その28.自己肯定感の上下

かなり揺れていた私の気持ちも、すこし落ち着いてきている。でも、落ち着いているように見えるだけなのかもしれない。


相変わらず、自分への嫌悪感は感じるし、異性装している自分のままでいいんだと思える時も、思えないときも交互にやってくる。


異性装できなかった頃から比較すると、もちろん今の方が幸せに違いない。だって、あれだけ望んでいたように、異性装をしながら仕事をすることができているんだから。


ただ、たとえそうであっても、無条件に味方になってくれる人(友人と言ってもいいと思う)がすでにいてくれるのと、いないように見えてしまうというのは、心の負担についてはかなり違いが出ると思う。


だからこそ、味方がいないように感じてしまうと、本当は応援してくれている人がいるのかもしれなくても、孤独感が強まってしまうんだろう。


メンタルクリニックへの通院は、ここしばらくは月1回だったのだけれど、前回、主治医の診察で号泣してしまったのもあって、2週間後に次の診察の予約を取っていた。そこでも、カウンセリングでは味方がリアルには存在してくれていることが大きな意味を持っていたんだ、ってことに気づいてしまった。同僚の中にもいないし、ましてや友人もいない。一人だ。


そんな私にも、すで異動してしまっているけど、以前はすごく仲の良かった同僚がいた。

彼女はいわゆるアライ(Ally)であり、いつもどんな時も私に明るく、どんなことでも話してくれたし、こっちの話も聞いてくれた。今は、その彼女のことが、すごく寂しい。どんな話題でも話せたし、同僚という枠を超えて、私は彼女のことを友人だと思っていたし、今もそう思っている。


人間関係について、よほどのことがない限りは最低限のやりとりだけで十分だと感じている私は、社会人になった時からずっと、友人との付き合いというものがなく、ただただ希薄な関係が時々思い出したかのように発生するだけだった。


歳をそれなりに重ねた今、私には、そのアライだった同僚と同じような友人がいない。つけが回った、とも言えるけれど、今更この性格は治せないとも思う。


じゃあ、「家族の中にもいない・同僚にもいない・友人もいない」という状況にいる私は、誰に助けを求めたらいいんだろうと思う。


カウンセリングというものを利用する、と言うのももちろん1つだけれど、どう考えても、それは違うと思う。カウンセリングは医療行為だと思ってるし、医療行為と友人はイコールじゃない。決して。私は、もっと気楽に、なんでも話せる人がいてほしいだけなんだけど、それは高望みすぎるんだろうか。分からない。普通、社会人を10数年以上やってきた人というのは、友人がたくさんいるものなのだろうか。いないものなのだろうか。


もしあまりいないのがマジョリティなのだとすると、私以外のみんなは、いったいどうやって、この「孤独感」をやり過ごしているんだろう。


もちろん、私にはかつてのその同僚以外にも、もちろん同僚はいる。

でも彼女が抜けてしまった後、他の同僚とも「同じ温度差」でのやりとりを期待したくても、どこまで私を受け止めてくれるのかが分からなくて怖いし、こういう、ジェンダーの悩みを打ち明けてもいいのか、すごく迷う。


それはきっと、私は他の同僚のことを信頼していないという証拠だと思うし、私が歩み寄らないから、彼らも歩み寄らない。そんなことになっているんじゃないかとぐるぐると考え続けている。


孤独と言っても、もちろん、私には実家の両親もいるし、家人も子供もいる。その意味では寂しくは決してない。


でも、私のジェンダーを理解してくれている人が、その中にいるかと言うと、それは難しくなる。


私が悩んでいるのはそのジェンダーのことだし、そのことを話せないまま、呑み込んで平気なふりをし続けているのにも、疲れてきた。


相変わらず、私は自分の外見が嫌いだし、どんなに前日にヘアケアを頑張っても、髪のうねりが出てきてしまって、ヘアアイロンと格闘する日々。どうしても「髪型が決まらない」ことが多くて、それがもう嫌になった気もする。もうボブカットからショートに変えたい。


それでも、ヘアアイロンをかけると、かなり改善されるし、アイロンをかけた後の自分のことは少し好きだと思える。とはいえ、それも一時的な感情で、慢性的に私の中にある劣等感は消え去ってくれないし、どうやっても純粋な女性には敵わないのだから。かといって、私の外見は、すでに生まれた性とは離れてしまっている。どっちつかずの恰好をして、たいして似合いもしていないけれど、好きだと言える服を身にまとい、「武装」して、自分を守っているようにも思える。


生きづらい。

強くそう思う。


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