第七話 記憶の断片 その三

 私の頭には龍二しかいない。というわけではなく、夢で見たあの神社が大半を占めていた。単なる夢のはずなのに、気になって仕方がない。


 授業中もずっとそれが気になり、私は学校が終わったのにも気がつかなかった。


「マイハニー、さぁ、この地獄からともに脱出しましょう。まだ見ぬ世界の果てへ、僕と行こうではありませんか〜」

「龍二……? あれ、学校は……」

「三十分前には終わってるのさ。だから僕と……」


 そっか、私、ずっと考えていたのね。うん、決めた、やっぱりあの神社へ行かなくちゃ。理由は分からないけど、そんな気がするモノ。


「ねぇ、龍二。私、どうしても行きたい場所があるの。連れて行ってくれるかしら?」

「おーけ、おーけ、マイハニーのためなら、たとえ地球の裏側だろうと、月だろうと、どこへでも連れて行こうじゃな〜い」

「えっと、月はさすがに無理だと思うわ。私が行きたいのは、『竹採神社』って場所なんだけど」


 夢で聞いたその名称。今はそれしか手がかりはそれしかない。どこにあるのか、まったく検討はつかないのに、私の口からその名前が自然とこぼれた。


「任せておくれよ、マイハニー。今すぐ僕がその場所へ連れて行ってあげるからっ」

「で、でも、名前しか知らなくて、他には何も情報がないのよ」

「ふっ、ふっ、ふっ、心配など不要さ。この僕にかかれば、たとえ足跡ひとつから、その人の性格まで丸裸にできるからねっ」

「そ、それはすごいわね」


 きっと冗談よね、本当なら警察より優秀ってことになるし。でも、調べるっていったいどうやって……。って、スマホひとつで分かると言うのね。


「ふむ、検索に引っかからない、か。これは困ったな」

「……いえ、それぐらいなら私でもできるんですけど〜?」

「まだ、まだだよ、マイハニー。ここで諦めるのは時期尚早だよ。この僕が持つ真の力を見るといい〜」


 ポーズを取るほどのことかしら。というより、廊下に出ていっちゃったし。これは……ここで待った方がよさそうね。


 龍二が戻ってきたのは数分後だった。何をしたのかは知らないけど、彼の顔は自信に満ち溢れていた。バッチグーと言わんばかりのポーズで、しかもウィンクまでして……。


「場所は分かったのですか?」

「答えはイエース、だよ、マイハニー。正確には、その神社があったと思われる場所、が見つかっただけどねっ」


 いったい、どういう意味かしら。もしかして、取り壊されてしまった、ということかもしれないわ。これで、このモヤが綺麗になるはずよ。


「あ、ありがとう、龍二。その場所って、ここから遠いのかしら? できれば、今日行きたいのですけれど」

「心配無用だよ、マイハニー。僕の手にかかれば、地球の裏側や月までだって、その日に行けるんだからねっ」

「そうなのね。それならお願いするわ」

「イエス・マイ・ハニー!」


 どこまで本気か分からない。もしかしたら、本当にそんなことが……そんなわけない、か。でも、龍二の顔は真剣そのモノ。だから私は彼を信じることにした。


 自信満々な龍二は、その場で誰かに電話かけ始める。口調こそいつもの感じだが、滅多に見ない眼差しであった。


「話がまとまったよ、ハニー。今から迎えが来るから、それに乗れば数十分で着くさ」

「車で行ける距離なのですか?」

「ノーだよ、マイハニー。僕たちが乗るモノはね……」


 その名を聞いた途端、私は驚きを隠せなかった。それと同時に、龍二が何者なのか、それを知りたいと思い始めたのだ。


 私は龍二に連れられ、迎えが来る場所へと向かっていった。

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