第17話 デキる殺し屋は枕を変えない


「あ、あの、アッラ=モーダのアニキ、犯人がいると仮定して動くなら、1人でいるのは危険じゃないですか?」


ファジャーノがおかっぱにおずおずと意見を述べる。


「そうだな。…今まで2日連続で失踪しっそうすることはなかったが、今後は犯人が捕まるまで2人1組以上で行動したほうがいいかもしれないな」


おかっぱがファジャーノの意見に賛成する。他の護衛たちも異論なしと頷いた。


「ならサンチョ、お前は俺の警護を…」


「いえ、パパ、パパの警護は俺がやります」


ティアーモが口を開きかけるが、おかっぱが言葉を上から被せる。


「ああ!?てめぇ、どういうつもりだ」


それが気に入らなかったティアーモが眉間にビシリ、と青筋を入れる。


怒りのスイッチが入ってしまったとその場にいた護衛たちは顔を引きつらせるが、おかっぱはティアーモを正面から見据えて首を横に振る。


「パパ。状況が状況だ。コイツにはファジャーノとペアを組んでもらう」


「へぇ!?」


「…どういうことだ?」


突然自分の名前が上がったファジャーノは目を丸くする。一方でティアーモは怒りを押し殺したような低い声で唸るようにティアーモに真意を問いただす。


「カーネ、シーミャと連続でやられているこの状況、次はファジャーノの可能性が非常に高い。コイツら、セットみたいなものだからな」


「ええ!?次のターゲットは俺ですか!?」


ファジャーノは自分を指差し、目を白黒させる。


「サンチョ・パッソならば仮に襲撃者がファジャーノを襲ってきても守れるはずだ。そして守れない場合は…」


「そうか!コイツが犯人ってことか!」


ファジャーノはなるほど、と手をぽんと叩き、そして「いやいやいやいや…」と首を振る。


「アニキィ、それじゃあ俺、めちゃくちゃ危ないじゃないですかぁ~」


「いや、時期的に、失踪が始まったのは1年くらい前だ。コイツが襲撃者の可能性は低い」


おかっぱが首を振り、サンチョが犯人とは考えていないと主張するが、ファジャーノは両手を前に出して「嫌です嫌です」と首を横に振り続ける。


「だだだだだだって、コイツ、うちに来る前からうちのファミリーを襲撃してたかもしれないじゃないですか。うちに入ったのだって、襲撃しやすくするためかもしれません」


ファジャーノの主張に呼応するように何人かの護衛も「そうだそうだ」と頷く。


しかし、おかっぱは「いや、それはあり得ない」と即座に可能性を否定する。


「コイツの実力ならそんな回りくどいことをしなくても、その気になれば俺たちくらい一瞬で殺せる。試験で対峙したお前はよくわかっているだろう?」


「う…そ、そうですが…」


サンチョに押し付けられたスタンガンの痛みを思い出してファジャーノは苦い顔を浮かべる。おかっぱはおかっぱで、部下に股間を思い切り蹴られた記憶を思い出し、顔をしかめた。


「…そもそもコイツがさっき言っていたが、なんの目的でコイツは俺たちファミリーを殺す?メリットがなにもないだろう」


「い、いや、殺しを楽しんでるだけかもしれないじゃないですか」


ファジャーノはおかっぱに食い下がるが、「あり得ない」とまたもおかっぱが一蹴する。


「うちのファミリー限定で嫌がらせする理由がない。その辺ですれ違う人間を片っ端から殺すことだって、コイツなら証拠1つ残さずやれるだろう。―――そうだろう?サンチョ・パッソ」


「俺はそんなことはしない」


おかっぱの問いかけに対し、パジャマ姿のサンチョは首を横に振る。


しない・・・ってことは、できる・・・ってこと?うわぁ、怖い怖い怖い…。じゃ、じゃあもし、俺をコイツが守れない場合は?」


サンチョに対し、できるだけ距離を取りながらファジャーノは恐る恐るおかっぱに問う。


「簡単だ。襲撃者はサンチョ・パッソが止められないほどの実力者ということになる。ちなみにその時はお手上げだ」


おかっぱがきっぱりと言い切った。それを聞いたティアーモが大笑いする。


「はーっはっはっは!なるほど。そいつぁ、面白ぇ。いいだろう。おい、ファジャーノ、てめぇ、しばらくはコイツとペアを組め!」


「え~~~~。パパぁ~、マジで言ってるんですか?」


「るせぇ!!!コイツと組むのが一番安全だろうが!!!むしろ感謝しろ!」


ティアーモが半泣きのファジャーノを怒鳴りつける。


「…そういうことだが、いいな?兄弟ブロ


「…ああ。別に構わない」


ティアーモに意志を確認され、サンチョは頷く。


「でも、そもそも他のヤツが襲われる可能性だってあるんじゃないですか?」


「もちろんその可能性もあるだろう。だが、この流れでファジャーノお前を狙わないなら内部犯の可能性が高まる。しかもこの会話を聞いているお前達の誰かの可能性が高い」


ファジャーノの問いにおかっぱが答えると護衛たちはざわめきながら互いを見やる。最早このメンバーの誰かが犯人なのではないかと皆が疑心暗鬼に陥っていた。


「はっ!アッラ=モーダ、てめぇもたまには考えるじゃねぇか」


ティアーモはその様子を見て楽しそうに笑う。


「結果は近々出るだろ。…見てろ、必ず地獄を見せてやるからな。…なぁ、兄弟ブロ


「…」


サンチョは黙ってファジャーノを見つめる。


「な、なんだよ…ちゃんと俺を守れよ?」


護衛とは思えないひ弱な発言をするファジャーノ。しかし、熊のような大男であるオゥルソがやられたので無理もないのかもしれない。


「…とりあえず、今晩寝る部屋だが、俺の部屋でいいか?」


「は?」


唐突に今晩寝る部屋の話を始めたサンチョは帽子をかぶり直して扉の方に向かっていく。


「俺は枕が変わると寝られない方なんだ」


「デリケートかッ!!!てゆーか、寝てないで俺をちゃんと守れよ!…守ってください。頼むからぁ~」


サンチョは扉に手をかけ、叫ぶファジャーノの方を振り返る。


「睡眠は重要だ。プロならちゃんと仕事ができるコンディションを整えろ。…アッラ=モーダ、話は以上か?ならそろそろ俺は部屋に戻る」


「あ…ああ…」


おかっぱが頷くとサンチョは部屋からスタスタと出ていった。


それを見て爆笑するティアーモ。


「ありえねぇ、ありえねぇ…」と叫びながら彼の後ろを慌てて追うファジャーノ。


「これで状況が少し好転すればいいが…」と1人呟くアッラ=モーダ。


そして、他の護衛たちはこの後、ペア決めのためのくじ引きで大盛り上がりを見せるのだが、それはまた別の話だ。

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