第2話 電車内と電車外の狭間

学生時代、電車に座ることが、僕の一つの使命みたいなところがあった。というのも、電車が停まる駅ではあまり乗客は降りなく、逆に乗車する人の方が多く、徐々に満員状態になるからだ。そしてある程度降りるような駅まで2・30分かかる。つまり、座席に座われなければずっと立ったままなのである。


「そのくらい立ってればいいじゃない」


そう思う方も多いでしょうが、僕の場合は肝心な時に忘れ物をするという謎の習性があり、マリーアントワネットではないが、


「忘れる可能性があるのなら、毎回持っていけばいいじゃない!!」


という理論に達し、常にリュックサックはパンパンで重かった。というわけでとにかく座りたいのだ。だがしかし、そこには強敵がいた。


「クソBBA」


である。この「クソBBA」というのは電車から降りる人を、わざと端の方(僕の方)から降りるように順番を待つのである。そうするといつまで経っても降客の列が途切れず、その隙に乗車をし、座席に座るという、まるで『ラーメン屋で食べ終わる前にハエをワザと入れていちゃもんをつける』、そのような卑劣極まりない行為である。更に更に更に、仲間連れの際には、ガニ股で席を確保するという、まるで『床屋に行って、髪を切った後にもうちょい長くしてくれや』と言うくらいゲスだ!


しかし、私も負けてはいない。仮にも席を取られたとしてもパンパンのリュックサックを前にかけるのだ、そう、まるで赤ん坊をおんぶする様に。そうすると目の前にパンパンのリュックサック。圧迫感が凄いだろう。普段はこんな陰湿な事はしない。だが、陰湿なことをされたら陰湿な事で返す。やられ損だけは昔から嫌いなのだ。すると何十回か繰り返していると「クソBBA」が


「ちょっと、邪魔なんだけど」


と言ってきた。甘い、甘いねぇ。紅茶の底に沈んでいる砂糖より甘い。


「いえ、背負っていると後ろの方に当たってしまうので」


「じゃあ下に置きなさいよ!」


「買ったばかりなので」


「新品じゃないじゃない!!」


「『買ったばかり』なだけで『新品』とは申し上げてませんが」


「屁理屈じゃない!!」


「あの、他の乗客の方に迷惑だと思わないんですか?」


僕の戦略は功を奏す。隣にいた赤ん坊が泣き出したのだ。「クソBBA」の声で。その「クソBBA」はバツが悪くなったのか、いつも降りる駅ではなく、それよりも遥かに前の駅で降りた。席が一つ空いた。僕は座るつもりはない。赤ん坊を抱えていたお母さんに


「赤ちゃんを泣かせてしまい申し訳ございません。席が空きましたので、どうぞ」


お母さんはびっくりした顔をしていたが、お辞儀をして座席に座った。そしてバッグを床に置いた。やられたらやり返さないと分からない人がいる。そういう人がいないような世の中になればいいのになぁ。まぁ、僕もやり方は陰湿でしたけども(笑)


以上!!

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