第二三話 黒ローブ


 クラウディートが最深部を目指し始めた頃。

 救出部隊の面々は、何の脅威や邪魔を受ける事無く、順調に進んでいた。


 突然、先頭を行くカロンが立ち止まった。そして、カロンは周りの空気を嗅ぐような仕草の後、ピンと尻尾を逆立たせる。


「――ッ! 皆さん、この先から同胞の臭いがするのですっ!」

「それは本当か⁉」

「はい、バスメドさん! 間違いないのです!」


 待ちに待った吉報に、救出部隊の誰もが喜色を顔に浮かばせる。だが……。


「でも、他に魔物の臭いもあるのです……」

「それは、ジャイアントアーミーアントのものか?」


 バスメドが逸る気持ちを抑えつつ訊ねると、カロンは一度頷いた後すぐに首を横に振った。

 その変な仕草に、戸惑いを浮かべる村長とバスメド。ただ次期村長候補の女性だけがカロンの仕草の意味を理解出来ていた。


「ジャイアントアーミーアントもいるけど、他にも未知の魔物がいるってことでしょ?」

「そうなのです。今まで嗅いだことのない臭いで……」


 どうやらカロンも戸惑っているらしい。頻りに鼻を鳴らしつつ、首を傾げている。


「他に囚われている魔物ではないのか? 奴らは色々な種族に手を出していただろう?」

「確かにのぅ。グールやコボルトだけが彼奴らの標的になったとは考えにくいのじゃ」


 そうバスメドと村長が意見を述べる。

 もし、他の種族が囚われているだけなら問題は無い。ただ助けるだけだ。そう考えつつ、二人はカロンを見やるが、どこか納得のいっていない表情をカロンは浮かべていた。


「んー、その可能性もあるとは思うのですけど……」

「納得いっていないみたいね。カロンは何を感じているの?」


 次期村長候補の女性が、カロンに直接問い質した。


「何というか、その……敵意? みたいなものを感じて……」

「敵意? 臭いでわかるのか?」

「何となくですけど。ただわたしが「超嗅覚」をまだ使い熟せていないのか、ぼやけているのです……。それにジャイアントアーミーアントの巣なのに、他の魔物がいるとは思えなくて」


 訥々とカロンはそう話した。

 それから暫し意見を戦わせるが、明確な答えは出せず。結局はこのまま警戒しつつ、慎重に進むことになった。


 慎重に進む一行。曲がり角に差し掛かった瞬間、微かに声が聞こえて来た。

 バスメドが黙したまま、素早くハンドサインを出し、後続を留める。

 視線で会話しつつ、バスメド達は耳を澄ませた。


「――です、――期待は――もっと――」


 途切れ途切れ聞こえて来た声。その声色は男性のようであり、また女性のようでもある、なんとも形容しにくい特徴のある声色だった。


 ここから耳を澄ましても、その内容は不確かだ。どうするか相談をしようと、カロン達が顔を見合わせると気付いた。

 バスメドだけが目を大きく開いたまま硬直しているではないか。見れば、額には冷や汗が浮かんでおり、表情が強張っている。

 普段の堂々とした態度とはあまりにもかけ離れたバスメドの様子に、村長は驚きつつも、気付かせるように身体を揺する。


「バスメド、どうしたのじゃ?」


 なるべく声を抑えながら村長が声を掛けると、バスメドはハッと我に返った。そして、心の動揺を落ち着かせるかのように、ふぅと硬い息を吐き出す。


「……すまん。少し取り乱していたようだ」

「一体何があったのじゃ?」


 再度村長が問い掛けると、バスメドは少し迷った様子を見せたものの、伝えることに決めたようで、ゆっくりと話していく。


「俺には、この声に聞き覚えがある……」

「何? 儂には全く心当たりがあらんのじゃが」

「それはそうだろう。俺にしか覚えはないはずだ」


 バスメドは酷く緊張しているようだった。それは仕方が無いのかもしれない。何故ならこの声の主は――。


「俺が名付けられた時、この声を確かに俺は聞いた」


 バスメドの告白に、村長達は驚愕を顕わにする。

 バスメドが酷く動揺していたのは、今微かに聞こえるこの声が、昔名付けられた時に聞いたものと全く同じ声色だったからである。つまり、謎の声の正体は、バスメドの名付け親ということだ。


「……間違いないのかぇ?」

「ああ、間違いない」


 信じられないとばかりに村長が聞き返すのものの、バスメドはしっかりと頷き断言した。


「なら、どうするつもりじゃ、お主?」


 元々村長は、正体不明のバスメドの名付け親については疑念があった。一族を預かる立場として、どうしても疑わずにはいられなかったのだ。

 勿論、村長にも感謝の気持ちはある。あの当時、バスメドが名付けされたことによって、一族の滅亡は回避されたのだから。

 ただそれでも拭えない不信感があった。


 名付け自体を拒否出来ない曖昧な意識状態での名付け行為。また戦闘中に行うという無謀さ。そして極め付きは、〝名〟を与えられた本人であるバスメド以外の者が、誰一人としてその存在に気付けなかったこと。さらに『これも未来の為』という謎の言葉を残したことだ。


 バスメドがどのような行動の選択を取るかによって、自分の役目が変わる。村長は最悪の事態を想像しつつ、バスメドの目を真っ直ぐに見詰めながら問うた。


 バスメドは腕を組みながら目を瞑って黙考した後。決意をしたような真剣な表情を浮かべながら言う。


「まずは俺一人だけで相対しよう。皆は隠れていてくれ」

「え? どうしてなの、バスメド? あえて一人で会う必要は――」

「察してやれ、娘よ」


 疑問を呈した次期村長候補の女性の言葉を村長は遮った。


「バスメドも危険は承知の上じゃ。その上で、一人で会いたいのじゃろうよ。不信感があるとはいえ、名付け親じゃ。信じたい気持ちは心のどこかに残っているのじゃよ。そうじゃろ、バスメド?」

「ああ。あの当時、俺が〝名〟を与えられなかったら、と考えるとどうしても、な。迷惑を掛ける、村長」

「よいよい。気にするでない。しっかりとケジメをつけてきんしゃい。ただ、最悪の場合には……」

「勿論判っている。その時は村長の判断で介入してくれ。クラウ様からは死ぬなとの御命令を承っているからな」


 長き間、村の為に尽力してきた二人だからこそ、お互いに通じ合うことがある。二人は互いに頷き合うと、村長が送り出すようにバスメドの背中を叩いた。

 バスメドがゆっくりと曲がり角へと向かって行くのを見やりながら、村長は真剣な表情を浮かべつつ指示を出す。


「皆の者、戦闘態勢を整えておけ。ここから先は一切気を抜くでないぞ」


 バスメドの心情を理解したからこそ、たった一人だけで送り出したが、どうしても村長には嫌な予感が拭えなかった。

 村長の指示に従って各々戦闘態勢を整えていく一同。神妙な村長の雰囲気から、誰もが戦闘の予感を感じていた。


 一方、曲がり角を曲がったバスメドの視線の先には、ジャイアントアーミーアント達と向かい合う黒ローブの姿があった。


「おや?」


 敏く第三者の存在を感知した黒ローブが、驚いた演技をしながらゆっくりと振り返る。


「これはこれは。まさかこのような場で出会えるとは」


 振り返った黒ローブと初めて相対し、バスメドは目を見開いて驚く。

 その黒ローブには顔が無かったのだ。深く被られたフードの奥、本来、頭部があるだろうその場所には、この世の闇を凝縮したかのような暗闇が覗いているだけだった。


 暗闇が人の形を成しているような不気味な容姿。そして漂う異様な気配。


 今まで感じたことが無い背筋が凍るような、さらに生存本能から湧き上がる恐怖を感じさせるような言い知れぬ気配を纏っていた。


「どうやら貴方も驚かれているようですね。この思わぬ再会に」


 飄々とそんな的外れな事を話す黒ローブ。


「……覚えているのか? 俺の事を」


 異様な雰囲気を感じ、いつの間にか口の中が乾ききっていたバスメドは、なんとかそれだけを口にすることが出来た。


「えぇ、えぇ。勿論ですとも。私が〝名〟を与えたのですから」


 バッと両腕を広げて、黒ローブは大袈裟に話す。


「よく覚えていますよ。瀕死のグールに〝名〟を与えたことを。確かその名は――」


 バスメドはゴクリと生唾を飲み込む。緊張感からか、それとも期待からか。だが――。


「――おや? 何でしたっけ? 私に教えてくれません?」


 そんなバスメドの気持ちは見事に踏み躙られてしまった。名付け親であるにも関わらず、黒ローブは与えた〝名〟を覚えていなかったのだ。


「わ、忘れたというのか……自分が与えた〝名〟を……」

「えぇ、えぇ。特に重要な事ではありませんからねぇ。名付けたことだけは覚えておりますとも」


 与えた〝名〟を忘れたというのにも関わらず、飄々と語る黒ローブ。その姿にバスメドは愕然とする。在りし日に捧げた感謝も、名付け親に対する思いも、何もかもが砕け散っていくかのように感じられた。


「……それに」

「――ッ⁉」


 今までの飄々とした様子が幻だったかのように、瞬間、圧倒的な存在感を増す黒ローブ。


「どうやらパスは切れているようですしね。一体誰が何をしたのやら」

「……」

「まぁ、特に問題はありませんし、お仕置きするようなことでもないでしょう」


 ひらひらと手を振るような仕草をする黒ローブ。その途端に、圧倒的な存在感は霧散し、元の不気味で希薄な雰囲気へと戻っていた。


 圧倒的な存在感を受けて硬直してしまったバスメドは、その戒めが解かれると、はぁはぁと空気を貪るかのように荒い呼吸を繰り返す。


「それで、貴方は何故ここに?」


 黒ローブは自己中心的に話を進める。問われたバスメドは荒い呼吸を繰り返しつつも、一瞬の思案の後に答えた。


「はぁはぁ……、俺は同胞を救いに来た」


 バスメドは素直に答えた。誤魔化すのは危険だと直感した為である。また、この場にいないクラウディートの存在を知られるわけにはいかないと考えた結果だった。


「同胞……ふむ。ふむふむ。あぁなるほど。どうやら下手を打ったようですねぇ」


 チラッと背後にいるジャイアントアーミーアントを黒ローブは一瞥し、納得したように頷いた。


「随分と手を貸して差し上げましたが、少し裏目に出たようですねぇ。調子に乗らせ過ぎましたか。……潮時ですね」


 ぶつぶつと呟き、何やら考え込んでいた黒ローブは、唐突にポンと手を打った。


「十分な成果は得られましたし、ここまでですね。どうやら規格外の存在もいるようですし」


 黒ローブはバスメドを見詰めながらそんな事を口にする。鋭い視線を感じたバスメドだったが、決してクラウディートのことについては口に出さない。


 どれほどプレッシャーを掛けられ、例え死に瀕しても口は割らないだろうことは、黒ローブも理解していた。


 その時、見捨てられた形となったジャイアントアーミーアント達は黒ローブに抗議するかのようにシャシャーと声を上げ始めた、が……。


「うるさいですよ。黙りなさい」


 黒ローブが片腕を振るうと、ジャイアントアーミーアントが顔面からガンッと地面に縫い付けられるように押さえつけられた。


 一体何をしたのか。理解の範疇を越えた力を目の当たりにし、バスメドは驚愕する。

 仮に戦ったとしても、必ず敗北するだろうと直感したバスメドだったが、少しでも情報を得ようと会話を試みる。


「一体何の目的でジャイアントアーミーアント共に手を貸していた?」

「未来の為、ですよ」

「未来の為?」


 黒ローブの回答は、バスメドも聞いたことがある言葉だった。その言葉の意味を訊ねようとしたが、先んじて黒ローブが制した。


「おっと、これ以上はいけません。私が消されちゃいますから」

「消されるだと? お前の上に一体何が⁉」


 バスメドからしても目の前にいる黒ローブは圧倒的な強者だ。戦えば一瞬で蹴散らされることだろう。なのに、黒ローブは『消される』と答えたのだ。それはより上位者の存在をほのめかしており、バスメドが足元にも及ばない黒ローブを従えていることが伺える。


 恐ろしい、とバスメドはブルリと身体を震わせた。


 咄嗟に出ただろうバスメドの問いに、黒ローブは肩を竦めさせるだけで答えなかった。その代わりに、ある事を話し出す。


「教えられないことばかりで、少し申し訳なく思いますよ。なので、一ついいことを教えて差し上げましょう」


 片手を振る仕草をする黒ローブから語られる衝撃の真実。


「貴方に〝名〟を与えた時の事ですが……あの魔物、私が連れて来たのですよ」

「……は? 一体何を……」

「当時、私はとある実験をしていましてねぇ。その実験とは、下等な魔物をどこまで強く出来るのか、という実験でした。実験の結果、まぁまぁの強さになりまして。まぁ私から見ればゴミと何ら変わらない強さでしたけど」


 動揺するバスメドを意図的に無視して、黒ローブは語っていく。その声音は何処までも喜悦に富んでおり、嗜虐的でもあった。


「ある程度の結果は得られたので、実験を終了したのです。実験終了を受けて不要になったのは、その魔物でした。サクッと消滅させようとした時、ふと思ったのですよ。それでは面白くないと、ね」


 愉しそうに語る黒ローブ。あまりにも不気味で、バスメドは声を失う。


「そこでちょっとした遊びをすることにしました。その魔物に、ある魔物の村を襲わせたのです! ゴミ共が戦い合うその姿……あぁ、今思い出しても笑いそうになりますねぇ」


 グギギギィ……と、バスメドの拳が握り締められていく。


「私が強化を施した魔物に蹂躙されていくある魔物達。その命の散り様の、なんと美しいことか! ワクワクしましたね。ドキドキもしました。とても面白い喜劇でしたので、私も少し参加してみたくなりまして。まぁある計画の為にもしなければならないこともありましたし。もうお気づきかもしれませんが、それは貴方に――」

「黙れッ!」


 感情が溢れ出し、限界を越えた。胸を焦がすような激情のまま、バスメドは怒声を上げながら黒ローブに攻めかかった。

 上段から振り下ろされる大戦斧。バスメドが激情のまま、持てる力を振り絞った渾身の一撃だ。


「――くっ!」


 呻き声を上げたのは、まさか攻撃を仕掛けたはずのバスメドの方だった。振るわれた大戦斧は、いとも簡単に黒ローブの片手で受け止められていた。

 押し切ろうと力を込めるものの、全く動じた様子は見せない黒ローブ。と、その時。


「〝ウインドエッジ〟」


 不可視の風の刃が黒ローブに放たれた。


「おっと」


 気の抜けたような言葉を漏らしつつも、直撃を嫌った黒ローブは咄嗟に身を引き、後退する。


「バスメド! 気を落ち着かせぃ! 激情に身を任せても、大振りになるだけじゃ!」

「村長! 何故出て来た⁉」


 不意打ちを行ったのは、ずっと様子を窺っていた村長だった。バスメドが激昂して攻撃を仕掛けに行った瞬間、村長は飛び出していたのだ。


「ちょっと、村長! 攻めるなら合図をくれても良かったじゃない!」

「そ、そうですよ! いきなり飛び出して驚いたのです!」


 次期村長候補の女性に続き、カロンも曲がり角から姿を現した。続々と救出部隊の面々が後に続く。


「おやおや、これまたたくさんお越しのようで」


 飄々と人を喰ったような仕草で、黒ローブは歓迎を示していた。一対二五だというのに、微塵の焦りも見受けられない。


「……お主、余裕そうじゃな」

「えぇ、えぇ。私の脅威になるような者は――」


 不意に黒ローブの言葉が途切れると、ダンスを踊るかのようにクルリとターン。そして。


「――いないようですし」


 何事も無かったかのように言葉を続けた。


「……当たらなかったのです」

「えぇ、えぇ。私に攻撃を当てるのなら、もっと速くないといけませんよ?」


 悔しそうに呟いたのはカロンだ。エクストラスキル「瞬身」を行使し、目にも止まらぬ速度をもって黒ローブに攻撃を仕掛けたのだが、華麗に躱されてしまったのだ。


「でも、もう一つの目的は達成出来そうなのです!」


 気合を入れ直したカロンは、即座に地を蹴って走り去っていく。


「おや? 敵前逃亡……では無さそうですね」

「その通りじゃ。儂らはあくまでも囚われた者達の救出が目的じゃからのぅ。カロンには、真っ先に人質を助けよと指示しておいたのじゃよ」


 そう、カロンは逃げたわけではない。一足先に囚われている者達の元へ向かったのだ。村長は決して目的を忘れていなかった。


「ほほう。この私を前に中々出来る判断では無いですよ。褒めて差し上げましょう」

「五月蠅いわい。お主などに褒められても、ちぃとも嬉しくないぞ」


 口をへの字に曲げ、何とも嫌そうに村長は言い返す。


「ははは。確かに私に褒められても嬉しくは無いでしょうね。……さて、そろそろいい時間になりました。この辺で私はお暇しておきましょうかねぇ」

「逃がすと思っているのか!」


 バスメドが即座に攻撃を仕掛ける。振るわれた大戦斧が黒ローブに直撃した――かのように見えた。


「なッ⁉」


 驚愕するバスメド。それは黒ローブが一切の防御行動を取らなかったからではなく、黒ローブを攻撃した際の感触が一切なかったからである。


 驚きつつ黒ローブに目を向ければ、元々希薄だった存在感が更に薄くなっていき、その身が空気に溶けていっているではないか。


「貴方には少しばかり期待しているのですよ。もっと力を蓄えて下さると、私としては嬉しいですねぇ」

「何を言っているッ⁉」


 幾度も大戦斧を振るうが、まるで空気を切るかのように何の手応えも無く、バスメドは悔しげに顔を顰める。


「なので、ささやかな贈り物です。今の貴方なら丁度いい相手でしょう」


 唐突に黒ローブが片腕を振るう。一体何を⁉ と警戒するバスメドの耳に冷え冷えとした咆哮が聞こえて来た。

 その声の正体は、黒ローブによって今まで押さえつけられていたジャイアントアーミーアント達である。いつの間にか、全身を覆うような不気味な紫の靄が纏わっていた。


「一体何をした⁉」


 ギチギチと身体を蠢かせ、怨嗟の声のような呻き声を上げるジャイアントアーミーアント達。その不気味な様子に、バスメドは思わず問い掛けるものの、既に黒ローブの姿は闇に溶けていた。


「――またお会い出来ることを楽しみにしていますよ」


 そんな言葉を残して、黒ローブは消え失せてしまった。


「出来ることなら、もう二度と会いたくはないな」

「同感じゃ。今の儂では全く歯が立たんだろうしのぅ」

「最後まで不気味だったわね」


 まんまと逃げられてしまったことに悔しさがありつつも、二度と会いたくはないと零すバスメド。同感を示す村長と次期村長候補の女性がバスメドの両隣に並んだ。


「バスメド、少しは落ち着いたかのぅ?」

「大丈夫、バスメド?」


 左右から己を案じるような視線を受け、バスメドは深く息を吐きながら頷く。


「あぁ。取り乱してすまんかった」

「仕方ないじゃろうて。元とは言え、名付け親があのような者ではのぅ。それに……」

「えぇ。まさかあの魔物がアイツの仕業だったなんて」

「いずれ落とし前をつけさせる。……が、その前に」

「うむ。何だか危険な香りがするしのぅ」

「うん、あれってヤバいよね?」


 三人の視線の先。黒ローブが最後の置き土産として残した不気味なジャイアントアーミーアント達を見て、三人は警戒を強める。


 ――グギグギャガバボコ。


 身体をボコボコと蠢かせ変異していくジャイアントアーミーアント達。全身に紫の靄を纏わせながら怨嗟の声のような呻き声を上げ続け――不意に静かになった。


「……死んだか?」

「それなら楽じゃろうが……」

「そんなわけないじゃない! 来るわよ!」


 次期村長候補の女性の声に促されるように、一斉に戦闘態勢を取るグール達。そして……。


「「「シャァァァアアア!」」」


 一斉に耳朶をつんざくような叫声を上げ、猛然と襲い掛かって来たのだった。

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