第8話

自室へと逃げ戻った恵一はフローリングに両手両膝をつけて肩で呼吸を繰り返した。



なんだこれ。



どうなってる。



まるで自分が自分じゃないみたいだった!



恐怖で混乱状態になりながら両手で仮面を引き剥がす。



仮面はすんなりとはがれて地面に落ちた。



蛍光灯で光っているそれを見たとき、恵一はようやく「あぁ……」と嘆息の声を出すことができた。



今まで一言も自分の意思で声を出すこともできなかったのだ。



体中から汗が流れ出していて、まるでシャワーを浴びたようになっている。



そのまま10分ほど経過して心臓が落ち着いてきたのを確認すると、恵一はデジタルカメラの画像を確認した。



最初に出てきたのは湯気の向こうにうっすらと浮かんでいる肌色で、ゴクリと喉が鳴った。



これは確かに自分が撮ったものだけれど、画面の確認はしていなかった。



それなのに、被写体をちゃんと捕らえている。



次は湯気が少し動いて肌色がしっかりと写っている。



女性はこちらに背を向けて湯船につかっているようだ。



長い髪の毛はお団子にされていて、両手がバスタブ脇に乗せられている。



細い二の腕にはお湯の粒がいくつもついていて、妖艶さをかもし出している。



「プロ級の犯罪」



恵一は噂に聞いたことを思い出し、呟く。



それがなんの犯罪であるかは噂の中に出てこなかった。


でも、仮面をつけた相手に合わせて犯罪が決められるのだとしたら……?



恵一はデジタルカメラを仮面を抱きしめるようにして握り締めた。



「僕は、盗撮のプロになる」



小さく呟き、やがてその表情は不適な笑みへと変化して行ったのだった。

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