第3話


「さぁ!ユリアに謝れ!!! 這いつくばって許しを請えば許さない事も無いぞ!なにしろ、我々は寛大なだからな!!!」



言っている事が支離滅裂なのですが……。

複数で寄ってたかって女性一人を糾弾するなど、紳士の風上にも置けません。

そのうえ、マナーもなってません。

彼らは本当に貴族出身なのでしょうか?

些か疑問です。



「早くしろ!!!」



イライラし始めている殿下と、私を見ながらニヤニヤしている側近達。

殿下とユリア嬢の後ろに控えている側近達にも確か婚約者がいたはずですが……あらあら、婚約者の令嬢達は退席し始めております。中々、察しの良い令嬢達ですわ。貴族は逃げ足も速くなければ生き残れませんからね。恐らく、各家で婚約解消の手続きでも始めるのではないかしら。



「グズグズするな!!!」



鼻息荒く仰いますが、殿下は御自分の立場をご存知ないのでしょうか?

会場にいる帝国人が困惑気味でいる訳も理解できていないに違いありません。

いいえ、その前に、彼らや彼女達の冷たい視線にも気が付いていませんね。


仕方ありません。

ここは私が訂正してさし上げましょう。



「少々よろしいでしょうか?」


ニッコリ微笑みながら言うと、まあ、煩いこと。



「今更なんだ!いい訳か!? はっ!!! 弁明など遅いぞ! だが、まあいい。本来ならこのまま牢に入れるところだが、寛大にもお前の弁明を聞いてやろう!」

「キャ――! 流石、ヨーゼフ様!!! 悪女そのもののカロリーナにも慈悲の心を見せるなんて!」

「はははははっ!そうだろう、そうだろう。私は未来の皇帝だからな!!! 愚かな民にも慈悲を忘れないんだ!!!」

「素敵です!ヨーゼフ様!」

「さあ、悪女カロリーナ! 存分に愚にもつかない足掻きを言ってみろ!!!」



溜息が漏れそうになりましたがグッと我慢しました。これも『皇太子妃教育』の賜物です。

それにしても、彼らの頭の中は一体どうなっているのでしょうか? 多少の事では崩れないアルカイックスマイルが引きつりそうです。


私は、扇子で口元を隠しながら伝える事にしました。

そうでもしないと表情がまるわかりになってしまいそうなのです。としての鉄壁のポーカーフェイスを崩せる彼らはある意味で凄いですわ。見習いたくはありませんけれど。



「それでは言いますが、ヨーゼフ殿下、あなたは根本的なことを間違っていますわ」

「なんだと!? ユリアを虐めていた事は間違いだとでも言うのか!!! 笑止千万!!! こちらには証拠も証言者もいるのだぞ!!!」

そんなことユリアの虐めはどうでもいいのです」

「なっ!?」

「問題は、ヨーゼフ殿下が皇帝になるという事です」

「?何も間違ってはいないぞ?私は皇太子なのだからな!」

「確かに、ヨーゼフ殿下はではありますが、皇帝にはなれませんよ?」

「はあ~~~~っ!?」

「あなたは飽く迄も、皇太子止まり。それも私と結婚しなければ皇太子にはなれない存在です」

「な、な、な……に?」



驚き過ぎて言葉が出ないようです。

扇子で口元を覆っておいてよかった。

そうでなければ、呆れ果てた表情を隠せなかったでしょうから。



「なにか勘違いをなさっておいでのようですが、ヨーゼフ殿下は帝国人ではありません。私と結婚して初めて帝国人と名乗れるのです」

「……(絶句)」

「ヨーゼフ殿下は帝国から三つほど離れた国の王子です。当然、祖国に国籍が存在しております。帝国は二重国籍を禁止していますから、私との婚姻届けの提出をしない限り、帝国国籍を取得する事はできません」

「…だ、だが私は帝国の皇帝になると……」

「皇帝ではなく『皇太子候補』です」

「?『皇太子』はいずれ『皇帝』になるものだろう???」

「そこからですか」


もしやとは思っていましたけれど……これは。

側近達もヨーゼフ殿下同様に困惑顔のまま。

幼少期から帝国で暮らしているからといって、何故、帝国人だと思い込んでいるのか理解できません。御国許で説明を受けてこなかったのでしょうか?滞在先が王城だから勘違いをしたのですか?まさかね、それは有りえませんでしょう。幾ら王城に住まわせて貰っているからといってそんな肥大妄想はしないでしょう。私の婚約者だからこそ王城に住む事を許されているのですから。それに、王城といっても、離宮の一つを貸し与えているだけですからね。



「ヨーゼフ殿下、そして側近の方々にも分かり易く御説明させていただきますわね。

そもそも、ヨーゼフ殿下は私と婚姻を果たしてこそ正式に『皇太子位』に立つことができます。

ですが、それが必ずしも『未来の皇帝』になるものでは無いのです。

現皇帝の跡継ぎは飽く迄も、私が産む皇子。ヨーゼフ殿下はその繋ぎに過ぎません」


流石に、ここまで明け透けに教えれば嫌でも理解できるというものです。

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