愉快な5人の超絶イケメン戦記

冨平新

序章 テレポート

 (ファ~ア、ねむい)


 コンボイオ高校1年生の超絶イケメンは、

2時限目から大きな欠伸をした。


 (退屈だなあ。高校なんて早く卒業したい)


 この超絶イケメン男子のコードネームはW&B。

 1人だが、W&B。

 W&Bは、身長が199cm、

色黒でやせ型の、超絶イケメンだ。


 昨年のバレンタインデーには、

チョコレートを32個もらっていた。

 高校で1番のアイドル男子と言っても

過言ではないだろう。


 ここ、アフリカのモザンビークも、

2050年ぐらいまでは治安がひどかった、

と歴史の教科書に記されていた。



 現在は西暦2555年。

 地球の全ての国境が、

実質的には完全に取り払われた、

といっても過言ではない世界となった。


 世界各国がインターネットで繋がったのが

およそ550年前、

国独自の慣習こそ、失われてはいないが、

今や、『世界統括電脳』、

共通語である英語で表現するならば、

『World Electric Intelligent Totalitarian』、

略して『WEIT』が、

地球全土の人類を統括するシステムとして稼働していた。


 約600年前のポスト・パノプティコンが進化を遂げ、

全ての人類の24時間の動きを記録する

徹底した監視社会となっていた。


 インターネットで獲得した視聴覚情報を全て記録し、

国際法に違反する人物を発見したら

各犯罪ごとに内容を詳細に記録されファイリングされた。

 また必要に応じて、各国の警察に通報するようにしていた。


 しかし、国際法違反者数は莫大であり、

『世界統括電脳』は対策を迫られていた。



 法律違反にならないまでも、

授業中欠伸をしたW&Bのこの行動も

当然、記録されていた。


 帰宅時間、トイレや風呂に入った時間

家族との会話内容なども全て記録されていた。


 2時限目が終わった。

(さーてと、トイレにでもい・・・・・・・)

 W&Bが、瞬時に消えた。


 目の前で、クラスメートが消えることは

珍しくなかった。

 昔はこのような現象を

『神隠し』などと呼んでいたらしいが、

現在では、『世界統括電脳』が、

必要とあればテレボート技術で

人間を瞬間移動させることができるからだ。


「キャーッ‼」


 超絶イケメンのW&Bの

彼女になれることはまずないが、

ファンの女子たちは、貴重なイケメンが

いなくなってしまったので、

涙を流しながら悲痛な叫びをあげた。


     ◇ ◇ ◇


 明るい日差しを浴びながら、

アラビカ種のコーヒー豆の栽培農家で働いている

コードネームGは、

真紅になったコーヒーの実を

1粒1粒もいでバケツに入れていた。


 南アメリカ大陸のブラジルのコーヒー農園での作業は

とても地道だが、25歳の貧しいGは、

晴れた日に、コーヒー豆の世話をする時間に

幸せを感じて満たされていた。


 「ふう、だいぶ収穫できたな。

これで今年も、美味しいコーヒーが飲めるな」

 バケツ20杯分のコーヒーの実をトラックに乗せると、

倉庫に向けてトラックを走らせた。

 倉庫の前で従業員が待っていた。


 600年前に、一世を風靡した

ジェームスディーンに面影の似た爽やかな笑顔で

従業員を見つめながらトラックを降りると、

 「お疲れさまでした!」

と、入り口で待っていた従業員たちが声をかけた。

 「いやあ、今年もいい豆ができ・・・・・」

 「!?」

 Gが、従業員の前で、忽然と姿を消してしまった。


     ◇ ◇ ◇


 シュッシュッ、シュッ、

 バスッ、バスバスバスッ…

 サンドバッグが鈍い音をたてて

コードネームRの瞬速パンチを受けとめる。


 昨年は、ニュージーランド全国大会で

準優勝して、銀ベルトを獲得したR。

 今年こそは、チャンピオンベルトを狙いたい、

チャンピオンベルトを獲ったら、

オセアニア大会でチャンピオンを狙いたい、と

20歳のRは意気込んでいた。


 厳しいダイエットに耐え、

180cm52kgの体型を維持している

ストイックな色白イケメンR。


 「今年こそは…」

 バスッ、バスバスバスッ、バスッ、バスッ…


 「…さん、…さーん」

 Rの耳には、他人が自分を呼ぶ声など耳に入らない。

 目の前のサンドバッグに、

今度の対戦相手の動きを想像して幻影を重ねていた。


 バスッ、バスッ、…バスッ!

 (決まった!このパンチでノックアウ・・・・・・)

 「もう、バイト先から電話がかかってきたから

呼んでるのに…え?あれっ?」

 ボクシングジムの仲間が駆け付けると、

Rは消えていた。

 Rが叩き込んだサンドバッグが、揺れていた。


     ◇ ◇ ◇


 香辛料の匂いが充満したカレー屋台。

 「俺、インドに生まれて、ほんと良かったわ」

 「私も、一生カレーしか食べられなくてもいいと思うわ」


 客のこうした会話を耳にすると、心がウキウキしてくる。

 朝、沐浴をして戻ってきて、まだ髪は濡れていたけれど、

優し気で健康的な褐色イケメン、

コードネームYのサラサラヘアは、

ドライヤーなしでも15分後には完璧に決まる。

 

 28歳のYは、カレー屋台を経営していた。

 屋台と言っても、丸いテーブルが16もあり、

2~4人ほどでテーブルを囲んで食べるので、

毎日かなりの量のカレーとナンを用意しなくてはならない。


 従業員もみなYを信頼していた。

経費を惜しみなく使ってしまうので、

あまりお金は貯まらないけれども。

 

 Yは従業員と、和気あいあいとカレーを仕込んだり、

客の笑顔を見たりすることが、人生の何よりの喜びだ

と感じて、毎日幸せいっぱいに暮らしていた。


 夜、23時を廻った。

 「さてと、今日もなかなかの売り上げだったな」

 インドに旅行にやってくる観光客も多かったことから、

その日の売上金額は、前の日の額を上回っていた。

 「みなさん、おつかれさま。まかない、食べてい・・・・」

 「…え?あ、あれっ?店長っ?・・・・・・・店長ー!!」

 まかないを用意しようとしたYも、突然消えてしまった。


     ◇ ◇ ◇


 静寂な室内に、大きなアンティークの

よく使いこんだ木製の机と椅子。

 左手には自国のスウェーデンの小説、

右手には温かい紅茶の入ったカップ。


 コードネームBは、

角砂糖を2つ入れた紅茶が冷めないうちに

音を立てずに上品にすすった。

 カップを置くと、

ジンジャーブレッドクッキーを

ひとつつまんでかじり、小説の文字を追った。


 色白で丸顔だが、細マッチョ。

 大きなサファイアのようなブルーの目。

 赤ん坊の頃からの輝く白髪は、

逆にイケメンを際立たせるマッシュルームカットだ。


 やや近寄りがたい印象の、知的で上品なイケメンB。

 27歳の作家のBは、静寂を愛していて無口だが、

作品を書くとなると、次から次へと

言葉やアイデアが溢れ出てきてとまらなくなる。


 窓から柔らかな日差しが、暖かい。

 寒色系を好むBの部屋のカーテンは紺色だが、

寒色とのコントラストが、かえって暖かい陽気を物語る。


 Bの視線が固まっていた。

 作風のアイデアが、浮かんできたときの顔になった。

 机の上のパーソナルイメージライターは、

太陽光で自然と充電されながら、

Bの思考を読み取り、文字へと置き換えていた。


 「子猫と戯れる少女の美しい・・・・・」

 ここまでライターが記録したところで、

Bは姿を消した。

 室内には、誰もいなかったので、

Bが消えたことは、誰も知らない。


 軽く開けた窓の隙間から、

暖かな風が吹きこみ、紺色のカーテンを揺らした。

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