第2話 異世界の勇者




目が覚めたのは、とても日本とは思えない科学の欠片も見えない部屋だった。


「ここは、一体?」


死んだ筈の自分の喉から声は出る、息もしている。

地面に描かれているのは『魔法陣』で見覚えがあった。


「まさか、でも」


異世界に転生する魔法が成功した、という事だろうか?

恐る恐る外に出てみると広い空間と武装をした兵たちが待ち構えていた。


「ひっ」

『また転生者か、ああ心配するな、魔王様に忠実であれば問題はない』

「魔王、って」

『ついて来い、殺されたくはないだろう?』


槍を突き付けられ、仕方なく兵士のあとについて歩いた。

廊下には自動歩行器も無ければ、空には何も浮かんでいる物を見る事がなく青々とした色が見えた。

非常に美しく、もし殺されたとしても得をしたかもしれないと思える程であった。





『魔王様、異世界転生者を連れてきました』


重そうな扉を手動で開けると、長く赤いじゅうたんとその先に豪華な椅子。

鎮座するのは黒い髪と赤い瞳を持つ派手な服で着飾ったメガネの男性だった。

どうやら偉い立場ある事は理解できたので兵士と同じように跪いた。


「お前は……許可する、名乗れ」

「ええと、ロクです」

「偽名だな」


確かに名前の一部なので嘘ではないのだが、即刻見抜かれてしまった。


『不思議に思うだろうが、ロクはこの世界に来る勇者がよく使う偽名なのだ』

「ゆう、しゃ?」


教育で知ってはいる、何やらすごい能力を持って大魔王を倒す架空の存在。

しかし架空といっても現在の状況では何が常識なのか一切不明である。

もしかしたら虚偽は通じないかもしれない。


「早くしろ」

「6024と申します」

「……そう、か。ではいつも通り、部屋に案内してやってほしい」

『かしこまりました、魔王様』


兵士に案内され、部屋だと案内された。


『ベッドにでも座っているといい、少し待つと説明係がくる』

「分かりました」


指をさした『ベッド』とやらは、やはりXXX年前の木や布で出来ていて彼にとってベッドというのは脳メンテナンス装置を指す為に不思議に思った。

ただこれは『洗濯』をする単に川まで昔は行っていたのを現代人が映画なりで実際目にするのと変わりない程度の事だ。


コンコン、ノックの音とともにまたも黒髪で今度は青い瞳の男だった。


「失礼します、私は大魔王様の側近をしておりますイチと申します」

「6024です」

「お気軽にイチさんとお呼びください、それとこちらをどうぞ」


差し出されたものはコップで、何かの液体が入っていた。


「本物のコップだ……」

「飲み物ですので、どうぞ」

「飲料だったんですね」


ぐいっと喉に流し込んで、お茶味に似ているという感想を抱く。


「あなたはこの世界で、悪さをする魔族を倒さなければなりません」

「悪さ?」

「殺害や、暴力で支配を企む者たちなどですね」

「それは『人間』に対してですか?」

「魔族も含みます、私たちは魔族ですから」


イチは様々なことを6024に話した。

城にはたくさんの魔族がいて、兵士もいれば自分のように事務作業をする者もいて部屋から出て突き当りにはトイレがある事。

この世界は『科学』ではなく『魔法の世界』であり生物はみんな魔法から生まれてくる事も。中でも勇者限定で召喚する魔法陣があり、そこからは6024と同じ容姿をした者たちが今までたくさん出てきた。


「おっと、申し訳ないのですが私このあと少々用事がございまして」

「僕に構わなくて大丈夫ですよ」

「あとは魔王の奴にでも……魔王様にお聞きください」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る