episode6 森の小人地獄焼

 村長宅を出た私とサリーシャさんは市役所の食事場に来た。


「いらっしゃいませ〜 ってサリーか」


 サリーシャさんと一緒に食事場の給仕をしている子が営業スマイルから素顔になった。


「ナーシャ、今日はお客なんだからちゃんとしてよね」


「はーい、あら、こちらは噂の騎士様ですね!」


 いや、だから騎士じゃ… もういいや。


「堅譲直子ですよろしくね」


「直子さん、こちらこそ〜」


「それで何を召し上がりますか?」


「いつものをお願い」


 考える暇もなくサリーシャさんが答えた。


「あんたも好きだね〜」


「直子さんも同じでいいですか?」


 何が出てくるかだいたい予想つくけどまあ、いいか。


「はい同じでお願いします」


「直子さんも御同類なんですね〜」


 え、なにその意味しげな感じどんな物が出てくるのよ!不安になって来たじゃない。


「ではお待ち下さ〜い」


 ナーシャは厨房に注文を伝えに行った。


「それで直子さん、今後ですがどうされるのですか?」


「うーん、村長のあの様子だと何かやらかしそうだしね〜」


「もうしばらくこの村に居ようかな」


「そうですか…直子さんに居て貰えると心強いですが危険な目に遭うかもですよ?」


「私は大丈夫、このハクちゃんが居るからね」


 崇高の白盾をサリーシャさんに掲げて見せた。


「ハクちゃん…ですか、素敵な盾とは思いますが」


「そうだ、サリーシャさんちょっとこの盾を持ってみて」


 清らかな者しか持てない盾、さてサリーシャさんはどうかな…


「いいのですか大事な盾では?」


「うん、いいの持ってみて」


 サリーシャさんは恐る恐る盾を持ち上げる。


「な、なんですかこれ?すごく軽い!」


 サリーシャさんは盾をまるで鍋の蓋を持ち上げるかの様に軽々と持っていた。


「うんうん、サリーシャさんあなたやはりそうなのね!」


 この盾を問題なく持ち上げるという事は心も清らかと言う事だ。


「え、なんですか?ニヤニヤして」


「その盾は心の綺麗な人しか持てないの」


 身が清らかという所は言わない…


「サリーシャさんは心が綺麗な人だね!」


 なんだかハクちゃんも嬉しそうな感じに見える。ダメよ浮気しちゃ。


 ブルブル


「直子さんこの盾ブルブルしてるんですけど!」


(私は主を守る為に存在しています)


(ありがとうハクちゃん、でもサリーシャさんも危ない時は守ってあげてね)


 ブルブル


「またブルブルした!」


「ん?裏に何か書いてありますね…見た事無い文字だけど」


「あー、盾の銘かな気にしないで」


 そそくさと盾を受け取る。


「サリーシャさん、いつまでも清らかでいてね!」


「なんですか?」


「ううん、なんでもなーい」


「あ、変な男には気をつけてね!」


「直子さんちょっと言ってる意味がわからないんですが?」


「ほら料理来たようよ」


「お待たせしました〜」


「ご注文の鍋、森の小人達こびとたちです」


 テーブルにドン!と置かれた鍋にはマンドラきのこが所狭しと一つを中央にそれを囲むように五つのマンドラきのこが垂直に刺さっていた。


「これはなにかな?」


「森の小人達です」


 ナーシャさんは爽やかな営業スマイルを見せた。鍋に突き刺さったマンドラきのこ達は下半身は汁に浸かって動かないが上半身は元気に動いている。

 中にはケンカしてる感じのきのこまで居る…


「サリーシャさん、これいつものなんですか?」


「はい! 美味しそうですよね!」


 そうか〜?


「ぎっちりわさわさ動いてるけどどうやって食べれば…」


 サリーシャさんは目をキラキラさせてナイフを取って鍋に立っているきのこの一つに狙いをつけた。


 グサッ!


「これをこうして~」


 きのこの胴体を真横からナイフで見事に突き刺しきのこを持ち上げさっと反転させて動いている上部を汁に浸した。

 そのきのこは動かくなった。


「こうすると動かなくなるので他のも同じように…」


 グサッ! クル! ジョボ!

 グサッ! クル! ジョボ!


 真ん中の一つを残し周りのきのこは全てひっくり返され静かになっている。


「これでしばらく熱が通るのを待ってから食べると美味しいですよ」


「ああ、そうなの…」


 サリーシャさんの余りに素早い動きにびっくりして言葉がでなかった。マンドラきのこ見ると性格変わるよね…


「さ、この子はもういいですよ~」


 サリーシャさんはきのこを一つ取り出して私の皿へ仰向けに置いた。


「ささ♡」


 皿に置かれたマンドラきのこはくったりして動かないがこれを切ったらまた動き出しそうで怖い。

 恐る恐る胴部分にナイフ入れて両断した。


「ん~やっぱりこれですよね~」


 私が切るのに躊躇している間にサリーシャさんは2匹目に取り掛かっていた。

 前回食べたのはたしかに美味しかった。観念して小さく切った胴体を口にした。


「クッ、味は美味しいのよね…味は…」


「見た目もかわいいじゃないですか、むぐむぐ」


 3つ目に突入しているサリーシャさん。

 動いていなければかわいいと思えるかもしれないけど。

 中央にあったきのこはまだクネクネ上部が動いている。


「ところで村長宅でのあの攻撃を寄せ付けなかった不思議な力はなんだったのでしょうか?」


 ええ、サリーシャさん今頃?

 何にも言って来なかったから説明しなかったけど…


「あれはその盾、ハクちゃんの能力なのよ」


「そうだったんね、軽いしあれだけの攻撃も全く通さないしすごいですね!」


 そう、ハクちゃんはすごいのよ。


 ブルブル


 ハクちゃんも喜んでいるようだ。


「キメラとか倒せたのもハクちゃんのおかげだしね」


「そうだったんですね、村長宅のあれを見れば信じる事ができますね」


「村長の事は王都へ連絡しておきましたので3、4日で動きがあると思います」


「王都か、サリーシャさん王都から来たんだっけ?」


「はい、村長から警戒されてたね。考えれば王都から派遣されてくれば警戒するわよね」


「そうですね…」


「直子さん実は私はこの村の状況を確認する為の調査官なんです」


「名目は市役所の監査と言う事になってますが」


「そうだよね、こんな田舎に王都から来るんだもの何かあるよね」


「それだけではなくて…」


「失礼しまーす、こちらはサービスの森の小人地獄焼こびとじごくやきで〜す」


「ナーシャさんこれは…?」


 熱々の鉄板に添え物の野菜がちょこんと乗っていてその横に皿に置かれたマンドラきのこが置いてある。

 逃げないように足部分はスープに浸したのか動いていない。

 上側は逃げようとしているのか腕みたいな物を必死にバタバタしていた。


「ナーシャ、この料理初めてだね?またシェフの気まぐれ?」


「そ!貴重な毒… 味見役が二人も居るから張り切っちゃって新料理だって」


 毒味役と言おうとしたな。


「鉄板が熱いうちにきのこを焼いて食べて下さいですって」


「なるほど〜シェフなかなかやるわね」


 そう言うとサリーシャさんはフォークを動き回って居るきのこの腹に突き刺した。

 そのまま熱い鉄板にきのこの背中から押しつけた。

 ギャー! と聴こえて来そうなくらいジュウジュウ言いながらきのこの上半身が悶えて居る。


「うふふ…」


 ちょっとサリーシャさん怖いんですけど!


「直子さん焼けましたよ、どーぞ♡」


 確かにこんがり焼けては居るが…まだピクピク動いてるんですが。


「これまだ動いてるね…」


「マンドラきのこはこの店の秘伝の汁に漬けないと魔力がある限り動きますからね。しっかり熱が入って尚且つ踊り食いが出来るとはシェフもやりますね」


「いあいあ、きのこの踊り食いとかいらないから!」


「普通そうですよね〜 それだったらこのソースをかけて下さい」


 横で見ていたナーシャさんが教えてくれた。

 備え付けで有った黒いソースを動いている部分に回しかけた。

 すると動かなくなった。


「スープを香辛料と煮込んだ物ですって」


 なるほどスープに漬けるのと同じか。

 香ばしい香辛料とスープの香が広がり美味しそうになった。


「最初からこの状態で持って来てもらうといいんだけど…」


「ですよね〜踊り食いで喜ぶのサリーだけだと思うよ」


「そんな事無いよ!このピクピクしてる食感がいいんだから、ね直子さん」


 同意を求められても同意しかねます。


「わ、私は動かない方がいいかな」


「え〜」


 え〜 じゃないわよ可愛い顔してこの子は…

 味は美味しいのが救いだけど。


(ハクちゃん、サリーシャさんを守ってあげないと危ないと思うけど良い方法ないかな?)


(可能ですどのような守護にしますか?)


 可能なんだ、本当になんでもできそうね。


(私と同じ防御壁と攻撃反射、それと何かあった時に知らせが来るようにできるかな?)


(全て可能ですが能力は半減します)


(そうなんだ、襲われた時に逃げられればいいからなんとかなるかな)


(遠隔通信も追加しておきます)


(いいねさすがハクちゃん)


 ブルブル… ポン!


 ハクちゃん!が震えたと思ったら手の平サイズの盾が現れた。やっぱり盾なんだ。

 白地に桜のような花の意匠がついていて可愛らしい。


 ヴゥンッ


  【純愛の加護】

   指定された者を守る

   攻撃を反射する不可視のシールド

   ただし効果は中程度

   崇高の白盾を通して遠隔通話が可能


(おお小さいのにすごいね、中程度のシールドか)


(はい、私の能力を基準とした比較なので中程度でもほとんどの攻撃は防げるはずです)


(いいわね、これを渡せばいいのね?)


(はい、常に所持しているように指示して下さい)


「サリーシャさん、これを常に持っていてね」


 純愛の加護、小さな盾を渡した。


「わー、可愛いですねお守りかなんかですか?」


「そう、サリーシャさんを守ってくれるよ。それと私と遠隔通話ができるみたい」


「ええ!そんな高等な魔法がこの盾でできるんですか?」


 やっぱりそんな魔法もある世界なのね。


「魔法じゃなくて能力みたいだけどね」


「直子さんに話すように念じればいいのでしょうか…」


 そういうと目を閉じて念じている様子。


(主、サリーシャが持つ純愛の加護より遠隔通話がきました。応答しますか?)


(なるほどこうやってハクちゃんを通して来るのね、今後はサリーシャさんの遠隔通話は直接私につなげてくれる?)


(了解しました、それでは応答します)


 ハクちゃんが通話も管理してくれるなら迷惑通話も大丈夫ね。

 そんなのがこの世界であるかはわからないけど。


(直子さん聞こえますか?)


(聞こえているわよ)


(よかった、本当に念じる事で通話ができるんですね!でも繋がったと思ったら違う人の声で「少々お待ちください」と声がしたからびっくりしましたよ)


(ああ、それハクちゃんだよ。ハクちゃんが通話を管理してくれてるの)


(ふおー、ハクちゃん本当にすごいですね!)


 ブルブル


 喜んでいるのかハクちゃんがブルブルしてる。

 でもこれで一応安心だね。


「さて、その盾は攻撃も防いでくれるからちゃんと持っておくようにしてね」


「はい、ありがとうございます!お礼にここの食事代は私が出しますね」


「あら、ありがとう」


 サリーシャさんが支払いを行いこの日はそれぞれの寝屋に戻った。

 疲れていたのかベッドに横になったら直ぐ眠くなってしまった…


(直子さん!!)


「うわ! びっくりした! サリーシャさんからの遠隔通話か」


 完全に寝ていたようだ、今何時だろう?


(サリーシャさんどうしたの?)


(何か家の周りを囲まれているみたいでそちらはどうですか?)


「ハクちゃんどう?」


(宿の周りは特に問題ありません)


 ふむ、サリーシャの方から来たか。


(こっちは大丈夫、今からそっち行くから場所を教えて)


(ええと、場所は… きゃー!)


 これは襲われたかな?

 急いでサリーシャさんの所へ向かいましょう!

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