第33呪 会社の電話回線が呪われている💀


「お父さん、いま東京におっとよ」

(お父さん、いま東京にいるのよ?)


「ほんなごと!? なんで東京にきとっと?」

(本当に!? なんで東京に来てるの?」


「出張ち言いよんさっとばってん……あたいはよおしらん」

(出張って言ってるけど……私にはよくわからない)


「そがんね。まあ、どうでんよかけど」

(そうなんだ。まあ、どうでもいいけど)


「……あんた、お父さんと会わんね?」

(……あなた、お父さんと会ってみない?)


「はあ!? ぞーたんのごとっ!! なしておいが親父に会わんといかんとか!」

(はあ!? 冗談じゃない!! どうして俺が親父に会わなきゃならないんだ!)


「そがん言わんでもよかやんね。C区のニューコタニちホテルにとまっとらすけん」

(そんな風に言わなくてもいいでしょ。C区のニューコタニってホテルに泊まってるから)


「いらん、いらん。どうせいかんし」

(言わなくていいよ。どうせ行かないし)


 ユウマは、母と電話したあとはいつも酒が飲みたくなる。

 それは今も例外ではなかった。


 まだ夕方、17時になったばかりだ。

 平日のこんな早い時間から酒を飲めるのは、自由業最大のメリット。

 全力で満喫してやろうとユウマは支度をする。


 スマートフォンでミサキに一言『Amakusa行くわ』とメッセージを入れると、ユウマは徒歩4分の場所にある焼酎Bar『Amakusa』の扉をスライドさせた。


「おっ。高坂さん、今日は早いじゃん。あ、きっとあれだ。お母さんから電話がきたんだ」


「さすが、戸田さん。ご名答」


 戸田はミックスナッツを小皿に出して、ユウマの前に置いた。


「お母さん泣かすのもほどほどにね。 お酒はいつものでいい?」


 ユウマはピスタチオの殻を割りながら、うす、と返事する。


「今日はミサキちゃんは?」

「ん~。あ、すぐは来れないみたいっす」


 スマートフォンに目を落とすと、ミサキから『ズルい』と短文のメッセージが入っていた。


「そういえば。高坂さん、Aランクに上がったって本当?」

「あ、そうなんすけど……、全然実感が無いんすよね」

「えーーー!! Aランクって言ったらブレイカーのトップでしょ? もっとこう、盛大にお祝いとかするんじゃないの? 普通は」

「そう……なんすかねぇ」


 戸田の言うことは最もだ。

 Aランクどころか、Bランクだって十分お祝いに値する。

 しかし、ユウマはどうしてもそんな気持ちにはなれないでいた。


 理由は分かっている。

 この結果は自分の力ではない、とユウマ自身が強く思っているからだ。


(陽光タワーの大規模ダンジョンから始まって、エリクサーを見つけられたのも、ダンジョンを高速でブレイクできるようになったのも、全部……ナイドラの力だからなぁ)


〔 そうだ。我を敬え 〕


(どう考えても、そういう流れじゃないの……分かるよな?)


〔 注意はやめて。せめてツッコんでくれ 〕


(ぜったい、イヤだね)


「――さかさん。高坂さん?」


 ハッと顔を上げると、戸田が心配そうにユウマを見ていた。

 

「あ、すみません。ちょっとぼぉーっとしてました」


 ナイドラと脳内会話をしていると、外の音が聞き取りづらくなる。

 ノイズキャンセリング機能がついたイヤホンで、電話をしているような状態といえばイメージが湧くだろうか。


「まだ酔っぱらうには早いよ」

「ええ。まだまだこれからっす」


 そう言って、ユウマはいつものようにグラスを一気にあおった。


      💀  💀  💀  💀


 同じ頃、セイジはクイックラッシャーのオフィスで目まぐるしく働いていた。


 ユウマの大活躍で『9日間で126件』という驚異的な数のダンジョンブレイクに成功したクイックラッシャーには各所から電話が殺到していた。


「どんな秘密兵器を使ったんですか?」


「ダンジョンブレイク後に、怪しい格好をした男が出てきたという目撃情報がありますが御社の方ですか?」


「明日までにダンジョンブレイクして欲しい案件があるんですけど」


「1日10件以上もダンジョンブレイクしたとか、てめぇらフカシこいてんじゃねぇよ!!」


 などなど。

 ゴシップな質問、切羽詰まった依頼、さらには罵詈雑言まで。

 多種多様というより種々雑多なお電話で、電話回線(外線)は常時パンク状態。


 もう電話線を引っこ抜いてしまおうか、とセイジは今日だけで少なくとも10回は考えた。


 そんな中、どんなに外線がパンク状態になろうとも、必ず繋がるホットラインのランプが光った。


「はい。経営企画室です」

「ハァ、ハァ。遊佐ゆささんですか? ハァ、ハァ。あの……ダンジョン攻略部の藤崎です。すみません、ブレイク失敗しました」

「了解です。場所はどちらですか? C区、はい。志水山公園ですね。分かりました。すぐに別の部隊を二次攻略に向かわせます」


 ちょっといつもより忙しいけれど、これくらいは日常茶飯事だ。

 いつでも必ずダンジョンブレイクに成功するわけではない。


 清水山公園のダンジョンも、二次攻略の部隊にダンジョンの情報が引き継がれる。 

 きっと綺麗サッパリとブレイクしてくれることだろう。


 しかし、残念なことに二次攻略の部隊もダンジョンブレイクに失敗した。


 ホットラインでその連絡を受けたのは、セイジの上長でもある経営企画室の室長だった。

 どうやら二次攻略の部隊は被害が大きく、重傷者も出たらしい。


 セイジは状況を少しでもピックアップしようと、室長の電話に聞き耳を立てた。


「え? なに? ダンジョンがなんだって? デカくなってる? なんだそりゃ。バカ言ってないで早く戻ってこい!」



――――――――――――――――――――

💀C区志水山公園

 中央区の清水谷公園がモデルです。

 近くに立派なホテルニューオータニがありますね。

 そう。それがC区のニューコタニです。


 エクストラスーパーなイチゴ(あまおう)のショートケーキが有名です。

 お値段はなんと1ピース3000円!!

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