みるきぃ☆ファームへようこそ!

神夏美樹

みるきぃ☆ファームへようこそ!

★Step1 ファーストコンタクトは突然に

おっきなおっきな銀河系の端っこに、ちっちゃなちっちゃな太陽系。


太陽一つに惑星一つ。その惑星の周りを巡るお月様二つ、御伽噺おとぎばなしのように小さな世界。そして、そこには優しくて働き者のミルおじさんと、物知りで色々な事を教えてくれるメイおばさん。そして元気で明るくて、ちょっと勝気な姪のリンダの三人が営む小さな可愛い牧場が有りました。


♪♪♪


太陽が昇る前からリンダの仕事は始まります。彼女は、うりゃっと気合でベッドから飛び起きて作業着に着替えると、髪の毛を三つ編みにしてトレードマークの麦わら帽子をちょこんと被り、急いで牛達の元に行く準備を整えます。


「ボス、おいで!」


彼女の部屋の隅っこで蹲り、未だ眠そうに大あくびをするセントバーナード犬の「ボス」を急き立てて牛舎へと向かう彼女の表情は何時も明るくて元気です。


牧場は朝から仕事の山。先ず搾乳さくにゅうして放牧して牛舎の下草を替えて餌箱に餌を補充して…と目の回る様な忙しさ。放牧された牛達を誘導するのは、ボスの役目。彼はとても賢い犬で何時も巧みに牛達を纏めて散歩させてくれるのです。そして、仕事がひと段落し、ようやく一息つける時間が訪れました。


「ボス~、もどってらっしゃい、朝ご飯にしようよ」


遠くで呼んでもボスは忠実にリンダの元に帰って来ます。そして一緒に家の中に入るとまっすぐ台所に向かうのが日課でした。朝から体を動かすからかお腹がとても空いていて、朝ご飯が待ち遠しい。それが逆に嬉しくも有り充実していると感じる瞬間でもありました。


「お疲れ様、さ、お食べなさい」


出来たてのチーズとライ麦パンにハムエッグにサラダ。リンダの好物がテーブルに並んでいます。朝の労働が終わって一息つくこの瞬間、彼女にとって至福の一時と言っても過言ではありません。でも、今日はちょっと気になる事が有りました。リンダはちょっと躊躇いがちにメイおばさんに、気になる事を尋ねて見ます。


「ねぇ、おばさん、今日、地球からアルバイトの子が来るんだよね…」

「ええ、そうよ。でも、アルバイトじゃなくて社会科学習、月鉱の授業の一貫よ。農場の生活体験に来るの」


リンダはライ麦パンをほおばりながら「でも、農場の仕事はするんでしょう?」と、ちょっと怪訝な表情で尋ねます…


「勿論、見てるだけじゃぁ勉強にならないものね。人生なんでも体験してみる物よ。そうでなければ物事の本質は分らない物よ」

「勉強……かぁ…」


リンダは現役の高校生です。学校へは月に一度、隣の太陽系の大きな街が有る惑星に宇宙バスに乗って出掛けます。クラスメートと直接話せるのは、その時だけで後はネットでの勉強になりますが、リンダははっきり言って、じっとモニターを見て居る事が苦手です。どちらかと言えば、体を動かすのが好きでした。


「そうだ、おばさんは地球に行った事有るの?」

「ええ。若い頃一度だけ行った事が有るわ」

「どんな処だった?地球って」


リンダは瞳を輝かせてメイおばさんに尋ねましたがおばさんは苦笑い、あまり楽しそうな雰囲気ではありません。その表情を見てリンダの表情も少しだけ曇ります。


「そうね、わたしの肌には合わないなって感じだった」

「肌に合わない?」

「そう、コンクリートだらけでごちゃごちゃしてて騒がしくて」


リンダはふうんと鼻を鳴らして答えると、更に続けてこう尋ねました。


「動物とかいないの?」


メイおばさんは空中に視線を泳がせその当時の事を思い出しながらリンダに答えましたが、その答えもリンダが望んだものとは少し違っていました。


「そうね、わたしが見た限りでは見かけなかったわ。昔は自然に溢れた綺麗な星だったらしいんだけど、過剰に開発してしまったのね…星自体がマンションみたいに感じたわ。なんだか全てが作り物に感じられて、不自然だって思った」


リンダのイメージする地球は全ての文化の発祥地で流行の先端に居てなんでも手に入ってお洒落な生活が出来る楽しい場所と言う認識でした。しかしメイおばさんの話をそのまま信じると、ちょっと違う様に感じられます。


「地球かぁ…行って見たいと思ってたんだけどなぁ…」


メイおばさんは相変わらず優しい微笑みで「リンダは未だ若いんだから、何時でもチャンスは有るわ。見聞を広げる為にも一度は行ってみた方が良いかも知れないわね」そう答えてから、大鍋の中身をゆっくりかき混ぜ始めました。


「リンダ、いるか?」


ぶっきらぼうに彼女を呼ぶ声にリンダはライ麦パンを頬張りながらはゆっくり振り返りました。声の主はミルおじさんです。


「ふぁい?」


その様子を見たミルおじさんが、ちょっと顔をしかめます。


「なんだ、リンダ、行儀悪いぞ」


リンダは頬張って居たパンを牛乳で飲み込むと「はーい」と投げやりな返事を返しました。


「そろそろ彼が来る頃だ。リンダ、バス停迄迎えに行ってくれないか?」


ミルおじさんにそう言われてリンダの表情がちょっと曇ります。


「え~あたしが行くのぉ?」

「ああそうだ。お前と同じ年の男の子だ。わし達が行くよりお前が行った方が話が合って良いんじゃないかな?」


リンダはそんな事は無いぞとひそかに心の中で突っ込んで見ましたが、ミルおじさんの言い付けでは断る訳にも行きません。仕方が無いと言う表情で「ごちそうさま」と挨拶すると、餌を食べ終わって隅っこで寝ころぶボスを引き連れて、リンダは牧場を後にしました。


♪♪♪


宇宙バスのバス停迄は歩いて15分程度です。のんびり歩くリンダの横を尻尾を振りながらボスがのそのそとついてきます。今日も良い天気で草原でねっ転がってぼんやり雲でも眺めていたらあっという間に一日が終わりそうな陽気でした。


リンダは道草したくなる衝動をぐっと堪えてバス停に急ぎます。渋滞無しで時間通りに来ているとすれば、もう間も無く到着時刻です。ちょっとぎりぎりの時間になっちゃいそうなのでリンダはボスと一緒に走り出しました。そして遠くに見えるバス停には丁度バスが到着しているのが見えました。そこから一人、誰かが降りて来るのが分ります。


リンダはちょっと緊張して、一瞬足を止めバス停の様子を伺います。そこには細身の男の子と思われる人物がぽつんと佇んでいました。リンダは急いで走り寄ると「あ、あの!」と言いながら微笑み、彼に向かって声をかけて見ました。しかし、彼はリンダと視線を合わせる事無く、ぶっきらぼうにこう言いました。


「――嫌な予感はしてたんだが、ここまで田舎だとは思わなかったよ」


茶色のショートカットで少しきつめの黒い瞳。背は170センチを超えて居ると思われますが、それにしては痩せすぎじゃぁ無いかと思える彼は、Tシャツにジーンズにスニーカーと言うラフな格好。荷物はディーバッグ一個だけと言う井出達です。


『――い…田舎って』


否定できない自分がちょっと悔しいリンダでした。


「街は何処だ、此処から遠いのか。この際ビジネスホテルで良いから紹介してくれないか。こんな田舎町じゃ暮らすに暮らせん。携帯も圏外なんじゃないのか?」


リンダの笑顔が固まります。確かに宇宙バスが一日一往復だけの田舎ですよ。でも、暮らせないって言うのは、どう言う事だと力いっぱい突っ込んで見たのですが、その思いは彼には伝わらなかった様です。


「別に、生活体験学習なんてどうでも良いからさ、レポート適当に書いておけば教師も納得してくれてるみたいだし。三か月間の休みと思えばそれで良いだろ、埃にまみれて仕事するなんておれはごめんだぜ」


リンダは心の中で何かが切れた様に感じました。


『ボス!行けっ!』


怒りで言葉が出ないので彼女は心の中そう叫んでから、自分の目の前にいる男の子をぴっと指差しました。それと同時にボスが彼のスネに飛びついて、かじかじと齧ります。そこで初めてリンダと男の子の視線が合いました。そして男の子がとどめの一撃を見舞います。


「なんだ、あんた俺の使用人じゃ無かったのか?」


リンダの心にははっきりとこう浮かびます「しね♡♡♡ from リンダ(^O^)/ 」

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