その6.自宅での「父・夫」としての私

2020年6月7日


1.家庭での自分をどうするか


これって結構、根本的なことで、永続的な問題だったりします。

家庭を持つ前なら身動きのとりようもあるかもしれないけど(すいません、未婚の方を悪く言っているつもりはありません)、家庭を持った後に診断が出たものだから、「(どうせ)あなたの思い込みでしょ!?」という家人の思いは、今は理解と共感もできはしますが、入院当時は、グサグサと心臓を何度も突き刺す包丁以外の何物でもありませんでした。


そのあと、Twitterで、夫に性同一性障害だと言われて、なんども話し合いをして現在に至る、という方を偶然見つけたり、通っているジェンダークリニックに家人と一緒に行ってみたけど、平行線で終わったり。「夫婦」って、やっぱり男女なんだな、と痛感した(している)部分も大きかったです。


だからこそ、家庭にいるときの私は、夫であり父であることを揺るがしてはいけないものです。

きっともっと話し合いが進んだり、子どもが成長してきたりすると違ってくるのかもしれません。でも、もうそのころには私は何歳なんだろう…とおもうと、あまり気乗りする方向性であるようにも感じることはできません。


今は割り切ることができるようになりましたが、「私が好きな格好や、ホルモン治療を進めること」と、「子供たちの親として(子供が私のことが原因でいじめられたりすることも危惧して)、自分を抑えて生きていく」ことの絶妙な、かつ極度に不安定なバランスを取らざるをえないと思っています。


家人を悪く言うつもりも、子どもたちのせいにするつもりもないのですが、学校に授業参観に行っただけで、子どもが同級生にからかわれて家庭内で騒動になったことはつい最近のことです。


髪型も、服装も、靴も。「家」での私は、「父・夫」の枠からはみ出ることは……今はできていませんし、私は望んでいません。私のような父親(父親になった後にSRSを受けた、などのケース)は、TVでたまに特集されるようになりましたが、そこに至るまで、話し合いを何度も経験しているはずなんです。家族全員が。温和じゃない、かなり感情的なものも当然含めて。


「どうしてこっちに生まれたんだろうな」と、娘にこぼしてしまいます。一緒にほぼ毎日入っていますが、気持ちが落ちているときは、「お前はいいね、女の子に生まれることができて」と詮無いことをもらし、娘に慰められている私、父。サプリメント(プエラリアミリフィカ)も長年摂取して、脂肪だけは大きくついた胸。ムダ毛をすべて脱毛している身体。伸ばした髪。男顔で、別段、女顔でもない私。「歪だな」と自分で思います。なおさら、家人・子ども、義実家など、奇異に映るのも無理はないか、と悲観的になることもあります。


親であることに不満はありません。むしろ感謝と喜びでいっぱいです。

でも、「母」になりたいとか、そういう感情はないのですが、ホルモン治療を受けるにも費用が年間、一生数十万かかり続ける。SRSを受ける受けないにかかわらず、ホルモン治療とはそういうもの。さらに早まる更年期障害、うつ病にかかりやすくなること、「外見でのハンデ」(世間からの外見至上主義、と言い換えてもいいですが)により、圧倒的にMTFの方に自殺者が多い事実。もともと、今もうつ病で闘病中の私には、本音では望んでいても、それを強行できる状況では……ないです。強行して起こりうる家族間での摩擦、さらに必要になる話し合い、それによる心的負担の増大。心が耐えられる気がしません……。金銭的にも、将来抱える健康不安、鬱の不安定さ、そういうものをすべて含めて、きわめて高いハードルです。




2.今の妥協点(服装・髪型など)


今、夫婦で決めていることは以下の通りです。


・家の中では女装しない。マニキュア、アクセサリー含む。

・子供の前では家庭用脱毛器を使用しているところを見せてほしくない

・ホルモン療法については平行線のまま。ただしサプリメント(プエラリアミリフィカ)の摂取はOK。胸が膨らんできていることも知ってるし認めている。

・髪はできたら短くしてほしい(らしい)。本当は男の髪形にしてほしいらしいけど、私はそれは無視し続けている。妥協してショートヘアにしてる。


まあ、職場では制約はないのと同じなので(カジュアルなのは着れませんが)、おもに土日の間だけ我慢すればいいだけだったのですが……このコロナ禍では、ユニセックスな普段着(=レディースです)で過ごすしかなくて、正直、ものっ凄くストレスでした。


私にとって、スカートとヒールの優先順位をつけると、ファッション全体の中では、靴が最上位に来ます。足元って、フェミニンさを出せる自由度が一番高くて、そして大きな割合を占める部分だと思うから。


だから、そのヒールを履けない、というのが私にはもう無理でした。それを知ることができたことも、逆説的ではありますが、発見できて良かったのかもしれません。


普段着のことは少し触れましたが、下着(=ブラ)についてだけは、最近すごく悩んでます。

付けたいんですが……洗えないし家族の前だと絶対につけてるとバレるし…

というのも、胸のぽっちりが、シャツを2枚重ねても分かってしまうからなんですよね……これは恥ずかしいですさすがに。ホルモン療法も受けていないので、乳輪や乳首も大きくはなっていませんが、それでも「脂肪」としては大きくなっているので、そのせいなのか、すごく目立ったり、透けないと思ったら透けたり、暑い時期は余計に困ります。1枚でも着る枚数を減らしたいものの、今までどおりに着こなしていると知らぬ間に胸が透けてたりするので…。

だからヌーブラの中でも、乳輪のまわりだけ隠すタイプのもあるので、最近はそれを使っています。そうするとあまり目立ちませんし。


あと私個人は、下着(=パンツ)は、優先度は一番低い部類になります。履いても実用性がないのと、買うと場所に困る、という点でしょうか。一応マタニティ用のを3枚、職場においてありますし、何度か冬はパンティストッキングを履くために、履いていたこともありますが……家では不必要、です。私には、ですが。


胸はもう少しでも大きくなってほしいなと思いますし、本当は正式なホルモン治療を受けることで、本物の女性の第二次性徴としての胸の発育が起こるのでしょうが、それもかなわぬ夢なので。だからこそ「偽物の胸」という歪なものをつけた自分が嫌になるのですが、それでも、少しでも本物に似せたい、と思い、プエラリアを飲み続ける日々です。副作用があるのも知っています。でも今は、これしかないんですよね。


3.終わりに


今回は少しメンタル面の話が多かったですが、自宅でどういう格好をしているか、とか、それによってどんな問題があるのか、とか、そいうったお話ができた気がします。

同じ境遇の方も、身体の性別が逆であっても、きっといらっしゃると思います。何か共感していただけるといいな、と思います。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る