第5話 選択する自由

例え奴隷でも、大金持ちか貧乏人かで大きく意味が異なってくる。


「魔王様に気に入られた、と感じるような出来事でも?」


この質問は最もで、魔王が優しい事を勘違いしているだけではないかと疑ったのである。

勇者は皆が人間扱いされる事に慣れていない為にすぐにほだされてしまいがちなのだ。


「えっと、優しかったから」

「魔王様は誰にでも……」

「あとキスされたから、そうなのかと」


いよいよ本当に気に入られていると思える発言が出て来た。


「もし娼夫をやるのであれば魔王様の妾の方が確かに、よき思いはできるでしょう……が」

「が?」

「仕事は豊富ですし人手はいつでも貴重です、嫌ならば断って大丈夫ですよ」

「断る、え?」

「メイドを探しておりますので、もしも魔王様の妾が嫌になればいつでもどうぞ」



――――――――――――――――――――




夜、約束通り部屋へ魔王がやってきた。

その様子は慌てており、ノックも大変あらあらしく返事も聞かずにドアは開いた。



「6024!」

「はい」

「先ほど、とんでもない勘違いを……その、していると聞いたんだ」

「勘違いですか?」

「俺はお前を玩具にはしたくない」


言葉の真意はわからずとも、抱く気が無い事は確かに伝わった。


「え、お仕事が……無いんですか?」

「本当に娼婦をやる気なのか!?」

「それしか、僕には」

「魔族や人間との戦闘が嫌だったりするか!?大丈夫だ、他の仕事は山ほどあるから」

「もしかして、今まで愛玩用のクローンってこの世界に来て無くて、会った事がないの?」

「あ……まぁ、その教育を受けた者はまだ『この世界』に今までだれも来てない」


納得がいった、どおりで皆『おかしな反応』をする訳だと


「僕たち、愛玩用の教育されたクローンは、愛されないと自動で脳が停止します」

「え」

「こっちの世界に来た時、鏡をみてまるで同じ姿で……教育の作用もおなじなら、僕には玩具になる選択肢の他が無いよ」

「そん、な」

「でも大丈夫、元々慣れてるから平気」


どうして、言わなかったじゃないか、と小声で魔王がブツブツと呟いた


「それで、このベッドってどこにプラグがあるんです?」

「無い」

「なら飾りベッドなんですね」

「ふー……いいや、毎日ここで『眠る』ための物だ」

「毎日!?」

「マニュアルにあっただろう?」

「『夜はベッドで寝る』ってあったけど、毎晩なの?」

「先にこの質問に応えろ、お前はどれ程の期間抱かれなくても脳が保てる?」

「2週間程度だよ」

「良かった……それほど長い期間なのだな」

「皆、優しそうだから一人くらい抱いてくれるかも」



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