ナイツオブアーカイバー

藤乃宮遊

プロローグ

 かんたんに言えば


 俺は、自分を雇っていた貴族に殺された。


 実際には一命はとりとめたし、

 見返りに幸運を手に入れた。


 だから、元雇い主の貴族に恨みこそあれど

 これ以上関わるつもりはなかった。


 自分の身分はどこまで行けども貴族に飼われる運命にある。

 それならば、新しい環境で

 新しい国で


 新しい自分の人生を始めてみてもいいと思った。


「あら、日記を付け始めたの?

 実は私も書いてるのよ? 王子様に助けられた。とか、敵国の騎士と駆け落ちしたとか。それに、ドラゴンを討伐した話もあったわね」


「それは、日記ではないと思います」


「そんな細かい話はいいのよ。

 今からアランくんとルシウスくんが闘技場で模擬戦をすることになったんだけれど、見に行かない?

 どっちが勝つかで今日のご飯のおごりを賭けましょう?」


「え、嫌ですよ。

 アラン先輩が勝つに決まってるじゃないですか」


 話しかけてきた女騎士は笑い飛ばして


「そうとも言えないわよぉ。

 最近ルシウスくんはランクを上げたのよ!」


「ま、まあ。興味が無いわけではないです。

 実力のあるFAパイロットの模擬戦はめったに見られませんから」


「帝国はそうなの? こっちではこんなこと日常茶飯事よ。

 あなたもしばらくすると絡まれるようになるわね。

 実力的に言えば、アランくんなんて敵じゃないでしょう?」


「それは、あのFAがあってこその」


「隠してもいずれはバレることよ。

 あの【王国十二騎士王】を倒したんでしょ。帝国の量産機で」


「あんなの。運が良かっただけですよ。

 ゴードン殿も、試作機でボロボロでしたし」


「それでも、同じ大隊はほぼ壊滅だった。半分は逃げたそうじゃない。

 勝ったのはあなたよ。自信をもちなさい」


「流石に、今は誰にも負けるつもりはないですがね」


 もしも、ゴードン殿と戦うときにそれに搭乗していれば。


 と。

 その時点では俺はあの貴族の付き人をしていた。

 まず、ユニーク機体を触る機会すらなかっただろう。


「本当に。

 運が良かっただけです」



 たった、2週間前の出来事。

 俺はその時はまだ、帝国人だった。



ーーーー赤王歴603年 2月


 帝国の西側には霊峰があり、隣接するオラシオン王国とは地続きでありながら絶対に超えられない壁に面していた。

 帝国が栄え始め王国とは長い付き合いであるが、霊峰を迂回するルートでのみの関係だった。


 標高10万メートルを超えるその霊峰を超えられる者は居ない。


 この500年の帝国の歴史で、霊峰側から攻められたことは一度もなく、

 だが、しかし。

 麓にはそんな事実に似合わず、帝国騎士団の一個師団が駐屯していた。

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