挙句の果ての弁当ライフ

睦月 葵

まえがき

 生活費を切り詰める基本的方針は、節電・節ガス・節水などのライフラインの節約と、自炊&職場に手作り弁当持参である。

 過去の一人暮らし&ルームシェア生活において、前の四項目は常に行って来た。───が、朝が超人的に弱い自分なので、『弁当持参』だけはどうにもこうにも……という状態だった。

 そして現在の実家生活において、自分で節約可能だった前四項目に関しては、定額生活費を決められているので節約することは出来ない。厳密には、節約してはいるのだが浮いたお金は母の管理下なので、自分の出費を抑えることは出来ないというのが現状だ。

 それにも拘らず、この長きに渡る全世界的新型コロナ禍で、私の属する業界だけではなく、飲食店・旅行業界を筆頭に多くの業界が減収を余儀なくされ、同時に自分を含む多くの従業員の給料が下がった状態のままだ(一部業界は違うようだが)。このところ少し人流が戻りつつあり、色々な物事が動き始めたようだが、大多数の現役労働者へ、二年以上に渡って降り掛かった経済的ダメージが回復するのはかなり先のことになるだろう。

 しかし、引退世代の年金生活者である両親(主に母)は、そんな世の流れは知った事ではなく、ごく普通に生活費を要求してくる。給料明細を見せて、「この給料では無理です」と申し出ると、「じゃあ、あんたが払えなかった生活費は、借金として付けておくから」とのこと。確かに、実家があり、両親がいるからこそ、現状でも何とか生活出来ているのではあるが、普通は言わないでしょ、それは……。

 つくづく我が両親は、遺伝子提供者ではあっても、家族の情が通っている『親』ではないとしみじみ思い知ったこの頃だった。


 二年余りという時間の中で、すでに自分の持ち物で換金出来るものは出し尽くした。おしゃれも贅沢もしない私がこれ以上節約するのであれば、もう『弁当持参』しか残されていない。故に、二〇二二年三月四日、電子レンジ使用可能な弁当箱を手に入れて、私はついに『弁当ライフ』を発動したのである。

 そして、この『弁当持参節約計画』は、台所の覇権を主張する母からの三回転半ほど捻りの入った母の愛という名の着ぐるみを着た妨害が予測される、精神的持久戦の始まりでもあるのだ。


 故に本作は、日々の簡単お弁当作りと、巧みに茶々を入れて来る母との攻防を綴る、日誌のようなものになるだろうことを宣言しておこうと思う。

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