モグ 3【対阿弥陀仏編】

嶋 徹

第1話 神様はモグと1Kにいる

「モグ、お腹すいた」

「私もよ」

「なんか取る」

「いや、食べに行こう」

「どうして?」

「だって寝てばかりいるやん」

「だって30年修行して80歳やん。おじいさんは寝てるもんだよ」

「私は10年生きて、20年死んでたのよ。死んでる期間の方が長いちゅうねん」

「だよね」

「あんた仕事しなくていいの?」

「仕事は閻魔がやってるから。あいつ真面目だから休まないの……有給とるなら僕がやるけどなんとなく……」

「あんた本当に涅槃ブッダ様?」

「だと思うよ?みんなそう呼ぶんだもん」

「なんかアヤフヤね?」

「そんなのどうでもいいからお腹すいた」

「わかった。回転寿司に行こう!」

「え?いいの?回転寿司!」

「今日だけ特別ふとっぱら」

「やった-、やった-、やった-」


「あんた……この人が地球守ってるって誰も信じないだろうな……」

「いくぞ。モグ」

「なんでサングラスしてるのよ?」

「いや、一応身分は隠しておかないとな」

「サングラス取らないと行かない」

「とります。こんなもの捨てます」

「どれだけ回転寿司食べたいのよ?」



───────────────────♪


 歩いて15分。

 春先の気持ちがいい天気。


入店しても「いらっしゃいませ」の声もない。ご案内もない。自分でボタン押して勝手に座る。う~ん、時代だと思うしかない。

「モグ、ビール飲んでいい?」

「一杯だけね。あとはお茶飲んで」

「は~い」

「注文もタッチパネルだね、てっちゃん」

「そうだね。もう昔がどうだったか思いだせないよ」

「そだね」

「モグ、ビール注文して」

「はい、はい」

「ビール回転してくるのかな?」

「どう回転するの?」

「多分、スケートみたいにその場で回転する」

「それして何の意味があるの?」

「そこなんだよ、わからないのは……」


「頭いたくなってきた」

はい、ビールどうぞ!

「うそだろ。そこだけ普通かよ!」

「アハハアハハ、ざまあみろ」

「はい、乾杯」


「てっちゃん。悟りの境地を開いたらあわてることはなくなるの?」

「わからない。たぶんそんなことないと思うよ」

「ふ~ん。じゃあ、悟りってなに?」

「そんなに特別なことではないと思う。ユリゲラ-みたいに止まった時計を動かす方がすごいんじゃない。まあ、電池交換したほうが早いけど……」

「だって昔からぜんぜん変わってないもん」

「エンガワ注文して。」

「だって昔からぜんぜん変わってないもん」

「エンガワ注文して。」

「しました。しました。むしろ昔よりバカになったわよ」

「エヘヘヘ」

「笑う所じゃない。余計にバカにみえるでしょ。もう本当に……」

「なんかテ-ブルがガチャガチャになってきたぞ。あのすいません。このお皿下げて貰っても宜しいですか?」


「…………え?」

「え?」

「すいません。何でもないです。冗談です」

「え?」

「顔から炎がでそうよ!」

「え?」


今は会計も無人になっていた。

「助かった。誰にも会いたくないから」

 

モグは逃げるように店を出た。


涅槃ブッダはなんかモグの機嫌が悪いなとは思ったが自分のせいだとはゆめにも思わなかった。


「モグ、お腹いっぱいになったな!」

「…………」

「おい、モグ?」

「…………………………」

「あれ?」

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