第7話

 あぁ、あの毛玉が恋しい……


「アマネ、そんなに寂しそうにされても困るんだけどなぁ……」


「すいません……」


 リアルに持ち帰りたいほど柔らか毛玉な子熊。昼寝が終わっていざ先に進もうとしたら、足に引っ付かれてうるうるとした瞳で見つめられてしまった。


 残念ながら私はモードレッドに、子熊はそれぞれ保護者によって引き離されてしまったけれど。


「バーサクベアと寝てたから並みの魔物は近くに寄ってこないだろう。その気配が薄れる前にこの森を通り抜けるよ」


 今、私達は群狼の森という場所の中を一直線に突っ切っている。


 名前の通りオオカミ系のモンスターが多数生息する大きな森で、種族が違えどボスのオオカミが統率して巧みな連携を披露してくれると冒険者界隈では有名な場所らしい。


「偶にはぐれを捕まえる冒険者もいるんだけど、よく言うことを聞くしすぐに連携を覚えるから、どこでも番犬や猟犬として愛されてるんだ」


「それはいいんですけど、どんどん奥地に進んでませんか?」


「……多分、誘導されてるんだろうね。わざとこっちに気配を感知させて、本陣で囲んで叩くって感じ」


 解説するモードレッドの表情はそれ程曇ってはいない。恐らくだが囲まれてもどうにかする手段があるのだろう。


「お、こっちは抜けれないね。ちょっと曲がるよ」


 左、右、とあちらこちらに曲がりながらズンズンと進むモードレッド。


 偶にガサガサと揺れるのは、例のオオカミが私達を罠の真ん中まで追い立てている証だろうか。


「っと、どうやら本丸に到着したみたいだね」


「う、うわぁ……」


 大きな広場に出た途端、出迎えたのは大小様々なオオカミの群れ。そのオオカミ達は、モードレッドに鋭い牙を突き立てようと駆け出してくる


「黒いのはアサルトウルフ。獲物の群れに強襲を仕掛ける突撃兵だ」


 黒いアサルトウルフの群れを、横薙ぎの一振りで吹き飛ばすモードレッド。いつの間に剣を抜いたのか、全くわからなかった。


「樹上から飛び掛かる緑色のはツリーウルフ。樹上にいる時は気配も薄くて視認もしづらい厄介な相手だよ。まぁ、来ると分かれば対処は簡単だけど」


 四方八方の木の上から飛び掛かるツリーウルフは、吹き飛ばされたアサルトウルフと激突して何匹も地面に墜落している。


「ブラッディウルフ。獲物の血で赤黒く染まった体毛は、その色が濃いほど強い証でもある。それでも、竜の群れと比べたら大した相手じゃない」


 地面に転がるオオカミ達を避けて、ブラッディウルフが次々とモードレッドの喉笛を狙う。


 が、それ等は剣と盾であっさりと迎撃されて地面を転がっていく。


「ウルォォォォン!!!」


「っと、流石に暴れ過ぎたかな? ご自慢の兵隊さんはまだまだいるのに仲間想いなことで」


 フラフラとよろめきながら邪魔にならないように道を開ける倒れたオオカミ達。その中央を、白い毛並みを揺らす大狼が供を引き連れて歩んでいる。


「グランドウルフとガーディウルフ。噂に聞く王と親衛隊の強さは本当のようだ」


 唸り声をあげるオオカミ達は、先程の様に一斉に飛び掛からず徐々に陣形を変えつつモードレッドを包囲し始めた。


 だが、その包囲は悪手だったようだ。


「残念だけど、この程度の包囲で抑え込まれるほど僕は弱い相手じゃないんだよ」


「ガアッ!?」


 モードレッドは一点突破を選んだ。囲いはその一角を宙に舞わせて、王の前までをガラ空きにする。


「っと、そう簡単に王の首は取れないか!」


 だが、親衛隊だけが守衛ではない。アサルトウルフが空いた穴を埋める様にモードレッドを牽制。その攻勢に歯止めをかける。


 グランドウルフも隙あらば一撃を狙う体勢に変わっているようだ。


「ふわぁ……君たちの親は強いねぇ〜」


「キュゥ〜ン」


「キャン! キャン!」


 モードレッドは無駄に命を奪わないよう剣の腹で叩くように振るっているが、それはそれで気絶か打ち身で済んでしまっている。


 その一方で、オオカミ達は爪や牙で確実に一撃を入れようと囲い込みを厚くして動いている。


 両者一歩も引かず。グランドウルフの手勢がいなくなるか、モードレッドのスタミナが尽きるか。


「あ、こらこら。邪魔になるからここにいなさい」


「キャウ〜ン……」


 こっちは好奇心旺盛な子狼との戦いだ。どうやらパパやママの元に行きたいらしく、激戦区に突撃しようとする子供達を次々と捕まえて抱えていく。


 その度ちょこちょこと私の周りに可愛らしい子狼が増えていく。私も包囲され始めてる?


「わひゃっ!? ちょっと、顔舐めないで、倒れる倒れる」


 案の定、子オオカミ達は無駄に洗練された連携で私の顔を舐めてきた。


 日頃からパパやママの動きをよく見ているからだろう。幼い頃から染み付いたその動きは戦闘できない私に対抗できるわけが無かった。


「あ、アマネ?」


「グルゥ……」


「へ?」


 なんか、モードレッドとグランドウルフ、と言うか親狼の皆様の視線が集まっている。


 あ、保護者の方だろうか? 私にヤンチャする子狼を咥えて回収していってる。


「僕、割と頑張ってたんだけどね?」


「いや、ほとんど私の目で追えなかったので」


 忘れてるかもしれないけど、私レベル1だから。

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