第40話 僕とクリスマス⑦


「丸井はゲームセンターよく来るの?」


「まあ、たまに」


 好きなアニメのフィギュアがどうしても欲しいときなんかに来ることがあるけど、本当にたまにぐらいの頻度だ。


「宮村さんは来なさそうですね」


「そうでもないよ。放課後とかに寄ったりするし」


 はえー、意外だ。


「プリクラとか撮りにね。ゲームはほとんどしたことない」


 僕の気持ちを察したのか宮村さんは付け足すように言った。

 

「なるほど」


 今の時代、スマホのアプリで十分盛れるだろうに、それでもプリクラという文化は廃れない。


 きっと何かが違うんだろうな。

 何が違うのかは見当もつかないけれど。

 

「丸井はゲーム何するの?」


「基本的にはクレーンゲームですね。アーケードゲームはあんまりです。手を出すとキリがありませんから」


「クレーンゲームかあ。あたし苦手なんだよね」


 どうして宮村さんがそんな話をし出したのかと言うと、イルミネーションの点灯までまだ少しあるので、時間を潰そうとゲームセンターに立ち寄ったからだ。


 ちなみに宮村さんにはイルミネーションを見るということは伝えていない。

 何となく、断られたら嫌だなあという気持ちで言い出せなかった。


 宮村さんは宮村さんでどうするのか訊いてこなかった。完全に僕のプロデュースに任せる方針に切り替えたのかもしれない。


 ともすれば、責任重大である。


「別に僕も得意というわけではないですけど」


 宮村さんがクレーンゲームコーナーへ向かったので、僕はそれについていく。

 お菓子が積まれた台や有名なアニメのグッズなどが入口付近には置かれている。


 僕らオタクが好むようなコアなアニメのフィギュアなんかは恐らく二階だろう。


「あ」


 そのとき、宮村さんが何かを見つける。彼女が近づいたのは大きい台とは異なる小さめのクレーンゲームだ。もちろん景品も小さい。


「これ可愛くない?」


「可愛い……ですかね」


 女子は基本的に口を開けば可愛いという感想を漏らすが、その意見に同意する機会は中々ない。

 ここで何も考えずに「えーかわいいー」と言える奴が女子と仲良くなれるのだろうか。


「これなんでしたっけ」


「バーニーとバーミー」


「えっと」


「アニフレだよ。まさか知らないの?」


 ああ、そうだ。

 アニマルフレンズだ。某夢の国であるドリーミーランドの中で見るキャラクターだよな確か。

 だからか、女子に人気がある。


「キャラクターは知ってましたけど、名前までは分かりませんでしたね」

 

 薄い緑の毛のうさぎがバーニーで、薄い桃色の毛のうさぎがバーミーだったはずだ。


 クリスマス仕様でペアルックを着ている。カップルとかがこれを取って部屋に飾ったりするんだろうな。それか各々カバンにつけるみたいな。


「これやってい?」


「苦手って言ってませんでしたっけ?」


「大きいのよりは簡単に取れるでしょ」


 そうなんだろうけど。

 だからといって簡単ではないと思うけど。


 コインを投入する宮村さんを後ろから見守ることにした。

 でも台によっては簡単に取れたりもするからやってみないと分からないんだよな。


「んんー」


 唸りながら宮村さんは前から横から中を覗き込む。シミュレーションは大事だからね。

 そして意を決してボタンを押す。まずは横の動きを操作して照準を合わせる。


 ここを間違えればもう終わりだが、果たしてどうだろう。


「お」


 悪くない。

 あとは縦の操作を間違えなければアームの強さ次第では一発取りも夢ではない。


「よし」


 宮村さんが小さく呟く。

 確かに縦の位置もいい感じだ。でもクレーンゲームは基本的に一回では取らせないようにアームの力を弱めている。


 アームが開き、真下にあるぬいぐるみ目掛けて降りていく。そしてぬいぐるみを掴み、上昇する。


「いい感じじゃない?」


「そうですね」


 上昇し切ったときの揺れで落とすかどうかなんだよな。


 上昇したアームが揺れたが、ぬいぐるみを落とすことはなかった。つまり、宮村さんは一発でぬいぐるみをゲットしたのだ。


「やった! 一発で取れたっ!」


「クリスマスだからサービス甘いのかな」


「あたしの腕を褒めようよ」


 随分太っ腹なゲームセンターだな。


 僕が感心していると宮村さんが取出口から出したぬいぐるみを僕に渡してくる。


 持っとけという意味だと汲み取った僕はそれを受け取る。


 驚いたことに、宮村さんはさらにコインを投入した。


「もう一回やるんですか?」


「うん」


 ふんふんと何かの歌をハミングしながらボタンを押す。一度取れたことにより自信に溢れている。


 慣れた手付きでポンポンとボタンを押す。さすがにそう上手くはいかないようで、アームはぬいぐるみを掴むことなく空を切る。


「あれ」


「落ち着いていきましょう」


「……うん」


 気持ちを入れ替えて再チャレンジする宮村さん。しかし、中々上手くいかず失敗が続く。


 最初の一回がミラクルだったようで、五度目のチャレンジに失敗したときにはすっかり元気を失っていた。


「あの、僕もやってみますよ」


 これ以上は見てられない。

 僕の言葉に宮村さんは力なく頷いて場所を譲ってくれる。


 油断はせず、しっかり集中して操作する。アームの力はそれなりにあったから、場所を間違えなければ取れそうだ。


「がんばれ、丸井」


 アームはぬいぐるみを捕え、そのまま持ち上げる。揺れを乗り越え、取出口へぬいぐるみを落とした。


「やった!」


 宮村さんは取出口からぬいぐるみを取り出す。


「バーミーちょうだい?」


「あ、はい」


 そういえば預かっていたのを忘れていた。僕はカバンからバーミーのぬいぐるみを取って、宮村さんに渡す。


「ありがと。じゃあ、これあげる」


 バーミーを受け取った宮村さんは手に持っていたバーニーのぬいぐるみを僕に渡してきた。


「え、でも」


「いいの。あげる」


 無理やり渡してきたので僕はそれを受け取る。


「ありがとう、ございます」


「……うん」


 これってあれだよな。

 お揃いってやつ。いや違うか、あれは同じものを持って初めてお揃いと言えるわけだし。

 これは種類が違うからお揃いにはならないはずだ。


 宮村さんもきっとそこまで考えてはいないだろうし。でも、貰えて嬉しいことに変わりはない。


「カバンとかにつけるといいよ?」


「それはどうなんでしょう」


 バーニーのぬいぐるみをカバンにつけるのは、僕のキャラじゃないと思うんだよなあ。

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