第3話
午前10時20分。
東大学総合棟401室にて。
「よぉ、翔!」
「……あぁ」
二限目からある必修科目の講義にきていた翔の頭をバシッと叩いたのは中学からの腐れ縁、鈴木達也だった。
容姿は中の上と言った感じ。
髪色は大学デビューで金髪に染めていて、服装も高校時代の学ランと比べたら見るも無残なほどに派手になっている。
ちなみに今日はダメージジーンズに革ジャン、その中にはグッチッチのネックレス。ブランド品バーゲンセールで買ったらしい。
もはや借金取りやら不良やら言われてもおかしくない服装だが、達也の性格相まってどっこいどっこいと言った感じだ。
とまあ——とにかく、親友でもあり昔馴染み、腐れ縁の男友達である。
「——って、俺の頭叩くなよ」
「何言ってんだよ、っはは! いつもことじゃん?」
「よくないって、まじで。禿げるから」
「なわけっ! 我らが誇り高き理系学生として言うが、それのエビデンスはあるのかい?」
「俺の祖父かな……」
「ばーか、んなのデータにもならんわ!」
バシッともう一発。
一応、翔の家系は晩年頭がツルッパゲになっているし、個人的には今はふさふさな子の頭もいずれ禿げると思っている。だからこそ、もっと労わってほしいのだ。
(というかまじで加減を知らんのよなぁ、こいつ。パンチ痛いし)
「じゃあお前の白髪はなんだよ……」
「ははっ、これは遺伝だ!」
「馬鹿、それと一緒じゃねえか」
「……勘のいいガキは嫌いだよ」
「タッ〇ーかよ」
「うっせぇわ」
さらに一発。
流行りの歌と共にチョップが脳天を直撃した。
うげっ。と間抜けな声が出たが、生憎昨日のセックスインザライフのせいで頭痛に悩まされて突っ込むことができなかった。
(俺って実はち〇こなのか?)とも思ってしまいそうなくらい昨日は下半身で考えてたし、いや、そう見ると自分ってかなり可愛いかもしれない。葵も可愛かったけど、あぁ、俺のあそこって美少女だっt——(殴)
(そう言えばそんな漫画が最近あったなぁ)
「それにしても……お前、体調悪いのか?」
「寝不足だよっ」
「ははっ! 馬鹿言え、昨日めっちゃ早く帰ってじゃんかよぉ。お前バイトは毎週月水土だろ、しかも夜だし——てか昨日は木曜だしな?」
「っ——別に」
ぼそっと否定を挟む。
しかし、それが裏目に出て事情を何も知らないはずの達也は翔の顔を見るなり「ははーん」と怪しんだ。
「おぉ、まさかぁ————!」
「だからちがっ――」
「————っ振替か?」
「は?」
「いやぁ、お前って案外さ、優しい所もあるからよぉ、後輩やら先輩が都合悪くなってバイトを変わってやったんだろ? ほら、個別教師って結構あれなんだろ、替えがいないって言うし」
何を言ってるんだか、翔はそう思うと同時に安心した。
まったく、こいつは変なところで勘が弱い。この前もそうだったが葵と歩いていて、「教え子なのか?」とか抜かしてやがったし。
というか教え子の方がもっとやばいだろ。教師と言う立場でそれは。ちゃんとものを考えて言っているのか、こいつは。一応この大学にいるし勉強はできるのだが——肝心なところで頭が弱い。
いわゆる馬鹿ってやつだ。
まあ、とりあえず肩の荷は下りたしそういうことで通しておく方がいいだろうと考えて、翔は「あぁ」と頷いた。
「やっぱりな!」
「何が嬉しいんだよ?」
「いやぁ、腐れ縁が優しい奴で何よりだよって」
「……そう言って奢ってもらう気なんだろ? 今日の昼」
「ははっ! ははっ‼‼ ば、ばかっ―—なわけ……あるかよぉ……うぅ」
やや睨みをきかせながら詰めると達也はガクッと腰を落とした。まるで合格発表に来て最悪を知らされてしまった受験生のような面持ちで涙を流す。
「はぁ……まぁ、いいや。なんだよ、何があった? 聞いてやるから」
「ほんとか!! まじか⁉ いいのか!!⁇」
コンボみたいに聞き返すな、笑っちゃうから。
「あぁ、いいぞ」
「それがなぁ―—」
そうして講義が始まるまでの10分間。俺はただただ男の要らぬ相談を聞き流すことになった。
内容はもちろんパチンコ。
バイト代が入ったから気合で4パチ入ったら結果的に大負けしたらしい。5万円がチャラになったと——こちとらどうでもよすぎて勘弁してほしいくらいだ。
それに今月は残った1000円で生活していくらしい……がいつものことだ。
「まぁ、いいよ。今日の昼は奢ってやる」
「ほ、ほんとか⁉」
「ちなみに、白米とみそ汁だけな」
「うぐっ」
「馬鹿言え、それ以外は高くて俺も無理だっ」
「っちぇ、個別教師で稼いでるくせによぉ。ケチだなぁ」
「稼いでねぇ、俺は奨学金も少し借りてるからそれもあるんだよ……だいたい、文句言うなら奢んねえぞ?」
「そ、それだけは勘弁!!」
「じゃあ言うな」
「りょ、了解しました!! サー!!」
縋りつく腐れ縁。
ほんと情けないったらありゃしない。悪い奴ではないが——こうだから彼女も出来ないってんだ。
そう思いつつも翔は背筋がビクッとなる。
「はぁ」
「ん、どうしたよ……翔?」
「80円が勿体ないってな」
「いいじゃねえか、そのくらい!」
「おごらないz」
「なんでもありません、すみませんでした、我らが翔様っ
「和尚はやめろよ……」
こうやって実に純粋で根は優しい腐れ縁を見ると嫌になる。
今までも普通に生きてきたが度々、自己嫌悪に駆られることがあった高峰翔は今度ばかりはその重みに押しつぶされそうになっていた。
(俺は付き合ってもない女とやってしまったんだからな……どんな顔して会えばいいんだ、まったく)
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