★Step44 彼氏の焦りと未来の考察

自分は何をするべきだろう。


広大な麦畑を見ながら佐藤はぼんやりと景色を見詰めた。なんだか広大な畑を見ていると、自分がちっぽけに見えて来て仕方がありませんでした。


佐藤はおやつのクッキーを齧かじりながら、熱いミルクティーを流し込みしみじみと思いました。この仕事は充実感が有るという事を。何かをしたと言う達成感が…


「――佐藤…」

「え?」


リンダが、佐藤の遠い目をこの場に引き戻しました。


「どうしたの?どっか痛い?」

「――い、いえ、別に大丈夫です…よ、ははは」


佐藤はそう言って乾いた笑顔を張り付けて空中に視線を泳がせる。悩める少年は、更に悩み深くなってしまいました。


♪♪♪


きらびやかなミルキィウェイのドレスを纏った夜空は今日も神秘の光を湛えて星空を演出して見せています。佐藤は、牧場の柵に両手をついて夜空をじっと見上げました。田中は、どうやら将来農業の道に進む事を志した様だし鈴木は体育の九氏、南は医者で夏子はプログラマー。皆、ここにきて、自分の生きる道を見つけて、それぞれ準備を始めているのです。


それに引き換え、自分はどうでしょう?


自分は、何も見つけて居ないと、自分だけ取り残されているのでは…と言う不安が心の中に渦巻きました。


「どうしましたかな?」


佐藤は、そう言われて、声も方向に振り向きました。そこにはミルおじさんと、メイおばさんの姿が有りました。二人は佐藤を挟んで牧場の柵にもたれかかり、自分達の若い頃の事を話し始めました。


「わしも、有ったよ、不安で々仕方がなくて、それが原因で両親に当たり散らしたり、悪友たちとつるんでみたり、色々な事が有った」

「ミル…さんは、昔からこの星におられたのでは無いのですか?」


佐藤の問いにミルおじさんは夜空から佐藤にゆっくりと視線を落として少し躊躇ってから、こう言いました。


「わしも、中学までは地球にいたんじゃよ。両親が技術者でな、比較的裕福な暮らしをしておったが、有る日、突然、何の前触れも無く、この星に移住すると言い出したんじゃ」


「急に…?」

「そう、急にじゃ。それも、当時は、この沸く背は開発途上に有って、惑星改造の作業から行わなければならなかった。今から思っても辛い毎日じゃった」

「惑星改造は順調に進んだんですか?」

「うむ、結局、気象が安定するのに十年かかってしまった。そこから、牧畜やら畑やらを開墾して行ったので、今の状態に持って来るまでに、結局二十年ほどかかってしまった」

「二十年……ですか」

「そうじゃよ」


ミルおじさんはそう言って優しい瞳で佐藤を見ると彼の肩に手を回し、自分の方に抱き寄せて又、昔話を語り始めた。


「わしは、本当の事を言えば、こんな寂しい太陽系の惑星などには留まりたくは無かった。だから、高校を卒業して直ぐにこの星から出る事を決心した。両親は、わしにはわしの人生が有ると言って、引き止める事はしなかった。だから、わしは、この星の開拓で、本当に辛い処には出合ってしておらん。全て条件が揃った処でこの星を引き継いだから、苦労したとは言えんのじゃよ」


佐藤はミルおじさんの話を聞いて色々と疑問が浮かんだ。


「あの、御両親は…」

「二人とも亡くなってしまった。無理がたたったのであろうかのう、父親が亡くなってから直ぐに後を追う様に母親も」

「――そうですか、それは、ちょっといけない事を聞いてしまったみたいで…済みませんでした」

「なに、気にする事は無い」

「あの…」

「ん、なんじゃね?」

「ミルさんは、どうしてこの星に居るんですか?楽しいですか…」


その問いにミルおじさんはちょっとう美を傾げて考え込みます。


「楽しいか楽しくないかと聞かれたら、楽しい方が多いと思う。で、なければ、ここにいはせん。それに、なぜ、この星に居るか…それは両親の頑張りを後世に残したかったから…と言う事じゃろうか」

「後世に残す?」

「さよう、自分が生きた証が欲しい。それが何時まで残る物かは分らんが、この場所を残しておく事で、両親と、自分と、妻と、そしてリンダの名も残せる筈じゃから」


佐藤は思いました。名を残す事…それが人が生きた証しだとすれば、自分には出来そうにないと。おそらくは、平凡に学生時代をこなして、平凡に就職して、平凡に結婚して、そして子供がまれて自分は歳をとって…


レールには乗りたくは無かったけれど、知らぬ間にレールに乗っている自分に気がついて、知らぬ間に取り返しがつかない事になっているのではないかと…不安は募るばかりでした。


「良いかな」


ミルおじさんが人差し指を立てて、佐藤の目の前に持って行くと、彼に無かって、こう言いました。


「人間、何か事を起こすのに、遅すぎたと言う事は無いんじゃよ。わしの両親が、その良い例じゃ。皆が進路を固めて行くのに自分だけ取り残されている様な気がして不安なのじゃろうが、人生長い。昔とは違う、何回でもやり直しが利くんじゃ。不安がる事など無い。ゆっくり生きて行けばよいのじゃよ」


ミルおじさんはそう言ってから上手にウィンクをして見せまし。そしてメイおばさんも優しい微笑みを佐藤に送りました。


「若い時はいろんな事をして見るのが、いいわ。あとで、きっと役に立つ。だから、今からなにをしようと決める必要なんてないのよ」


佐藤はなんだか気持が軽くなった様な気がしました。そして、やれる事は、出来るだけたくさんの事を経験してみようと思ったのでした。

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