十八話 おにぎり完了
ルイスはその後、依頼を達成するために草原に落ちていたおにぎりを更に五十個ほど拾い集めた。先ほどニ十個おにぎりを手に入れたんだから三十個ほどだけ拾えばいいのでは? と思うだろうが、ルイス曰く「解体で手に入れたおにぎりと拾ったおにぎりは違う物だろ? だから五十個別口で集めないとな」との事だった。プリマリアは「違いが分からねぇよ」と、眉間のしわが寄ってしまった。
そして日が完全に傾く前に、都市カオッカの門前へと帰りつくことができた。色々作業したんだから夜になる前に帰るのは難しいんじゃないか? と途中でプリマリアは思ってたが、不思議と間に合ってしまった。本当に依頼で時間が捻じ曲がっているのかもしれない。
「ん? 君達、ちょっと前に出た子たちか。今日は切り上げて明日また採集の続きをする気かい?」
「いや、今日の依頼は無事に済ませた。これから暗くならないうちにギルドへ向かうつもりだ」
「なんだって、午後に出た割に早くないかい? 普通なら午後に出ても、拾ったおにぎりをついつい食べつくしてニ、三個しか持って帰れないのが普通だが……」
門番が疑ったような表情で二人を見つめてきた。ちなみにプリマリアは「拾ったもんを食べるなよ……。汚いでしょ……」と、門番の食いしん坊っぷりを小声でツッコんでいる。
「俺は拾ったおにぎりを食べてない。狩ったおにぎり魔物はさっきつまみ食いしたがな」
「なるほど、君達は相当手練れのようだな。おにぎり魔物を狩りながら、おにぎり採集をするだなんて……僕だったら我慢できずに食べつくしてしまうよ!」
「ふ。つまみ食いスキルで腹ごなししただけさ。大したことはしてない」
門番の表情は明るくなり、ルイスの活躍を自分の事のように嬉しそうに聞いてくれた。プリマリアは「だからそんなもん食うなよ。二人とも食いしん坊か?」と二人の食いしん坊っぷりを中声でツッコんでる。
「よし、それじゃあまたギルドカードを見せてくれ。おにぎりギルド付近はちょっと治安が悪いから、急がないと危ないぞ?」
「それは嫌だな。じゃあ、これ」
「よし。問題なしだな。若い勇士様達のご帰還、ご苦労様だ」
そしてルイスはくっきりと歯形が残っている自身のおにぎりギルドカードを見せ、門番から都市に戻る許可を貰った。プリマリアは「待て、待て! その歯形は何!? もしやそれもつまみ食いしたのか!?」と、ルイスの食いしん坊っぷりを大声でツッコんだ。あなたは小声中声大声の三段階のうち、どのツッコミ音量が好きだろうか。
その後プリマリアも呆れた表情ながらも許可を貰い、二人はすぐさまおにぎりギルドへ向かう。なんか変な展開が来る予感がするので、プリマリアは嫌そうな顔になっている。
***
「あ、ルイスさんプリマリアさんー。どうしたんですかー? 何か確認し忘れた事がありましたかー?」
ギルドの正面付にはいつも通りジョーナがいた。というか、周囲の受付を見ても昨日から対応している従業員が一人も変わっていない気がするし、飲食スペースにいる客もあまり変わってない気がする。プリマリアは風景の変化の乏しさにやや不気味さを覚えた。
「依頼は完了したから、手続きを頼む」
「えっ。ちょ、ちょっと待ってくださいー、こんな短時間でおにぎりを拾ってきたんですかー? 早くないですかー?」
「別に普通だろう。ほら、これが依頼のおにぎりだ」
ルイスは袋の中から五十個のおにぎりを取り出す。ジョーナはその様子を見て慌てた顔になっていく。
「ほ、本当に草原のおにぎりが五十個もー!? しかも全部高品質のおにぎりだなんて、凄すぎますー!」
「おにぎりを探す魔法で落ちたてホカホカのおにぎりを選んだからな。それなりのランクになるのは当然の事だよ」
高品質なおにぎりに対して驚くジョーナに、ルイスはやや自慢げな表情を浮かべた。
「なんで落ちたてホカホカのおにぎりが草原に五十個もあったんだ……。なんで地面に落ちたおにぎりが高品質判定なんだ……。分からん……」
いつも通りプリマリアが理解に苦しんでいる様子であったが、ジョーナはそんなこと気にせずルイスにまっすぐ眼を向ける。
「ルイスさん、謙遜はしないでくださいー。地面に落ちたおにぎりは、普通ぐちゃぐちゃになるんですよー? 初心者おにぎり士はそういうのを集めるのが普通なんですー!」
「まぁ確かに、あそこの辺りはぐちゃぐちゃしたおにぎりがほとんどだったな」
「でもルイスさんのおにぎりはしっかりと形を保っていますー! これなら依頼者のおにぎり屋さんで売っても高評価を得られるに間違いありませんー!」
「大したことはしてないんだがな」
褒めるジョーナとやや控え目な態度のルイス。真横にいるプリマリアは「そもそもぐちゃぐちゃなもん集めさせるな。そして売るな」とツッコんでいる。
「それにしても、魔物にも会わずこんなにおにぎりを集めるだなんて運が良いですねー。あそこは魔物がでやすい地帯なのにー」
「魔物には会ったぞ? おにぎりウルフとおにぎりボアにな」
「へ?」
「これが証拠だ」
魔物に会ったと言うルイスの発言に、ぽかんとした表情になるジョーナ。そして、ルイスは机の上に十四個ほどのおにぎりと、一個の歯形がくっきり残った食べかけのおにぎりを出した。
「おにぎりウルフとおにぎりボアから採取したおにぎりだ。そのうち五個はつまみ食いしたがな」
「本当につまみ食いしてたのかあんた……。というか、一個食べかけじゃねーか、んなもん出すな」
冷静な表情でおにぎりをジョーナに見せるルイス。得体の知れないおにぎりを五個食べた上に一個を食べかけ状態でそのままギルドに提出すると言う大胆さに、プリマリアは馬鹿者を相手取る態度になっている。
「あ、あわわわわ、お、おにぎりウルフにおにぎりボア、あわわわわー……」
一方、ジョーナは汗をだらだら流した大変慌てた状態になってしまう。とんでもない物を見てしまった顔つきだ。目の前にあるのは一見ただのおにぎりにしか見えないが、彼女にはちゃんと分かっているのかも知れない。
「い、いますぐスタルードさんを呼んできます! マスター! マスタぁ~!!」
そして大慌てで、ジョーナはギルドの奥へと引っ込んでしまった。
「……プリマリア、何が起こっているんだ? 俺はおにぎり十三個と食べかけ二個を提出しただけなんだが……。もぐもぐ」
「……正直私もギルドマスターを呼びに行った理由は分かりませんが、とりあえずこれだけは言っておきます。さりげなく喋ってる最中におにぎり食って食べかけを増やすんじゃねぇ~~~~~!」
きょとんとした表情で提出したおにぎりをまたつまみ食いにしたルイス。それを従順そうな口調から激しいツッコミに切り替えるという新技で指摘するプリマリア。ギルドで何かが起きそうな気配があっても、二人のバカ騒ぎは止まらぬ。止まらぬ。
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