第4話 空から落ちて来た幼児が巨人に追われている所を目撃しました!

朝。だというのに暗い。夕日の方向からして朝日は山の向こうから出てくる。

つまり、山の影に入っていてここから朝日は見えない。


「うう、朝か」


朝、俺はうつ伏せで床に寝ていた。目覚めて、起き上がろうとすると。


「あ、あれ? 俺こんなに重かったっけ?」


いつも以上に重い体を持ち上げようとするが、それでも起き上がれないほど重い。


「どうなってるんだ。尋常じゃないだろこれ……。本気出すか」


と言って、腹に力を込めて。


「ウンドリャーーー!! フン!!」


勢いよく立ち上がり上に乗っていた何かをぶっ飛ばす。


「ウギャ……!」


「ウギャ? ……な!?」


恐る恐る振り返ると、そこには俺に投げ飛ばされた眠月の姿があった。

どうやら俺の上に乗って寝ていたらしい。


「こいつまさか俺の上で寝てたのか。ヨダレとか付いてないよな」


誰よりも早く起きたらしい俺は、外に出て背伸びをする。


「今日は何をしよっかな」


教室にあるもので役に立ちそうなものはないかと歩き回っているうちに皆起きたので、学級会を開くことにした。

歩いている時に何人かの手やら足やらを踏んだ事が原因で起きてしまったかもだが、気にしない。気にしない。


「ということで、水生成係の小林さんがマナ切れでぶっ倒れる前に、今日は水路を作ってきます。なので、啓太けいたさんと土山さん、山田さんは後で集まってください。他に戦力として彩羽いろはさんと……」


言いながら教室を見渡す。

眠月みつきが目を輝かせてこちらを見ている……。


「じゃあ、眠月と美里みさとさん。他の皆さんは魔法の練習をしていてください。十分に魔法が扱えるようになったら、僕を呼んでください。OKだったら新たに戦力になれるかもしれません……。なりたくなかったら、ならなくて良いですけど」


数人、「え……」といった顔をしたので付け加えておいた。

学級会終了後、呼んだみんなが集まったので出発しようとしたとき。


「あの」


「ん?」


クラスメイトの一人、白井しらい勝人まさとが話しかけてきた。

クールな雰囲気と仕草でイケメン……。うらやましい。


「外へ出たいのですが、技術を見てはくれませんか」


「ああ、いいよ」


そう言ってから、俺は勝人が腰に剣を下げていることに気が付いた。

勝人は無言でさやからマジもんの刀を抜く。


「え、マジやん……」


なぜそんなものがあるのかと思いながら言う。そういえば勝人は剣道部だったか。

勝人はそのまま第二ムキムキマッチョ像へ刀を構えると。

スパッ

第二ムキムキマッチョ像のシックスパックを斜めに切った。


「ああ! 俺のマッチョ像が!」


後ろで静かに見ていた啓太が像の近くに行って膝をつく。

勝人はそのままシャキッと刀を鞘に納めて、少しスッキリした様にこちらを向き、


「どうですか」


「うん。すごい! 今のは魔法使ったのかい?」


「いいえ。気合で切りました」


「……」


こいつやべぇ。どんな腕力してんだ。


「外へ出てもいいけど、何しに行くのさ」


「修行です。この世界では自分の鍛えがいがありそうなので」


「よし、わかった。倒した魔物はちゃんと持って帰って来るんだぞ」


そうして、俺たちは昨日見つけた川へ向かって歩きだした。

林に入ってしばらくしたところで美里が心配そうに言う。


「大丈夫なんでしょうか、勝人さん。一人で外に出るなんて」


「大丈夫だろ。身体強化なしで石が切れるんだ。魔物なんで瞬殺でしょ」


「しかもあの雰囲気、ただ者じゃない」


彩羽が真剣な表情で言う。どこか悔しそうだ。


「なあ、そんなにドンドン進んで大丈夫なのか。もっとちゃんと周りを見なくていいのかよ」


先ほどからキョロキョロと周囲に目を配る土山。


「だいじょう、だいじょう。いるとしても――」


「ダークウルフか」


「進撃してくる巨人か」


俺が言い、彩羽が言い、眠月が言う。


「なんだよ! 進撃してくる巨人って!」


「知らないのか? あの有名な漫――」


「木をかき分けてこっちにドスンドスン近づいてくる巨人だよ。昨日出くわしたんだ」


土山が叫んで、俺が言おうとしたところを眠月が遮って説明する。


「「「なにそれ、怖い!」」」


土山、啓太、美里の声がハモった。流石はみんな仲良しクラス。


ドスン......ドスン......ドスン


「……」


「ああ」


「うん」


大きな音を立てながら近づいてくる大きな影。あだ名は進撃してくる巨人。


「逃げるか!?」


「待って! 誰か居る! ……子供?」


「「「こども?」」」


巨人の前を全力疾走してこちらに向かってくる小さな女の子。ぱっと見、幼稚園児。


「わああああああああああたすけてええええええええええええ!!!!!!!!!」


女の子はこちらに気づいたらしく助けを求めてこちらに走ってくる。


「おい?! こっちくんな!?」


「よし、とりまあいつを助けるぞ! 啓太と土山! 巨人を止めてくれ!」


「わかった!」


「何が、よし、だよ!?」


「「ロックマニピュレーション!」」


巨人と女の子の間に大きな長方形の石の壁が二つ、バツ印に重なって巨人と激突する。

急に石に道を遮られた巨人は打ちどころが悪かったらしく、追いかけてこない。

全力疾走していた女の子はようやく俺たちに追いついた。


「わああ! ご主人ーーーー!」


と言いながら俺に抱き着いてくる。


「「「「「ご主人??」」」」」


「まさかお前……」


眠月が心底引きそうな顔でぼそりと言う。


「ちっ違う! 誤解だ!」


「じゃあ誰だよ、その子」


改めて見ると、セーラー服にぼさぼさの髪、その髪から耳が生えている。


「まさかとは思うが……」


俺は女の子を立たせると、少し離れて。


「おまわり! お座り! お手! カエル! そして、カエルおまわり! からの飛び人!」


ウチの犬にやらせている事を全て完璧にこなす女の子。


「お前、何やらせてんだ」


眠月がついにヤバい奴を見る目で俺を見る。が、今はそれどころではない。


「やっぱり、さてはお前。ウチの犬だな!!」


「「「「「え?」」」」」


「名乗る前に気づくなんて......! さすがご主人!」


「ふーん、当り前よ。いつも一緒にいるからな。姿が変わってもわかるぜ!」


いつも言葉は分からなかったけど、心は通じ合っていたウチの犬。

こうやって話せると、ちゃんと俺の気持ちが伝わっていたのだと感動する。


「あの……、どゆこと?」


と、完全に意気投合している俺とウチの犬を見て気まずそうに眠月が言う。


「ウチの犬、元の姿に戻れるか?」


「もち。ほい!」


ウチの犬はその場で一回転し、いつの間にか犬の姿に戻っていた。


「紹介しよう! こちらが俺の相棒にしてペットの”ウチの犬”だ!」


「犬になった……」


「さっきまで人だったのに……。いや、耳が違ったし人間ではないか……」


啓太の言葉を土山が継ぐ。すると美里が話かける。


「お名前はなんていうの?」


「ウチの犬」


「ん?」


ウチの犬が答えるが、間髪入れずに疑問符を浮かべて、よくわからないといった顔をしている。


「あ! でもねご主人、カミサマが言ってたんだけど、こっちに来るためには新しい名前が必要なんだって。だから、名前つけてもらった! ウォジェルだって!」


へー。あの神様のことだから、もっと変な名前かと思ったけど。


「そうか、犬の名前は人の名前より強くないからな。うん、中々良い名前だな! まあ、俺がその名前で呼ぶことはないけど」


「つまり、前の名前が”ウチの犬”で、今は”ウォジェル”だと」


眠月がここまでの話を整理する。


「つまりはどっちでも良いって訳だ」


「「そゆこと!」」


眠月は思った。こいつらめっちゃ似てんな。


ゴゴゴゴゴ……


「巨人が動き始めたぞ!」


「あ、ご主人。追いかけてきてるやつは巨人だけじゃないよ」


「え?」


ウォジェルがさらっと不吉なことを言う。


ダダダダダ


聞こえる複数の足音。石に挟まれた巨人の後ろからダークウルフの群れがご到着。

その数約10頭。明らかにこちらが戦力不足。


「やばい! やばい! やばい!!」


「よしお前ら、逃げるぞ!!」


「「「「「「「わああああああああああああ!!!」」」」」」」


昨日もこんなこと言ったような気がする。

そんなことを思いながら俺たちは全力疾走で川へ向かった。


川。相変わらず恐ろしくキレイな水がサラサラとゆっくり流れている。転がっている石は細かく丸く、踏むたびにじゃらじゃらと音が鳴る。防犯砂利に使えるな、これ。


「はあ、はあ、はあ。やっと着いた」


無言で全力疾走して俺たちは息を切らしていた。追手は俺たちを見失ったらしく、いなかった。


「で? これからどうすんだ」


ゼェゼェ言いながら眠月がこちらを向く。


「登る。まずは水源まで行って、そこから水を引くんだ。教室より上にあると良いんだがな……」


もし水源が教室より標高が低かった場合、だいぶ厄介だ。


「じゃあ行きますかー」


もう体力が回復したらしい眠月が言う。流石、バスケ部エース。

俺たちが川に沿って山を登っていると、


「あ、そういえばここに落ちてくる時に山の上に湖があったの見たー。真ん中に建物もあったー」


いつの間にか空中にぷかぷか浮いているウォジェルが言う。どうなってんだ、お前。

てか落ちて来たのかよ、空から? いや、天から? 転生だし天か。


「建物か、気になるな。というかお前、どうやって浮いてんだ?」


「なんか魔法ってやつみたい。ビリビリってしてぷかーってなるの。バランスとるの難しいけど、もう慣れた!」


「さすが、ウチの犬! スキルの習得が早い!」


「ふっふーん」


ビリビリぷかーは意味わかんなかったけど。

そしてようやく水源にたどり着く。


「おーー」


「でけーー」


「ひろーー」


「きれいーー」


そこはいわば小さなカルデラだった。

くぼみに水が溜まって湖になり、ウォジェルが言っていた通りその真ん中には神殿らしき建物が在る。

湖の周りは石で囲まれており水面から五センチほどの高さで、道路並みに舗装されているため、今にもあふれ出しそう。

そして、めっちゃ歩きやすい。下に教室も見えた。


「見て! あれ!」


美里が指さした方向は今まで見えなかった教室が在る斜面の反対側だ。

そこには、森の木と比べて中くらいの高さの木が生えていて、その木には色とりどりの実らしきものがなっている。


「すげー。あれ、木の実か? 今日の晩飯にしようぜ」


「まてまて眠月。今日は水路づくりだ。それに見ろよ教室のほう」


良く目を凝らして教室の周辺を見るとみんなが魔法の練習をしていて、その壁の近くに何やら黒い山ができている。


「げ。あれ、ダークウルフか? 5頭はあるぞ」


「勝人か。さはり、俺が認めただけはある」


「この我より強いとは……! くっ悔しい……! こうなったらもう、力を開放するしか……!」


と彩羽が言って眼帯に手を当てる。


「まて……! 今敵はいないだろう!」


「っ……! 次の敵は全て我が倒す」


なんだこの中二病的な会話は。


「わかった、頼むぞ。だから今はやめとけ」


とにかく魔法が強力な彩羽だ。眼帯を外したら辺り一面ぶっ飛んでもおかしくない。


「すいどー?」


「ああ、水が出てくるやつだ。あれを作ってもらおうと思ってな」


「おお~」


うちの犬は目をキラキラさせている。


「よし、もう日が傾いてきてる。啓太、土山、頼む。俺たちは護衛だ」


「任せとけ! 職人の技を見せてやる!」


ムキムキマッチョ像の職人か?

待っている間に、水を何に使うのかを洗い出してみた。


「飲み水だろ、植物の水やりのためにも使えるし、手が洗える。頑張れば、風呂やトイレにも使えるな」


「おーい、教室まで水路を繋いだのはいいが、流れた分どうすんだ?」


そう、余った水の行先。蛇口みたいに必要な分だけ出せればいいのだが。


「あ! そういえば、俺らにはあの天才がいるじゃないか!」


「天才?」


教室に戻った俺たちはある人物を呼び出す。


「はい、何でしょうか」


そう。北原:優斗ゆうとだ。

彼は小学生のころからずっと、夏休みの自由研究で全国一位なのだ。

その作品はさまざまで、水道官の設計やら、パソコンの仕組みやら、都市の設計やらを小学生の俺らでも少し分かりやすくまとめていた。そういう部類で知識が豊富なのだ。


「水道の仕組みを作ってくれない?」


「わかりました。金属はありますか?」


「今はないな……。明日、上で見つけた神殿に入って探してみるよ」


「では、応急処置として簡易的な水道を設計しておきます」


「ありがとう。じゃあ啓太と土山、頑張れ」


「「おう!!」」


腕に手を当て、気合の入った返事をした。


「なんで僕だけ苗字呼び??」


彼らは知らなかった。

森からあいつに見られていることに。

鼻息を荒くして戦闘態勢に入っている事に。

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