第2話 わざわざ神社に寄ってからの

 ドアホンの荒い画像で見ても、亜純あすみの顔立ちが可愛いのは分かる。


 亜純が、俺の彼女という立場の人間なら、こんな身体の不調時に、こんな可愛い子が救世主のように現れてくれたのだから、大歓迎で家の中に入れるだろう。


 ただ、亜純は、今まで会話すらした事の無い、別の部署の後輩女性ゆえに、俺の立場上、体調が悪いとはいえ、ここで冷静さを失ってはいけない。


 どうして、亜純がこの家を知っていたのか、ここへどういう目的で来たのか、まずは知っておきたかった。


「あの、ごめんなさい」


「はぁ?ゴホッゴホッ」


 いきなり、謝罪......?

 なんか、よく分からない事に巻き込まれたようなストレスで、咳まで出だした。


「草西さんは気付いてなかったかも知れないですが、仕事の帰り道、私、よく、草西さんの後を尾行していたんです」


「えっ!ゴホッゴホッ」


 想定外の言葉に驚き過ぎて、咳が止まらなくなった。


 自分が亜純にずっとストーキングされていた事なんて、今まで全く気付けなかった!


「私、沢地さんと付き合っていたのも知ってます。でも、最近、2人で見かける事が無くなったから、もしかしたら別れたのだと思って、こんな体調の悪い時に、草西さんが1人だったら、とても辛そうと思って......」


 実眞みまと付き合っていた事も、別れた事も知っているのか!

 いくら可愛い顔しているからって、こんなストーカー女は御免だ!

 さっさと追い返して、インスタントラーメンでも食べて寝よう!


「いや、俺は1人暮らし長いし、風邪なんて毎年引いているから慣れっこだし、大丈夫、ゴホッゴホッ......」


 ただ、毎年、その時期には、実眞が付き添ってくれて、買って来てくれたお惣菜を一緒に食べていてくれたんだよな......

 ああ、こんな気持ち悪いストーカー行為をするような後輩じゃなくて、実眞が現れてくれた良かったのに!


「そんな遠慮しないで下さい!咳もしてますし。私、神社で、草西さんの病気回復を祈願して来た足で、ここまで来たんですよ」


 俺は、遠慮なんかしてない!

 やんわりと断ったつもりでいたが、亜純は、その言葉通り受け取って、空気を読んでくれなかったようだ。

 もっとストレートに断らないとダメなんだな。


 大体、神社で祈願したのは、俺の病気回復だけじゃないだろ?

 この手の女だったら、自分の恋愛成就も祈願して来たはずだ。


 俺は病気回復祈願など頼んだ覚えは無い!

 ここぞとばかりに、神様を味方に付けて、俺の身体の弱っているところに付け込んで家に来ても、俺は断固として拒絶してやるんだからな!


「俺は、神様に頼らなくても、自力で風邪くらい回復出来るから、気にしないで」


「気にしますよ~!せっかく、栄養つけてもらおうと、食材も買って来たんですから!」


 えっ、


 こんなに体調が悪いのに、俺の胃袋がそのワードに敏感に反応した。


「いや~、気を遣わせて悪いね」


 こんな危ない女を家に入れてはいけないという理性は有るのに、食欲に完敗してしまっていた!

 ドアを開けると、テレビ画像よりで見ていたよりも、ずっと可愛い亜純が、仕事帰りのバッグの他に、小柄な体には重そうに食材を抱えていた。


「ちょっとむさ苦しいけど、まあ入って入って」


「あっ、はいです~!お邪魔しま~す!」


 重い荷物を持って、亜純の小動物系のようにちょこまかという感じの動きをしているのを見ていると、追い返すなんて心無い事をしなくて良かった。

 何より、俺のお腹が満たされるのだから!

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