★Step6 彼女の憧れ

「やぁ、久しぶりだね、元気だったか?」

ミルおじさんは電話口で嬉しそうにそう話し相手に向かって、うんうんと嬉しそうに相槌を打っています。リンダは居間でその様子を除き見ながら、クッキーを摘まんでいました。


「大丈夫だよ気にする事は無い。君は大事な友人だからね。その息子さんだ、丁重に扱わせて貰うよ」


リンダは嬉しそうなミルおじさんの様子を興味深々盗み見ながら相手は誰だろうと想像を巡らせました。


「じゃぁ、おやすみ――と、言ってもそちらは昼間か。ああ、じゃぁ又、手紙でも、ああ、待っているよ、じゃぁね……」


ミルおじさんは上機嫌、笑顔で電話を切りました。


「誰からだったの?」


居間に入って来たミルおじさんにリンダは早速そう尋ねて見ました。ミルおじさんはそれに笑顔で答えてくれます。


「ん?ああ、南君のお父さんからだ。息子をよろしくと言う事だった」

「へぇ、地球から電話?」

「ああ、そうだ」

「凄いねぇ、星間跳躍通信で10分も話すなんて。電話代いったいいくらになるのかしら?」


リンダの妙に現実的な物の見方にミルおじさんはちょっと苦笑いを見せました。確かに星間跳躍通信は普通の電話と桁が一つ違います。この時代になっても高級品で一般人がおいそれと掛けられる物ではありません。


「そうそう、リンダにも宜しくと言っていたよ。南君の事を厳しく鍛えてやってくれとね」


リンダは、ミルおじさんのその言葉を聞きながらはクッキーを一口齧り、ちょっと考えてから上目遣いに再びミルおじさんを見ました。そして、昼間の事を包み隠さず話しました。あくまでリンダの感想ですが、彼には本当は別にやりたい事が有るんじゃ無いかって思った事を。



「ふむ、そんな事をね――」


ミルおじさんは飲みかけのコーヒーカップを手に取ると、それを一口口に含み、暫く無言で何かを考え込みました。そしてリンダにこう切り出しました。

「確かに彼は若い。親が決めたレールの上では無く、自分の力で何かをやって見たいと思う事は珍しい事では無いじゃろう」


ミルおじさんはそう言ってからリンダに優しい視線を送ります。そして、こう尋ねました。


「リンダは将来どうしたいのかね?」


そう問われたリンダは自分で自分の事を指差して、何の迷いも無くきっぱりと、こう答えました。


「あたしの夢は、勿論、この農場で今迄通り働く事。こんな楽しい事、止められる訳無いじゃない」


ソファーから立ち上がらんばかりの勢いで彼女はそう答えました。でも、ミルおじさんは更にこう尋ねました。


「地球に行きたいのでは無いのかね?」


それを聞いたリンダは口籠くちごもってしまいます。確かに地球での生活に魅力を感じる自分がいない訳ではありません。正直に言うと地球に行けるチャンスが有ったとしたら、この星を飛び出しそうな自分が心の中にいるのです。


でも……


「そりゃ…地球は、あたしの憧れだけど…」

「だけど?」

「うん、あいつの事を見てたら、地球って、意外と済みにくい処なのかなぁって―思った」

「成程ね。土地の良し悪しは済む物が決める。そう言う事じゃな」


ミルおじさんの向かい側に座って居たメイおばさんが、やはりコーヒーカップを片手にこう話しました。


「リンダ、地球は暮らしやすい星だって言う事に変わりは無いわ。『優秀』と言われる人達の集団だけど人の立場は皆同じ、南君も同じよ。心を込めて接して居れば、必ず素直に応えてくれるわ」

「心を……込めて?」

「そう、それが大事」


メイおばさんはそう言って再びにっこりと微笑みます。成程、自分の事を包み隠さず曝け出す。南みたいな奴に接するには、先ず警戒心を解く事が大切なのかもしれない。リンダはおばさんの言葉を心に刻んで、南に素直な心で接して見ようと、心に決めたのでした。

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