その32.お金が無くて断念するしかなかった

まさか、ホルモン治療代が払えなくなるなんて予想していなかった。


もともと、東京に引っ越してきて以来、毎月の収入よりも、支出の方が上回っていて、なんとかボーナスと妻の収入を合わせて帳尻を合わせていたようなものだった。


しかし、なんだかんだあって、抜歯してインプラントにしたり、虫歯をセラミックに変えたりしていると、とんでもない額の支出になってきたのだ。


歯については、去年の夏ごろから、月に1回しか予約がとれない歯科に通っていたのだが、あまりにも予約がとりづらいので、別の歯科に変えてから、インプラント治療を始めたり、銀歯ではなくセラミックの詰め物に変えたりすることが決まっていった。


そこに長男の高校入学というタイミングが重なり、教科書代や制服代などで一気に口座のお金が底をつき……。


14日間隔というホルモン治療の方を、優先順位が低いものと見なすしか、乗り越える方法がなかった。


これを書いている時点で、すでに前の注射から20日以上が経過している。もう胸が張ることもなくなってきていて、少しずつ胸がしぼんでいっているのが分かる。


辛いと言えば辛い。


でも、ホルモン治療を受け続けることに疑問を感じていた私にとっては、意外と「ちょうどいいきっかけ」となったような気もしている。


とはいえ、気持ちとは不安定なもので、ホルモン治療を「したくてもできない」という状況は、それまで当たり前だったものを突然取り上げられたも同然であり、苦しい選択でもある。正直、しんどさのほうが今は勝っていると思っている。


「今まで何のために…」というのは、思わないようにしている。

ホルモン治療をしていても、期待していた通りになんかいくわけもなかった。始めた年齢も、私の性別違和の度合いも、なにもかもが中途半端だった。思いっきり振り切れているわけでもなく、どっちつかずの私は、いまだに職場での服装に、違和感を拭いきれないままだ。


どうしてこういう風に生まれたのか。

ジェンダー以外のことであっても、そう思わない人は、おそらく少ないのではないだろうか。


鬱が、ようやく寛解が見えてきた段階にまで回復してきたのに、別の「しこり」が残り続ける。


どうしようもなく辛くて苦しい。


これから先、ホルモン治療をどうしていくのか、まだ考えられていない。


金銭的な余裕がでてきたら、再開するのか?

それとも、このままやめるのか?


ホルモン治療の「辞め時」を、考えている。

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