晩鐘

連野純也

 これは出逢いと喪失の物語。

 今でも狂おしいほどに彼女を追い求めている。私の魂にある傷からは血がじわじわとしみ出していて、生涯消えることはないだろう。


 当時の私は高校生。

 なんの変哲もない、平和で穏やかに過ぎていく、学生生活。私は傲慢ごうまんにも退屈していた。

 気心の知れた友達がいて、それなりに付き合いのある仲間がいて、成績は悪くもなく人並みで——。

 昨日とさほど変わらない明日。だらだらと続く平凡。

 きっとこの国ではどこにでもありふれている日常。

 

 ——つまらない。


 もっと刺激が欲しかった。

 そのときまだ私は子供だったのだ。安穏あんのんな暮らしに胡坐あぐらをかいて、夜の闇の向こう側も知らず。


 あの夜——ああ、満月のあの夜に、予感などは何もなく、

 ただ私は乱暴な運命と出逢った。


 愛するがゆえに破滅へいざなう魔性の人ファム・ファタール

 前触れもなく突然に現れて、そして私のすべてを変えてしまった。


 誰が何を言おうと——世界が二人をはずかしめようと関係ない。

 この真実は、ふたりだけのものだから。



 私が彼女の運命だったように、

 彼女は私の運命だったのだ。



 


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