この世界にダンジョンが出来たので追放されながら頑張っていこう。

如月はじめん

序章と言う名の日常

第1話 HELLOWORLD

「えーと、黒宮さん。チームからの脱退をお願いします」

 このパーティのリーダーである、明石あかいしさんから脱退を命じられた。見方を変えれば、最近流行している"追放"というものになるかもしれない。流行してたまるかという感じだが。通算46回目のチームからの追放である。




 現代社会は、急激に発展と変化を遂げた。

 まぁ、原因は一つしか無いので、簡単に簡潔に分かりやすく説明する。

 時は2015年。

 あの頃何が流行で何が話題だったのかは詳しく覚えてないし、未来にぼんやりとした不安を抱いて生きていたが僕だが、始まりは誰も気にしない些細な出来事だった。どっかのカルト集団が、異世界と僕らの世界を繋げたらしい。ほんの些細な外国の出来事で、この世界には超能力なんてものは存在しないし、宇宙人が攻めてきたことなんてありもしない。太平洋に接する島で世界が知らない間に、世界が脅かされる事態が起こり始めたのだ。

 そんな滑稽な法螺話を誰が信じるか!と、聞き手の皆さんは思うだろうが、本当のことである。信じて欲しい。

 その後、何やかんやあって異世界の人たちと交流したり、僕らの世界にダンジョンと呼ばれるゲームの中でしか見たことのない建造物が出現したりして、新しい社会、新しい文化、新しい人種を受け入れたり、差別したりして、この世界は変わっていった。

 既存の文化と既存の常識が新しいものに塗り替えられて、混沌となった。そして、全てが破壊され、残骸の上にダンジョンが建った。世界が文字通り、"変わった"。


 と、格好良く脚色をつけながら話してみたが、僕たち一般人の生活はあまり変化しなかった。所詮一般人である僕たちに世界を脅かす危機に対してできることなんて神に祈ることしかない。

 しかし、異世界ブームというものは素晴らしく、バブル景気を彷彿とさせる、今世紀最大と言える経済の成長、そして、新しい職業が多々増えた。

 この新しい職業が、僕に繋がり、僕(23)の現在の職業である【探索者】である。ダンジョンに潜る仕事の専門家だと思ってくればいい。




 探索者協会から出て、家に帰る。普通【探索者】は、チームを組んで大人数でダンジョンに潜るのだから、チームからの脱退、追放は深刻な問題。

 例えるなら、客が来ないレストランぐらい危機的状況なのだが、僕には色々な事情があるので日常の中では当たり前となっている。

 コンビニでキャベツを買う。

「合計で230円です」と愛想よく振る舞う店員さんの笑顔が可愛い。見たところ大学生ぐらいか。

 店員さんの笑顔に負けて揚げ鳥も買っておこう。




 揚げどりを食いながら、今月のことを思い出す、今回のパーティは中々早かったな。何がっていうと、僕がチームから追放されるのがだ。それだけパーティーが優秀だったのだろう。またはそれだけパーティーがダメだったのだろう。今回のは前者だ。かなり優秀なメンバーが揃っているパーティーだ。今日の振り返りというか、色々思い出していると、どっかから野郎の悲鳴が聞こえる。

 

 今さっき話してなかったが、ダンジョンがこの世界に増えたことにより、不審者に怯える世の中が、モンスターにも怯えなければならない世の中となった。稀にしか遭遇しないが、今は不審者よりモンスターの方が遭遇しやすいのは時代の流れなのだろう。

 空を見上げると、でかいカラスに咥えられている男性。結構大きな鳥のモンスターだ。結構高いところまで持て揚げられ、怖いだろうなと心の中で同情。ここ最近はダンジョン外でモンスター見なかったけどそれにしたってトリのモンスターか。とりあえず男性を助ける。

 僕の足元の影が、平面に伸び、立体的に駆け上がる。質量が無いその影は二次元を生き、この世界に馴染むことのない不気味さを醸し出す。

 影が、闇が、空を悠々と飛ぶでかいカラスを四角で覆い、地面へと叩きつける。もちろん男性の身の安全には配慮をしているぞ。


 影の中から男性を放り出すと、早々と逃げ去っていく。影の中で喚いているカラスは潰しておく。死体も何も、影と影に挟まれ、何も残らず。死骸は消え去り、なんてことのない日常の連続性へ戻る。

 こうやって僕たち【探索者】は、仕事をしてるのだ。

 今のはお金を稼げなかったけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る