チートとは?
康治2年(1143年)
こんにちは平重盛です。
あれから女神様からの指令は月1回くらいのペースで出されています。
-邸宅内の大掃除をしよう-
→病蟲ハエを一掃しました。大掃除じゃなくて駆除だよ。
※御饌都神みけつかみの甘味書
-床下の大掃除をしよう-
→じいちゃんを呪詛するお札を発見して清盛パパに渡したけど、Misson失敗。自分で処分しないといけなかったみたい。
-母さまのために飴を作ってあげよう-
→ばあちゃんに見つかって頓挫した。Misson失敗。
こんな感じの指令が続いている。
よく読んでいたラノベだと、Missonの成功率って、100%だったけど僕の場合は失敗のほうが多い。
ひとえにMissonの説明不足だと思う。
最初の転生のときといい、Missonの説明といい、割と雑な女神様だな。
「こーらっ。集中できてないよ」
母さまに叱られた。
いかん、和歌の勉強中に考え事をしていたのがまずかった。
「はい。しっかりやります。」
我が家では最近とみに和歌が盛んになっている。
というのも、じいちゃんが崇徳上皇主催の歌会に足繁く通うようになったからだ。
政務に参画させてもらえない崇徳上皇ではあるが、上皇様は今、歌壇の中心に君臨されている。
鳥羽法皇は政務や憂さ晴らしに忙しく、風雅に時間を割く間がないと見える。
そのため、崇徳上皇にも活躍の場ができているという状況だ。
じいちゃんは、ばあちゃんが崇徳上皇の子である重仁親王の乳母だったこともあって、声をかけてもらって、上皇様の歌会に参加するようになった。
おかげさまで上皇様の覚えもめでたい。
それなのに鳥羽法皇にも睨まれずに上手く立ち回っているのはさすがだ。
さて、そのじいちゃんの歌会参加の余波で、我が家では和歌が大ブーム。僕の和歌の勉強時間も増えていると言う訳だ。
ふふふ、ここは一つ人生初のチートを発揮してやりますか。
「心なき身にもあはれは知られけり鴫立つ沢の秋の夕暮れ~」
どうだ、新古今和歌集ならまだ詠まれてないだろうし、時代的にも問題あるまいっ。
「・・・重盛ちゃん。人の和歌をそのまま使うんは、あかんでー。」
「えっ?」
「この前、佐藤義清様が・・・あ、今は西行様やな。うちに遊びに来られたときに披露してはったやろ。」
初チート失敗!!
母さまに可哀想なものを見る目で見られてしまった。
いかんっ。子どもの威厳(?)を取り戻さないと!
「母さま。父上が勉強している算術を見てみたいよ。」
「えー。ええけど、重盛ちゃんには難しいよ。」
くくく、算術で初チート達成してやるっ。
母さまが一旦部屋から出て行って、本を持って帰ってきた。
差し出された本を見ると
「・・・海島算経?」
とりあえず、1ページ目を開いてみる。
「なになに、島があります。高さ3丈(約9m)の2個の日時計を、前後を1,000歩隔てて、2つの日時計と島の頂上が直線になるように立てます。ここで前の日時計から123歩退いて、目を地につけて島の頂上を見ると、前の日時計の先端に重なります。
次に後ろの日時計から127歩退いて、目を地につけて見ると、島の頂上と日時計の先端が重なります。では、島の高さと前の日時計からの距離は、それぞれいくらでしょうか。」
「・・・どう?」
「え、何これ?」
「まずは単位そろえるとこから始めなあかんで。1歩は6尺やから0.6丈な。」
「・・・母さま。まさかこれ分かるの?」
「うん。荘園の租税計算に算術って大事やし、それにうちって西国とか越前とかとつながりが深いやろ。宋と貿易もしているし、算術は必須やね。」
・・・算術チートも断念した。
「ふう」
ちょっと休憩だ。
「ねえ、母さま。父上やじいちゃんって、結構すごい?」
「うん。そう思うよ。でもねえ、もっとすごいお方もおってやで。」
「え?誰?」
「藤原頼長様や。あのお方が当代一やろねー。」
「藤原頼長様かー。」
ここでその名前が出ますか。摂関家の大物、大貴族だ。そして将来的には保元の乱で平氏と敵対関係になる人物だ。
「おじい様がたまに邸宅に伺わせていただいているやろ。」
「そうなの?」
「おじい様って、世間的には成り上がりって見られてるところもあって、嫌っているお公家さんも多いんや。そんな中で、頼長様はおじい様のこと評価してくれてはって、ありがたいことや。」
でも将来的には敵対するんだよなあ。
優秀だし味方になれば心強そうだけど、政情とか平氏の立場とかを考えると難しそうだなあ。
「重盛ちゃん、そろそろお歌できたかなー。」
くっ、チートが使えない以上、実力でのし上がってやる!
このあと幾つか作った和歌の評価はさんざんだった。
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