七話 おにぎり説明

「それではルイスさん、プリマリアさん。このギルドの初回説明を行いますねー」


 ルイスとプリマリアは試験を終えた後、おにぎりギルドの最初の窓口へ戻ってきた。受付嬢のジョーナが引き続き担当した。


「……あれ。私の試験をやった記憶がないんですけど」

「あー。それならギルドマスターが『あぁ、付き添いの一人ぐらい免除していいだろ』と言ってたので免除されましたよー」

「危険なギルドって言ってた割に審査が雑じゃん……」


 正確にはプリマリアは試験を受けていなかったのだが、スタルードの気まぐれで免除となったらしい。適当なシステムに、プリマリアは渋い表情を浮かべる。


「ではこのギルドについて簡単に説明いたしますねー。このギルドはおにぎりのギルドです。以上です」

「説明が簡素すぎやしませんか」

「冗談ですよー。続きましてギルドのシステムを説明いたしますねー。このギルドでは、依頼掲示板に貼られている依頼を受けたりギルドで提示された収集アイテムを売る事で、収入を得ることができます。初心者なら、草原でのおにぎり収集依頼がおすすめですねー」

「草原でのおにぎり収集依頼ってなんなの」

「また、ギルドのおにぎり士には作れるおにぎりの出来によりランクが付与されます。下からF・E・D・C・B・A……とランク付けされており、またその上には特別な者のみに任命されるS・SSと言うランクもございます。ランクによって受けれる依頼の制限もございますので、ご注意くださいー」

「おにぎり作るだけでそんな細分いるのだろうか……?」

「ちなみにギルドのルール上、新人はFランクとなりますのでお二人とも最初はFランクですね。ですがお二人の実力ならおにぎりの収集依頼さえこなせばすぐEランクになると思いますよー!」

「作れるおにぎりの出来のランクなのに、なんで収集依頼でランク上がるの……?」

「また、これから渡すギルドカードですが紛失した場合、機密情報保持のためギルドカードがおにぎりになりますのでご注意くださいねー」

「……おにぎりになるの!?」


 こうしてジョーナは一通りのギルドの説明を行った。ギルドの基本システム、ランク分け、ギルドメンバーカードがおにぎりになる事、エトセトラ、エトセトラ……。一言ごとにツッコミポイントが挟まるためプリマリアがいちいち反応したりもしたが、一応一通り聞くことはできた。


「それではお待たせしましたー。こちら、二人のおにぎ……ギルドメンバーカードでございますー」

「一瞬おにぎりって言いかけたな」


 そして二人はおにぎり、もといギルドメンバーカードを受け取った。黒っぽいカードには個人情報が書かれており、身分証明としての機能を十分に物語っている。


「よし。これでおにぎり士になると言う目的は果たせたな」

「目的は身分証明だったはずでしょう、ルイス様。手段を目的にしないでください」

「さて、目的も済んだことだしそろそろ宿屋を探さないとな。でなきゃ野宿になってしまう」


 ルイスが宿屋を探しに行こうと立ち上がろうとすると、ジョーナが話しかけてきた。


「宿屋をお探しですかー? それでしたら、「明日亭」って言う宿屋がおすすめですよー。サービスもいいですし、出される食事が月一しか爆発しない良い店なんですー」

「出される食事が爆発する時点で全然いい店じゃないんですけど」

「でしたら「木漏れ日の宿」って宿はいかがですかー? 食堂で呼吸できないくらい腐敗臭がとんでもないですけど、爆発は全くしないのでおすすめですよー。この二軒は絶対に鉄板宿ですねー!」

「ここら辺の宿、危険物件しかないんですかね!?」


 ジョーナは二人におすすめの宿をおすすめしてくれた。しかし、そのどちらも危険性が垣間見えるのでプリマリアは拒否感を露わにした。


「安心しろ、プリマリア。もしもの時は食事は俺が作ってやる。とりあえず明日亭に泊まるとしようじゃないか」

「う、うーん……。いろいろ不安はありますが、ルイス様が食事を作るなら少しはマシですかね……。ほかにマシな宿もないなら、そこにするしかないでしょうか……」

「よし、なら決まりだな。ジョーナ、明日亭の場所を教えてくれ」

「はいはいー、分かりましたー」


 ルイスはプリマリアを説得し、最終的に明日亭と言う宿に泊まることを決めた。ジョーナから地図らしきものを受け取り、細かな道順などを教えてもらった。


「それとジョーナ。俺たちはこの国の金を持っていないので素材の買い取りを願えないだろうか」

「買い取りですかー? 別に大丈夫ですよー。本来なら別の窓口で受付するところですけど、今回はここで受付しますよー」


 そしてルイス達はライスキー王国の金銭を持っていなかったため、素材の買い取りをギルドに提案した。ジョーナはそれに快諾し、素材を買い取る準備を始めた。


「ルイス様。売れる素材をお持ちなんですか?」


 プリマリアがルイスに尋ねる。ルイスはごそごそと道具袋を漁りながら答えた。


「あぁ。ドラゴンから採取した素材が余っているからそれを売ってしまおう」

「ドラゴン! あの、最強種族と謳われる巨大な魔物の素材ですね、ルイス様っ?」

「そうだ。千年前に討伐した奴の素材を道具袋に入れっぱなしだったんだ。時渡りの際に消えてなければ、奥の方にあるはず……」

「すごいですね、ルイス様! 私を召喚して以降、なんかおにぎりおにぎりばっか言っていて勇者っぽさが無くなっている気がしましたが……そんな素材をお持ちとは、やっぱり勇者らしいですねっ!」


 プリマリアはルイスへ期待のまなざしを向ける。ドラゴンと言えば、魔物の中でもトップクラスで強大な種族。普通の人間ならばどう考えても太刀打ちできない相手だ。そんなドラゴンの素材を持っているなんて、やっぱりルイスは凄い方なんだ! とプリマリアは数時間ぶりにルイスへの尊敬の念を抱いた。


「お、あった。これだよこれ」


 そしてルイスはそんな言葉と共に、道具袋から何かを取り出す……。

 



 ……取り出されたのは、三角形の普通の白いおにぎりだった。


「これがドラゴンから採取したおにぎりだ」

「ドラゴンから採取したおにぎりってなんだよぉーっ!?」


 ツッコミと共に、プリマリアの期待と尊敬ははかなく散った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る