられないお母さんの暴露だった。私をずっと騙していたなんて!


「酷い……お母さんもグルだったの?酷すぎるよ!!」


「ごめんなさい……杏子ちゃんの心の傷は私が作ったような物なの……」


「うわああああああ酷い!バカ!バカ!バカ!お母さんなんか嫌い!!大っ嫌い!!」


「ごめんなさい謝って済む問題じゃないけど……私は後悔したわ……私の大切な杏子ちゃんを傷付けてしまったから……だから……杏子ちゃんには後悔してもらいたくないの」


「うっうぇええ!!うわぁああああああああああああああ!!!」


「好きなんでしょ?おたる君が」


「ぐすっ……うん、うん!」


「男の子として好きなんでしょ?」


「うん!好きなの!大好きなの!!おたるんが!」


「おたる君を女の子にしちゃっていいの?」


「いやだ!嫌だよ!おたるんは男の子じゃないと嫌だよ!!!」


「だったら、止めて来なさい!」 


「うん……うん……」


「早く!間に合わなくなったら絶対に後悔するわよ!!」


「!」


 私は、着の身着のまま家を飛び出し、走った走りまくった。息が苦しいけど、今は急がないと!……おたるん!間に合って!!



◇◇



 もう……走り過ぎて足が痛い。


 病院に着いた頃には、私の足は棒になっていた。


 病院に着いたら、お祖父様が入口で私を待っていた。


「お祖父様!」


「おたるちゃん……ずっと待ってたよ?杏子ちゃんが来るのを……」


「はぁ……はぁ……おたるんは!?おたるんはどこ?ねぇ!今どこにいるの?」


「おたるちゃんの手術は、もう始まるよ?」


「待って!その手術!待って下さい!」


 ――私が馬者だった。


 おたるんは、私の事しか考えていなかった。おたるんは、全て私の為に行動してくれた。


 私は目の前の事に囚われ過ぎて、本当の意味でおたるんの事を考えてあげれていなかったんだ。


 ……私は本当に馬鹿だ。



「おたるんを女の子にしないで!」


 私は、お祖父様に必死に懇願した。


「お願いします……お願い……しますぅううううううううう!!!」


「杏子ちゃん……それでいいんだね?」


「は……はい……ぐす……うぇぇ……ごめんなさい!おたるんは……男の子じゃないと嫌なんですぅぅ!!」


 私は思いの丈をすべて吐き出した。周りなど気にしていられなかった。


「だ、そうだよ?おたるくん?」


「へ?」


 お祖父様の後ろから現れたのは……おたるんだった。


「ごめん……心配で杏子が来るまで待ってて貰ったんだ」


「杏子の気持ち……今、ちゃんと受け取ったよ?」


 既に私の顔は、涙と鼻水でぐちゃくちゃになっていた。


「おたるーん!!ごべんなざい!!ごべんなざいいいいいいい!!!」

 

 私はおたるんに思いっきり抱き着いて、鼻水も涙も全てを……おたるんに擦り付けた。


「……うん」


「おたるんは!男の子で!男がいいのぉぉぉぉ!」


「分かった」


「お願い!!お願いだから!!女の子には!ならないで!!くださいぃぃ!!!」


「……杏子。僕は女の子にはならないよ」


 おたるんは私を抱きしめ返してくれた。そしてずっと……私が泣き止むまで……私の頭を撫でて続けてくれた。



◇◇



 杏子の懇願により、僕は手術をキャンセルした。もちろん先生には怒られたよ。


 今日、本当の杏子の気持ちを知ることが出来た。


 だからもう……僕は迷いはしない。


 おち〇こは小さくても、僕は男の子としての矜持を持って生きて行こうと思う。


 だって……僕には大切な人が二人もいるから。


 杏子と雪ちゃん。

 

 僕は男として二人と共に歩んでいきたい。


 雪ちゃんは子供が欲しいと言ってくれる。杏子とはゆっくりトラウマと向き合っていこうと思う。


 僕の小さなあそここが僕と杏子、そして雪ちゃんとをめぐり合わせてくれたのだから。






 ――了――






読者様へ


最後までお読みいただきありがとうございます。

おたるの最終決断という事でここで完結となります。


レビュー☆☆☆にコメント、応援♡を頂けたらとても嬉しいです。


続編は今の所考えておりませんが、反響(レビュー)によっては外伝として、おたるんと杏子ちゃん、雪ちゃんの三角関係のその後を書くかもしれません。


また、他の作品の方もよろしくお願いします。

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