第8話 私の選んだ道

※715視点




それは数年前の事だった。


「ナイゴさん、そろそろアンタも違う仕事するのかい?」

「けっこう鍛冶屋を気に入っているので、どうしようかと」

「『勇者』は皆いい仕事をするからどこでも何しても生きれるだろうよ」


ある日、突然だった



「主人がっ道中で獣に襲われて!」

「え」


雇い主だった鍛冶屋の魔族が、突然死んでしまった。

街の中で唯一という訳ではないが、それでも買いに来る客は頭を抱えていた。

良い物をちゃんと適正価格で売ってくれる店という信頼こそ、この世界では重要だ。

安物を売ってぼったくるかもしれない店にこれからは行かねばならない。


『困ったわねぇ』

「大丈夫ですよ、店はつづけますから」

『でも『勇者様』でしょ?どこにいっても、やっていけるじゃないの』

「何もかも出来るならば、鍛冶屋もつとまるだけですよ」


親方への恩や、自分を白い目で見ない街の人々が好きだった。



―――――――――――――――――――――――――――――



そして今、目の前に問題児がいる。


「裏路地で何を?」

「お仕事、出来そうか見に行こうかなって」

「肉体労働ですか?」

「うーん、多分そう、かな?でも、お金持ちがいる所でないと仕事ないかも……」


心あたりとして浮かぶのは前の世界で『肉体労働』をしていた者たち。


デパートなど細かい場所ではホバー車が入れず、クローンに『乗って』移動するなど嫌な記憶ばかりである。


「鍛冶屋とか興味あります?どこも人手不足で、人員が足りないんですよ」

「えっと、声かけてくれたのは嬉しいけど僕は普通の仕事、出来なくて」

「病気……か、あっ!?」


そうだ、この人の一人称『私』になっていない『僕』だ。

6000番台の顔をしているのに言葉が違う理由に思い当たる事はいくつかある、中でもエラーを起こした欠陥品なのであれば知能が足りず肉体労働の中でも簡単な仕事しか出来ないと言っている事に納得できる。


「もしかして、貴方……」

「あ、お客さん」

「今日は騒がしいねぇ」

「いらっしゃいませ、ルイズ様」


近くで布屋を営むご婦人であり、よく来てくれる客の一人である。


「南瓜が硬すぎて、使った包丁が折れちまってね」

「では硬いものでも折れにくい品がありますで、それをお渡しします」


少し奥まった場所にある包丁入れを開けた、表に出ている包丁では硬すぎる物では折れてしまう危険があった為である。といっても別に悪いものを出してはおらず、ジャガイモや人参といった野菜をきるのであれば切れ味は鋭く切りやすい種類が表には出してあるのだ。


「ありがとねぇ」

「いえ……これくらい」


問題児は、店から姿を消していた。

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