第4話 激怒のわけ

 涅槃に来た。

山口は三途の川を渡り、みんなが歩く方向へ

共にあるいた。


「懐かしいな。ブッダ様をお訪ねした時いらいだもんなあ。あ?あの時は飛んで行ったんだったなあ……」


 歩く群れは1本の行列となった。その先にいるのは閻魔大王だった。


「やばいな。閻魔に10年くらい休みやってない。怒ってるだろな……」


 10時間並んでやっと閻魔大王の元にたどり着いた。


「はい。次。


山口 哲也、80歳。双極性障害、ギャンブル依存症、借金。これはひどい。


餓鬼地獄で100年。

のち、畜生界にて犬。雑種。名はトラ。

以上。

はい。次。」


「ちょっと待ってくれ。そんな時間はないんだ」


「80歳のじいさんが閻魔大王に物申すとはなにごとか!」

「閻魔。僕だ」

「え???涅槃ブッダ様?」

「そうだ」

「うそ」

「うそではない」


「………申し訳ございません。まさか?まさか?涅槃ブッダ様がお越しになるとは……内部監査ですか?」


「閻魔。事が落ち着いたら必ず有給をやる。だから今から言うとおりにやってくれ」


「はい。有給のためなら何でもやります」


(あ~、やっぱり休みたかったんだなあ…)


「だって涅槃ブッダ様、こんなにブラックとは聞いてなかったんですもの!初めの話では有給はいつでもとれますよ~って言われました」


「本当に申し訳ない。こうしよう。今から言うことが1日でできれば、もう1日は僕が仕事して、閻魔は有給。どうだ?」


「おっしゃっるとおりに致します」


「よし。僕をすぐに人間界に輪廻転生させてくれ。しかも力を最大限に引きだせるピークの35歳で復活したい。どうだ、できるだろ?」


「そんなのむちゃくちゃですよ!」

「無理を言っているのはわかってる。そこをなんとかしてくれ」


「非常に危険を伴います。前例がありませんし。何が起こっているのかわからないのですが、涅槃ブッダ様は地球だけお守りいただければよいのではありませんか?」


「なに?地球が無事なら他の惑星がどうなろうと構わないとでもいうのか?本気か?」


「…………う」


「閻魔。帰っていいぞ。あとは僕がする。お前の代わりの者が見つかったら、いつでも辞めていいぞ!お前が言ったことは我利我利の欲という、僕が一番嫌う欲だ。そんなものにこの大役を任せることはできない。帰れ!」


「涅槃ブッダ様、申し訳ございませんでした。全ておおせの通りいたします。」

閻魔は泣きながら詫びた。泣いたのは生まれた時以来であった。


「過労がおまえに言わせたとする。2度目はないと思え!」


「はい。わかりました」


「疲れたであろう、閻魔。今日は帰って休め。跡は私が引き継ぐ。事は明日行う」


「はい、涅槃ブッダ様……」


 閻魔大王はそれ以上何も言わず下を向いて肩を落としトボトボと帰って行った。



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