★Step20 彼氏の堅い決意

「お、おい、南…」


残された南と田中は激しく狼狽しましたが、南がかろうじて正気を取り戻し佐藤を床に仰向けに寝かせると、心臓のあたりに手を当てます。そして、肋骨が折れてしまうのではないかと思われる位、思い切り心臓マッサージを始めました。同時に人工呼吸も行います。


田中は黙ってその場に立ちすくむ以外出来ません、その顔色は佐藤の顔色と同じくらいみるみる青ざめて行きます。南にとっては人生最大のピンチと言っても過言では有りません。友達に戻って来て欲しい、今思うのはそれだけです。その一心で蘇生措置を施して行きます。


永遠に感じられた5分間でした……


「ぷ…はぁ…」


南の思いが天に通じたのでしょう、佐藤は無事に呼吸を再開し心臓の鼓動も戻って来ます。顔色にも赤みが差して彼はゆっくりと目を開きました。


「おい、おい、しっかりしろ!」


南は佐藤の頬をぴたぴたと叩きます。


「あれぇ…どうしたんだ、俺…」


呆けたような佐藤の声を聞いて南は一瞬の沈黙の後「莫迦…」と一言呟いてからその場にだらりと座りこみました。同時に到着した救急車から降りて来た救急隊員と担任の教師が教室に飛び込んで来ます。救急隊員は佐藤の様子を確認して、命に別条が無い事を告げると念の為病院で診察してから学校に戻すと担任教師に伝えると、佐藤を連れて救急車に向かって行きました。


「良くやったな、南」


南の咄嗟の行動を担任の教師が称賛し鈴木、田中も同様にヒーローに瞳を向けて微笑みます。そして、その周りの様子を見渡してみて南は有る事に気が付きました。自分の父親が何故医者になったのか、そして母親が何故、看護師なのかと言う事を。医療に関わる者は人間に与えられた時間をフルに使って生きる事の手助けをしているのだと、それが両親の仕事なのだと。


「医者……か…」


南は小さく呟きました。そして、両親の仕事に対する意識も、ちょっとだけ理解出来た様な気がしました。


♪♪♪


「良いとこ有るんだねぇ、南も」


リンダは意外そうな表情で南を見上げました。彼の働きは直ぐに学校中の噂に成り、勉強もスポーツも出来て、しかも性格まで良いと言うちょっとだけ曲がった噂は、あっという間に校内を駆け巡り、リンダの耳にも入って来ました。


「仕方無いだろ、目の前で倒れてるんだから」

「――うん、まぁそうだけど…でも、咄嗟にそう言う事が出来るのは自慢して良いと思うわ」


自分は当然の事をした、それだけの事なのですが南の心は明らかに少し変わった様です。そして、ぼんやりとですが自分の未来も見え始めたと、そう感じる事が出来ました。

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