第17話 情報共有

 私はマティアスが経営している商店にやって来た。彼と、ロアリルダ王国の今後について話し合うために。そして、協力を得るために。


「ごきげんよう、マティアス」

「よく来たね、クリスティーナ」


 とても落ち着いた様子で出迎えてくれたマティアス。しかし、商人である彼は今の状況をしっかり把握しているはずだ。


 早速、マティアスは私に告げた。


「我々は、王都から撤退することを決めたよ。近いうちに、ここから立ち去る」

「なるほど。やはり、そうするのね」


 想像していた通りだわ。私は、商人であるマティアスを尊敬していた。情報収集を怠らず、行動も素早く、あらゆる準備を最短で終わらせてしまう。そんな彼だから、今までに莫大な利益を生み出してきた。そして、ロアリルダ王国の現状を知り、早く離れたほうが良いと判断を下したのだろう。


 ここでは儲からない。そんな、彼の損得勘定は正しいと思う。


「どうにかして、ロアリルダ王国の民を助けることは出来ないかしら?」

「ふむ」


 私は、単刀直入に聞いてみた。どうにかして、助けられないか。巻き込まれそうになっている人達を、どうにかすることは出来ないだろうか。


 すると、マティアスは真剣な表情で答えた。


「民を助けるのは、王族や貴族の責任だろう? それに、主な原因はアーヴァイン王子だ。彼が暴走して、愚かな指示を出しているから王都が混乱しているんだ。これは全て、王族の責任だよ。だから僕や君が、民を助ける理由はない。王国のゴタゴタに巻き込まれてしまうのは、気の毒だと思うけどね」

「それは……」


 彼の言うことは、もっともだった。私達がここで何かをしてあげても、何も変わらないかもしれない。それは、意味のないこと。むしろ、余計なことをしたと言われて責められるかもしれない。だけど、なんとかしたい。


「貴族だった君は、民を大事にするべきという教育を受けてきたのだろう。だから、そんな発想が出てくるんだろうね。だけど商人になった君は、民の問題よりも儲けを優先する考え方に変わるべきだ。違うかい?」


 確かに、私は貴族として教育されてきた。民を守ることこそが貴族の務めであり、民のために生きることが当たり前だと考えるように教えられてきた。だから私は、皆を助けたいと思うのか。


 それは、違うと思う。マティアスから教えてもらったことを思い出す。商人は信用を大切にしなければならない。


 今までに私は、色々な人達に助けてもらった。数多くの計画を成功させるために、ロアリルダ王国の民に支えられてきた。王国が大変なことになる。それを知っているのに、彼らを見捨てて私だけ逃げることは出来ない。


「商人にとって、儲けも大切です。だけど、信用を大事にするべきだとマティアスが教えてくれました。王国が大変になるだろうと分かっていたのに、ここで何もせずに彼らを見捨ててしまったら、信用を失ってしまいます。今後はどこに行っても、私は商売で成功することは出来ないでしょう」


 そう言うと、マティアスはニッコリと笑って頷いた。そして、私に教えてくれた。


「そうだね。僕も、そう思う。実は、既に色々と準備してあるんだ」

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