6 こんな猫の手はゴメンです。

◆ここはお台場、特設ステージ。


今日は新企画『魔法女王と踊ろう、モモンガダンス』ショーの初日ステージだ。


魔法少女ラブリーミラー扮する司会兼❪魔法女王❫が子供達の前に現れる。

目元に黒のレザー仮面、全身レザー編みの女王様ビキニスタイル、完全恥女、瀬戸際である。


当初、悪の秘密結社ダメダメ団の女幹部(勝手に幹部にされた)として、赤字転落したお台場特設ステージの運営を立て直すつもりだったラブリー。

そして、すっかり影が薄くなった『魔法少女ラブリーミラーのアイドル復活』を果たすべく、泣く泣く女幹部として働く決心をしたのだった。


ついては新企画を立ち上げ、さっそく集客に向け頑張るつもりだったラブリー。

ところがそんなラブリーに、ダメダメ団の親玉❪着てるよ裸じゃないよ王様だよ❫マンが、コスチューム変更を依頼してきたのだ。


送られてきたコスチュームに憤りを感じて、突っ返したかったラブリー。

だが❪着てるよ裸じゃないよ王様だよ❫マンから女幹部の義務を指示され、着れば給与を三割増しにするという。

結局お金に吊られて、しぶしぶコスチュームを着たラブリー。


バチンッ

床をムチで叩き、ダンスのリズムを表現する。


ホーホッホッホめちゃくちゃ恥ずかしい、さあ、私のムチでダンスですわよ。1、2、3、4、はい、1、2、3、4、皆さん、その調子ですわよ」


真っ赤になりながらも案外、板についてきたラブリー。

もしかしたら、そちらの才能が芽生えたかとニコニコ見ている❪着てるよ裸じゃないよ王様だよ❫マン。


ただ、ラブリーは気がきじゃない。

何故か?

それは今回の企画は子供達とその親との直接交流がメイン。

ステージ壇上まで皆に近づいて貰い、ダンスレッスンを受けてもらうのが企画の主旨だった。


だが子供達は、共に出演している怪人❪モモンガだよ、こんにちわ❫に集まっているのだが、自分の周りには何故か男親達が集まり、ラブリーに熱い視線を送っている。


さらに女親達が皆、額に青筋立てて腕組みし、ラブリーと男親達を睨んでくる。

男親からは熱い視線、女親からは冷たい視線、ラブリーは恥ずかしさと居ずらさで冷や汗が止まらない。

逃げ出したい気分でいっぱいである。


しかしステージは大盛況。

日を追うごとに観客(男性客)は増え続け、満席で一ヶ月後まで予約が埋まる盛況ぶりだ。

お陰で人手が足りてない。

観客の誘導、チケット、グッズ販売、売り上げ会計係等々、黒タイツ達が何故かビジネススーツに着替えテキパキ動いているのだが、彼らもギリギリになってきた。

仕方なくラブリーが会計係も兼任しているが、ステージ後の会計処理はかなりのブラックだ。

今日も最後に会計処理をするラブリー。

目に隈が出ている。


「はぁ、もうくたくた。なんでこんなに忙しいの!くらいだわ!!」

ラブリーが叫んでいると、声をかける者がいた。


「お嬢さん、お手伝いしましょうか?」

ラブリーが振り向くと、そこにはあの❪ワッテハイルマン❫が立っていた。


背丈は185cm、長めの茶髪の髪に、目だけの仮面を付け、真っ赤な長いスカーフを纏い、真っ白い繋ぎスーツに、手は白手袋、白いブーツの均整のとれた容姿を感じる男。


「ああ、貴方は❪ワッテハイルマン❫様、こんなところでお会い出来るなんで、夢のようですわ」

うっとりとするラブリーに❪ワッテハイルマン❫は言う。


「いたいけない少女を、このようにブラックにこき使うなど、悪の秘密結社ダメダメ団め、許せん!ここは私がやっておくので、貴女は休んでいなさい」


ラブリーの手を取り、立たせて奥のソファーの部屋に案内する❪ワッテハイルマン❫。

「あ、有難う。じゃあ、10分だけ休ませて頂きます」


顔を赤らめながら、ふらふらと指図に従うラブリー。

そのまま、ソファーに横になった。


それを見届けた❪ワッテハイルマン❫。

机に座ると、テキパキと会計処理をしていった。



「ああーっ、良く寝れた。疲れが取れるわ」


数分後、ラブリーが背伸びをしながら戻ると、会計金は綺麗に並べられており、❪ワッテハイルマン❫は居なかった。


「あら、❪ワッテハイルマン❫さんは、帰ってしまったのかしら?」

ラブリーは、集計処理された売り上げ金を、❪ワッテハイルマン❫が作ってくれた集計表と見比べて合っている事を確認し、安堵する。


「流石、❪ワッテハイルマン❫さんだわ。有り難い。あら?でも、変ね。売り上げ金は、もっと有った気がするんだけど???」


ラブリーは高く積まれていた札束が、半分くらいになっている気がした。

だが集計表とは、合っている。

ラブリーは再度、集計表を見直してみた。


「え?な、なんでここの数字を2で計算式が入っているの???」


なんと集計表は、税引き前の合計集計の上に、小さな計算式で合計数字を2で割る計算になっていた。

なので、売り上げ金は半額になっている。


ふと見ると、メモ書きが置いてある。

ラブリーが慌てて読むと、メモ書きは❪ワッテハイルマン❫からだった。


『お嬢さん、会計処理を終わらせておきました。余ったお金が出たので、処分しておきます。また、困った時は何時でも参上。何でも何処でも入る正義?のヒーロー、❪ワッテハイルマン❫より』



「はあああああーっ?!」

ラブリーは叫ぶ。


実は【ワッテハイルマン】、割り算しか出来なかったのである。

当然、計算は合うわけがない。

だからもう一度やり直して2で割ったらしい。意味が分からない男だった。



「こんなはごめんですーっ!!」




謎が謎を呼ぶ、壮大なスペクタクルロマン。

売り上げ金を持ち逃げされた、魔法少女ラブリーミラーの運命は?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る